自動運転走行中

国内外問わず、さまざまな業態で自動運転の実証実験が行われている。官民一体の取り組みとして進められていることもあり、自動運転を本格導入する自治体も増えている。

ここではあらためて自動運転とは何かをふりかえりつつ、自動運転を導入することで、どのようなメリットがあるのかを、安全性、交通の効率化、環境負荷低減、経済的利益の確保という側面から解説していく。 

自動運転の基本

自動運転はさまざまな業態で本格導入されている。導入を前提にした実証実験を含めるとかなりの数になる。具体的な業種でいうと例えば、十分な公共交通サービスが整ってない過疎地域などに対して、自治体が自動運転バスを導入するといったケースだ。 

国土交通省の資料によれば、自動運転とは「運転者ではなくシステムが、運転操作に関わる認知、判断、操作のすべてを代替して行い、車両を自動で走らせること」と定義している。自動運転レベルについては後述するが、自動運転が可能な自動運転とはレベル3以上の車両が該当する。 

そもそも、人間が運転中に行っている「認知」「判断」「制御(操作)」をコンピュータが代替することで自動運転が成り立つ。 

「認知」とは、車両に取り付けられた各種センサーが、自動運転を正しく安全に走行しているかと同時に車両周辺の歩行者や道路標識などの環境を検知し、脳の役割を担うAIが電気信号で車両に対し制御命令を出していくために必要な情報を確認している 

「判断」では、AI技術を用いて走行レーンの選択や、ステアリングコントロール、加減速の操縦を決めていく。道路状況に応じて柔軟にすばやく安全に判断を下す能力が不可欠となる。 

「制御(操作)」では、AIが下した判断に従ってステアリングやアクセルペダル、ブレーキペダルなどをコントロールする。AIによって出された電気信号を機械的な動作に変えるアクチュエーターに送り、車両の制御を実施する。 

自動運転のレベル

自動運転は、日本国内では運転タスクの主体や走行領域に応じてレベル0~5の6段階に分けられている。米国の非営利団体「SAE(米国自動車技術会/Society of Automotive Engineers)」の策定した規定を日本でも採用している。 

自動運転レベル分け

自動運転のレベル分けについて(出典:国土交通省「自動運転のレベル分けについて」 

前述の通り、レベル3以上の車両が自動運転に該当するものの、これまでにレベル3に対応した市販車が販売されたのは、2016年に登場したアウディ「R8」、2020年にオリンピックに向けて登場したホンダ「レジェンド」など数えるほどしかなく、自動運転レベル4のシステムが搭載された市販車はまだない(2023年9月時点)。市販車でレベル3以上を実現するにはまだ時間を要するのが実情となっている。

自動運転を導入するメリット

自動運転の導入は交通ルール遵守による安全性の向上、交通の効率化、環境負荷低減、経済的利益の確保といった多くの導入メリットがある。ここからは、それぞれのメリットを具体的に解説する。 

交通事故の減少と予防

自動運転が普及することで交通事故の減少が期待されている。加えて交通事故を未然に防げる「事故の予防」にもつながる。 

警察庁によれば令和5年(2023年)中の交通事故による負傷者数は2万7,636人。統計を取り始めた昭和23年(1948年)以降、最も負傷者が多かった平成16年(2004年)は118万3,617人。このときから比べれば格段に少なくなっているが、決して少ないとはいえない。交通事故の原因として挙げられているのが、運転操作不適や漫然運転、脇見運転、信号無視、一時不停止などの違反だ。交通事故による死者や負傷者を減らすためには、違反や運転中の人的ミスを徹底的に減らす必要がある。ここに自動運転が大きく貢献できる可能性がある。 

交通事故や労働災害でいわれる経験則のひとつに「ハインリッヒの法則」がある。交通死亡・重傷事故などの重大な事故が1件発生した場合、その背景には29件の軽微な事故(死亡には至らない物損事故など)が起きており、さらにその背景には300件ものヒヤリ・ハット(交通事故一歩手前の状況)が起きているといわれ、そのヒヤリハットの背景には無数の交通違反があるとされている。 

ハインリッヒの法則

交通死亡・重傷事故を減らすためには、無数にあるといわれている交通違反をできるだけ発生させないことが重要となるわけだが、自動運転が普及し、仮に走行するすべての車両が自動運転レベル4になったとすれば、特定領域の範囲内で「運転者の違反」が発生しにくくなる。当然交通事故による死亡者、重症者、負傷者の大幅減少期待できるわけだ 

