マクニカは2024年2月、NASCAR ARCA 2024年シーズンにおいて、JERRY PITTS TOYOTA RACING所属NASCARドライバー 古賀琢麻選手を支援することを発表しました。翌3月には、アメリカ・ロサンゼルスのレース会場で、本番と同じ環境で古賀琢麻選手の生体情報を収集することに成功しました。これまで運転中のドライバーの生体情報を収集するのは困難といわれてきましたが、なぜ今回、生体情報の収集に成功したのでしょうか。
今回、古賀選手の生体情報収集プロジェクトについて紹介します。また、生体情報収集の今後の展望についてもレポートします。
生体情報を収集するきっかけは?
マクニカが本格的に生体情報の収集に注力するようになったのは、古賀選手のスポンサーを務めるようになったことがきっかけです。これまでも最先端テクノロジーの有用性をくさん実証してきましたが、レースという過酷な環境で生体情報を収集できれば、今後の車両開発などに役立てられる貴重なデータを集めることができます。そう考えて半導体で培ってきたセンサー技術やブレインテックノウハウ、ソフトウェア技術を活用し、今回のプロジェクトが動き出しました。
本プロジェクトでは、遠隔からリアルタイムに車両位置や車内外の状況を監視・制御可能なマクニカのマネジメントシステムである「everfleet(Fleet Management System)」を活用しました。また、クラウドベースで収集した各種データをデータプラットフォームである「Macnica Mobility Data Platform(MMDP)」に同期する検証も実施しています。さらに、脳波を測定しAI解析する「InnerEye」によって、極限状態のドライバーの脳波を含む生体情報を収集する取り組みを行いました。
everfleetを活用し脳波や心電位を収集
今回のプロジェクトは、NASCAR協力のもとで行われました。本来NASCARでは、レース本番中に生体情報を収集するためにテレメトリーシステム(遠隔測定)を使用することは禁止されています。そのため、レース本番と同じ会場と環境を整え、古賀選手の脳波や心電位といった生体情報を収集することになりました。
古賀選手が操るマシンは、NASCARカップシリーズで使用されたCar of Tomorrowでトヨタカムリがベースとなっています。6.5Lプッシュロッド式NA V8エンジンを搭載し、最高出力740hp、最大トルク746Nmを発生します。この車両に車載端末が搭載され、速度やG(重力)、車載映像などのデータがMMDP(クラウド)に集積され、生体情報と合わせて分析、検証を実施するという流れで行われました。
データの収集にはマネジメントシステム「everfleet」を活用。このeverfleetは、大容量かつ高精細なデータを、時刻同期を行ったうえで伝送できるという特長があります。さらに、特許を取得した独自プロトコルを用いることで、データベースを時系列で確実に保存できるというメリットがあります。
everfleetによって、レースと同じ環境ながら古賀選手の脳波、心電位といった生体情報を正確に収集。また車載カメラからの映像、走行位置といった車両データもリアルタイムで同期、取得することに成功しました。
最新のAIやGPUをフルに活用
静止している状況であれば、生体情報を収集することは難しくありません。しかし、レース中のドライバーからデータを取るとなると簡単にはいきません。
レース中はたえず体(特に頭)が動き、車内は高温多湿になることがほとんどです。ドライバーの体温は上昇し汗もかきます。さらに車内の騒音や走行時の振動、G(重力)などが長時間続くため、データ収集には不向きな過酷な環境となります。加えて車載端末には高い信頼性と耐久性も求められます。正確な数値を得るためにはかなり不利な状況なのです。
こうした状況の中、マクニカでは車載端末の性能向上はもちろん、AIやGPUをフルに活用することで、過酷な環境でも確実に生体情報を収集できるようになりました。
生体情報は完全自動運転実現のために活用
過酷な環境で収集された生体情報は、とても貴重性が高いデータです。分析されたデータは、様々な分野で活用が期待されます。例えば、レース中であればピットから正確な指示をドライバーに出せるようになったり、走行中の選手の安全管理に役立てられたりします。
収集されたデータは、すぐに活用できる短期的側面と、少し時間をかけて活用できる中期的側面、活用したデータをいずれ車両開発などに活かせる長期的側面に分類できると考えられます。
短期的に見れば、車両が持つADAS(先進運転支援システム)機能と、運転するドライバーの肉体的、心理的状態を踏まえ、機能を高精度化させることにつながります。こうしたメリットは収集したデータをすぐにでも活用できるため短期的な側面を持っています。
中期的に見れば、運転している人(ドライバー)と、ADAS機能を搭載した車両とがより安全に運転するための材料となります。つまり車両の機能が人の心を読み取ることで、正確かつ的確に働かせるようになるかどうかを判断できる、高度な車内環境を実現することにつながるのです。
そして長期的に見れば、近い将来、完全自動運転が実用化された際、事故ゼロを可能にする車両制御技術や、人の気持ちを事前に読み取った、意図した車両制御の実現などが可能になるかもしれません。生体情報によって、車両がどのような状況(停止や右左折、加速、急停止など)にあるときなら、人は快適に感じるか、あるいは不快に感じるか、といった乗り心地に配慮した車内空間を生み出せる可能性もあります。
今後、過酷な環境で生体情報を容易に収集できるようになれば、タクシーやレンタカーなどの民生用にも積極的に活用していくことができるはずです。走行中のドライバーの気持ちや感覚を数値化できれば、より高度で快適な車両の開発に役立てられます。運転中に感じている気持ちを分析・解析するためには、走行中の生体情報収集が欠かせないのです。
生体情報収集で次世代モビリティ開発を支援
今回のプロジェクトは、モータースポーツにおける生体情報収集というバイタルセンシング技術の第一歩にすぎません。実際、視線情報などの取得できなかったデータがまだたくさんありました。ただし今後も過酷な環境で生体情報を収集して、分析・解析する取り組みを継続していきます。
マクニカは、これからも古賀選手をサポートしていくと同時に、生体情報の収集にも注力し、モータースポーツの支援、ひいては一般社会における安全で快適な自動運転技術、次世代モビリティの開発を支援していきます。
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