高層ビル群の交差点を走行する自動運転車

実用化に向けた取り組みが各方面で進められている自動運転。自家用車においては一定条件下で限定的な自動運転を可能にするレベル3の搭載が始まったほか、レベル4による移動サービスも世界で実用段階に達するなど、いよいよ社会実装段階に突入した。

今後、加速度的な普及が見込まれる自動運転技術は、人や社会にどのようなメリットをもたらすのか。まもなく訪れる自動運転時代を先取りしていこう。

自動運転のメリット(人編)

運転していた時間が「自由時間」になる

自動運転技術は、ドライバーを運転操作から解放する。従来、ドライバーが担っていた走行進路や車両周辺の認知、認知に基づく減速や旋回といった判断、判断に基づくハンドルやアクセルワークといった制御の全てを自動運転システムが代替し、ドライバーレスの走行を可能にするのだ。

運転義務から解放されたドライバーは事実上「乗客」となり、走行中の時間を自由に使うことが可能になる。従来の運転時間が可処分時間となるのだ。

ドライバーは移動時間中、スマートフォンのチェックはもちろん、読書や映画鑑賞、ゲーム、仕事、食事、睡眠など、あらゆる行為を行うことが可能になり、時間を有効活用できる。

車内で様々なコンテンツを楽しめる

自動運転車は従来のステアリングやアクセルペダルといった手動制御装置を備える必要がなくなり、「運転席」という概念がなくなる。また、自動運転車は基本的にEV(電気自動車)仕様となるため、自動車の心臓と言われていたエンジンが姿を消し、モーターとバッテリーが代わりを務める。モーターなどはレイアウトの自由度が高く、ゆえに車内空間の設計の自由度も大幅に増すことが想定される。

さらには、インストルメントパネルも計器類の大半の表示義務がなくなるほか、ウィンドウもクリアな視界を確保する必要がなくなる。自動運転車は、従来の自動車の既成概念をくつがえすデザインを実現することができるのだ。

こうした車内空間の設計・デザインの自由度は、移動時間が可処分時間となったドライバーをはじめとする乗員の嗜好に沿ったプライベート空間を創り出すことができる。

分かりやすい例として、エンターテインメント仕様が挙げられる。車内の前面や側面、天井などに大型曲面ディスプレイを配置し、プライベートシアターを作ることもできる。自動運転車は高速通信機能も備えているため、映画や音楽などの配信サービスを利用することもできる。

また、移動を伴う自動運転車ならではのエンタメ機能として、位置情報を活用したゲーム開発などが進む可能性もありそうだ。

位置情報を活用する観点では、走行ルート近辺に立地する小売店舗や飲食店などの情報を広告配信する新たなビジネスの誕生なども想定される。宅配ロボットなどとサービスを連動させることで、走行中の車両に商品を届けたり料理をデリバリーしたり、新たなショッピングサービスが生まれるかもしれない。

車室内でコンテンツを楽しむ2人の男女

移動に関するコストが低下する

ドライバーレスを可能とする自動運転技術は、タクシーやバスといった移動サービス分野でその効果を最大限に発揮する。ドライバーにかかる人件費を抑えることで、コストを大幅に低下させることが可能になるからだ。

全国タクシー・ハイヤー連合会の調査によると、タクシーにおける人件費は原価の70%超を占めているという。この割合がドライバーのみを指すとは限らないため一概には言えないが、営業費用のうちドライバーの人件費が相当の割合を占めていることは想像に難くない。

米国の調査会社アーク・インベストメントによると、タクシーを自動運転化した場合、乗客が負担するコストは10分の1まで低下するという。単純計算となるが、タクシーをはじめとした各種移動サービスの運賃が10分の1に低下した場合、移動サービスの需要は格段に増すことが想定される。

4色に色分けされた棒グラフ

サービス別の自動車の総コスト(出典:ARK Invest

自家用車の所有者も、維持費などと比較したうえでマイカー放出に踏み切るケースが続発する可能性が考えられる。自家用車の大半は車庫で眠っている時間が長く、日常的には通勤や買い物用途でちょい乗りするケースが大多数を占めているからだ。

「自家用車のオーナー」という所有欲を考慮しなければ、オーナーの大半が自動運転移動サービスへのシフトを真剣に考えるはずだ。タクシーやカーシェアであれば移動したいときにすぐに利用でき、ワンウェイ方式(乗り捨て方式)で自由な移動を確保できる。

自動運転技術の高度化と普及が進むにつれ、自動車は「所有」するものから「利用」するものへと徐々に移り変わっていくのだろう。

誰もが自由に移動できる

自動運転が普及すれば移動サービスは利便性を増し、自家用車の需要は落ち込んでいく。移動において「運転操作」の必要がなくなるため、運転免許を保有する必要もなくなっていく。