交通の効率化と公共交通の向上

次に期待されるメリットは渋滞の緩和や交通の利便性向上交通渋滞の主な原因としては、短い車間距離や極端かつ頻繁な加減速にある。よくいわれるのが、緩やかな上り坂に差しかかった高速道路やトンネルの出入り口付近だ。 

こういった場面でも、自動運転が普及すれば、一定の車間距離を保ちつつ、加減速も少なくなり、渋滞の発生を抑制することが期待できる。 

また、公共交通機関が十分に整っていない地域では、公共バスやタクシーの利用が一般的だが、ドライバーの高齢化によってサービスの継続が困難になりつつある。自動運転によってドライバーが不要になれば、少なくてもドライバー不足という問題は解消していく。公共交通サービス継続でき、利便性向上を見込める可能性が高くなるのだ 

自動運転化で環境に及ぼす影響を低減

自動運転は、平滑で効率的な走行が可能とな排出ガス削減期待できる。EVや水素自動車であればそもそも排出ガスの心配は不要だが、ガソリン車の場合、燃費を改善できるというメリットがある。 

もちろん今後は自動運転が可能なEVや水素自動車の普及見込まれるものの、ガソリン車の販売が完全になくなることはないと予想されている。そう考えると、今後発売されるガソリン車自動運転対応していけ環境に及ぼす影響少なくなるのはメリットだ。 

特に大都市圏では大気質の改善や気候変動の緩和が期待できるため、幅広い環境保全活動にも良い影響を与えることになる。 

スマートシティの実現に欠かせない自動運転

自動運転の普及は、車両だけではなく、それを支えるインフラやサービスにおいて新たなビジネス機会を創出することもある。例えば、自動運転タクシーや配送サービス、車両の遠隔監視・管理サービス、交通システムの最適化ソリューションなど、多岐にわたる新たな市場が出現する。これらの新サービスは、IT、通信、物流、観光、ヘルスケア(医療)、スポーツ、広告、テーマパーク、エンターテイメントなど、多様な分野で新たな雇用を生み出し、経済成長に大きく寄与するといわれている。 

デジタル技術を駆使して、都市のインフラや公共施設などの業務を最適化することで、そこで生活する、あるいは働く人々の利便性を大きく向上させるこうしたスマートシティの実現に自動運転は欠かせない存在になっている 

国内外の自動運転システム導入事例

常陸太田実証実験

常陸太田の自動運転バスの定常運行の様子 

自動運転レベル4に向けた実証実験は、公道はもちろん実用性の高い空港などの一部のエリアで進められてきた。 

2021年2月には羽田空港で、2022年2月には成田空港で実証実験が行われた。2023年5月には福井県永平寺町にて国内初の一般道での自動運転レベル4の運行が開始。また、2024年3月には常陸太田市で市内中心部を周遊する自動運転EVバスの定常運行も始まっている。 

また、海外でも自動運転レベル4の実証実験や導入事例が公表されている。 
中国 北京ではインターネット大手のバイドゥが2023年3月から、アメリカ サンフランシスコではウェイモとGMクルーズが2022年6月から、それぞれ自動運転タクシーの運行を開始している。 

物流サービスにおいても海外の事例が多い。中国では2021年12月、自動運転技術を開発するPONY.AIが自動運転レベル4のシステムを搭載したトラックの実証実験を中国国内で初めて実施。アメリカでは2019年12月、自動運転トラックの技術開発を手掛けるPLUS.AIが4,500kmという長距離で自動運転レベル4に相当する商用輸送の実証実験を行っている。 

こうした事例を見ると、自動運転は実用化に向けて歩みを進めており、とても身近に存在していることがわかっていただけるだろう。 

まとめ

自動運転の導入は、交通事故の減少による安全性の向上、交通渋滞の解消による時間と燃料の節約、そして新たなビジネスモデルと雇用機会の創出による経済成長の促進が期待できる。これらのメリットは、社会全体の生活の質を向上させ、環境への影響を減らし、技術革新を通じた持続可能な発展を支援することが確実視されている。 

今後も自動運転に関する技術の進歩、実際の導入事例などは注目していく必要がある。 

お問い合わせ

当社マクニカでは、自動運転に関する様々な製品やサービスを提供しています。自動運転に関するご質問やご要求などございましたら、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。