運転能力が低下した高齢者は、無理に自家用車を所有せずとも自由に移動することが可能になる。障がい者や子どもも然りだ。自動運転技術は、誰もが自由に移動できる交通社会を生み出していくのだ。

モノのデリバリーサービスを安価に利用できる

自動運転技術によるコストの低下は、人の移動だけに限らない。モノの移動にも波及する。ラストワンマイルを中心にドライバー不足が課題となっている物流業界では、自動運転技術を搭載した宅配ロボットの実用化に向けた取り組みが進んでいる。

移動サービス同様、自動運転技術の導入によりモノの配送コストも大きく低下する可能性が高い。配送料金の低下はEC(電子商取引)をはじめとした通信販売需要を大きく喚起するほか、新型コロナウイルスの影響で隆盛を極める飲食デリバリーなども、その需要を確固たるものへと変えていくのかもしれない。

また、近隣のスーパーなど日常的な買い物も宅配へと変わっていく可能性がある。大げさな例えだが、配送料金の低下は大根1本を宅配してもらうことへの金銭的抵抗を薄れさせていく。宅配全盛の時代を創り出す自動運転は、小売業界の構造も変化させていく可能性を秘めているのだ。

ピザを載せた赤い宅配ロボット

自動運転のメリット(社会編)

ヒューマンエラーによる交通事故が減少する

自動運転車は、原則として道路交通法に反するような走行を行わない。法律を順守した安全な走行が求められているからだ。ヒューマンエラーを起こさない自動運転車は、100%とは言わずとも無事故無違反の象徴となり得る存在だ。

国内における年間交通事故発生件数は40万件超を数えるが、国土交通省が2018年に発表した資料「自動車の安全確保に係る制度及び自動運転技術等の動向について」によると、交通死亡事故のうち97%がドライバーの違反に起因するという。

道交法に違反する不注意な運転や危険運転が交通事故の発生につながっていることは言うまでもないことだが、道路上を走行する自動運転車の割合が増加すればするほど総体として交通違反は減少し、交通事故も減少していく。

自動運転車は、安全な道路交通社会の実現にも大きく貢献していくのだ。

法令違反別死亡事故発生件数の円グラフ

交通事故における自動運転の意義(出典:国土交通省

地方の交通ネットワークを拡張する

低コストで運用可能な自動運転車は、慢性的な赤字で事業継続が困難な地方の公共交通に新しい風を吹き込む。

国土交通省によると、全国の路線バス事業者のうち約7割の事業者が赤字という。赤字事業者の多くは地方に位置する。多くの地域では、住民の足を確保するため財政支援を受けながら営業しているが、それでも路線の縮小傾向は続いているのが現状だ。

ここに自動運転による移動サービスを導入することで収支状況が改善されるのは言うまでもない。自動運転バスをはじめ、AI(人工知能)を活用したオンデマンド交通で柔軟にサービスを提供するなどし、地域住民の移動手段を安定して確保することが可能になる。

効率的な移動により渋滞を解消する

前述したように、自動運転の実用化は徐々に自家用車の減少へとつながっていく。様々な移動サービスをシェアする形で効率的な移動を実現することで、道路上を走行する車両の総数は減少し、渋滞解消につながっていく。

また、各道路のリアルタイムの渋滞情報をシステムが収集・解析し、自動でルートを分散し渋滞を緩和していくルーティング技術などにも期待が寄せられるところだ。

車がスムーズに行き交う交差点

働くクルマの作業を省人化する

自動運転技術は人の移動やモノの輸送にとどまらず、様々な用途に応用されていく。建機や農機、警察車両、消防車両、道路清掃車両、点検車両といった、いわゆる「働くクルマ」に自動運転技術を応用することで多方面において省人化を図ることが可能になる。

例えば警察車両を自動運転化すれば、無人のパトロール車が24時間まちなかを走行し、車載センサーで不審者などを検知し、事件を未然に防ぐことも可能になる。言わば動く防犯カメラのようなものだ。

また、道路や道路周辺の構造物などを点検する作業車を自動運転化することで、道路上の落下物を早期発見することも可能になる。

自動運転パトカーの開発・実用化に向けた取り組みはすでにオランダやドバイなどで始まっているほか、小型の警備ロボットの実用化も進められている。

パトカーの赤と青のパトランプ

最後に

自動運転が「移動」にイノベーションをもたらし、その変化は人の生活や社会環境にも徐々に波及していく。移動革命が切り拓く未来には様々なメリットが眠っているようだ。

こうしたイノベーションをいち早く見通すことで、大きなビジネスチャンスを手にすることもできる。まだ見ぬ自動運転社会に想像を膨らませ、新たな時代にしっかりと対応していこう。

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