高速道路の運転のコックピット

近年は様々な自動車メーカーや関連企業が協力し、世界中で自動運転技術の開発が進められている。過去にはホンダのレジェンドといった自動運転レベル3の乗用車が発売されたが、自動運転レベル4のシステムが搭載された乗用車は2023年9月現在ではまだない。

しかし、世界を見れば限定した地域で自動運転レベル4の無人タクシーが運行する等、一部では実用化が始まっている。

本記事では自動運転のレベル4について注目し「自動運転レベル4とは何か」「いつから実用化されるのか」「自動運転レベル4でできる事やメリット」などを解説する。

「自動運転とはそもそも何か?」「自動運転のレベルとは何か?」という疑問を持つ方は、最初に下記の記事を読むことをおすすめする。

自動運転レベル4とは。国内における定義を解説

自動運転レベル4とは、「高度運転自動化」とも呼ばれており、国土交通省によると「システムが全ての動的運転タスク及び作動継続が困難な場合への応答を限定領域において実行」と定義されている。

国土交通省の自動運転レベル4の定義は、米国のSAE(自動車技術会)の定義した基準をもとに、分かりやすくした翻訳した内容となっている。

自動運転レベル4はいつから実用化されるか、解禁時期はいつなのか?

国土交通省が2023年5月に公表した資料「自動運転の実現に向けた取り組みについて」では、自動運転レベル4を実現する目標時期は、移動サービス・市販車の高速道路の走行において2025年度を目途にしている。

また、解禁時期については、2023年4月に道路交通法が改正され、すでに公道での自動運転レベル4は解禁された。

ただし、現状どのエリアでも自動運転レベル4の走行が可能なわけではなく、走行したいエリア・地域を管轄する公安委員会より認可を得る必要がある。対象地域の公安委員会によって、認可のための条件を付け加えることができるため、一概にレベル4といっても使う場所によってはやや使い勝手が変わる。

特定自動運行の許可制度のイメージ

特定自動運行に係る許可制度の創設について(出典:警察庁) 

自動運転レベル4の移動サービス(バスやタクシー)は試験的に実用化開始

自動運転レベル4はトラックなどの物流サービスや市販車よりもバスやタクシーなどの移動サービスにおける実用化が先行している。

国内では2023年5月に福井県永平寺町で公道で初めて自動運転レベル4を搭載した運行サービスが始まった。弊社マクニカが車両・システムの提供や保守・メンテンナンスに関わっている「ARMA」も、2023年10月に羽田イノベーションシティ内を自動運転レベル4で運行している。2023年度は自動運転の支援地域が拡大し始めるタイミングのため、政府は「自動運転実装化元年」と呼んでいる。

また、経済産業省はさらなる自動運転レベル4の普及に向けた取り組みとして、2023年9月15日に国内初となる一般道での自動運転レーン設置計画を発表した。計画内容は、2024年度に茨城県日立市にあるJR大甕駅から日立製作所の工場までの数キロの区間で設置し、自動運転バスを走らせるというもの。

この道路の位置づけは、開発を加速するためのテスト走行が可能な道路とのことだが、一般道での無人バスの運行実用化に向けて、確実に進んでいると言えるだろう。

そのほか海外の自動運転レベル4の移動サービスを見ると、中国の北京や米国のサンフランシスコでは自動運転レベル4が搭載された無人タクシーが既に試験運行されており、無人タクシーの実用化に関しては中国・米国がやや先行している状況だ。

自動運転レベル4の物流サービス(トラック)は高速道路での試験走行を計画

国内において物流サービスにおける自動運転レベル4を搭載したトラックは、まだ実用化に至っていないが、今後高速道路でのテスト走行に向けて政府がインフラを整えていく計画を発表した。

2023年9月に経済産業省が発表した「第2回デジタルライフライン全国総合整備実現会議」では、2024年度に新東名高速道 駿河湾沼津SA~浜松SA間や、東北自動車道6車線区間の一部を自動運転のテストレーンとして設置するとしている。

特に新東名高速道路の駿河湾沼津SA~浜松SA間は、100キロメートルを超える距離となり、もし一般車両も走行する道路として実現すれば世界最長のテストレーンとなる可能性もある。

物流サービスは高速道路での実用化を優先的に検討しており、政府の目標は2025年度以降としている。

自動運転レベル4のシステムが搭載された市販車はない

2023年9月において、自動運転レベル4のシステムが搭載された市販車はまだない。

デジタル庁の公表した資料「官民ITS構想・ロードマップ」によると、自家用の市販車は高速道路での実用化は2025年以降となっている。

2024年度に新東名高速道路の一部区間に自動運転が走行できるレーンが設置される事を考慮すると、市販車も同じ区間での自動運転ができる可能性も考えられる。

自動運転レベル4で出来る事

自動運転トラック イメージ

自動運転レベル4は、限定領域下であればドライバーの介入なしで完全な自動運転が可能となる。

限定領域においてシステムが運転動的タスクを実行するのは「条件付運転自動化」と呼ばれる自動運転レベル3と同じだが、自動運転レベル4からはシステムが作動困難な場合の対応も、システムが行うという点が自動運転レベル3との違いだ。

そのため自動運転レベル4が実現された場合、自動運転レベル3から出来る事が大きく増える。

例えば、自動運転レベル3からは乗用車では限定領域下での自動運転中においてドライバーが食事やスマートフォン操作、動画鑑賞、読書などといったセカンドタスクを行えるようになる。しかし、非常時にはすぐに運転に戻らなければいけない自動運転レベル3と違い、自動運転レベル4ではドライバーが完全にセカンドタスクに没頭していても問題はない。

またその他に、移動サービスでは限定領域下での運行においては無人タクシーとして営業することが可能になり、物流サービスでは無人トラックによる輸送が可能となる。

自動運転レベル4のメリット

ブレインオフが可能になる自動運転レベル4が普及することのメリットは、ドライバーのみならず、社会全体でも非常に大きい。国土交通省の資料では、自動運転で期待できる効果として「交通事故の削減」「渋滞の緩和」「地域公共交通の維持」「ドライバー不足への対応」「渋滞の緩和」などが自動運転の社会に与えるメリットとして記載されている。

もちろん自動運転には、ドライバーが受ける「運転時間の有効活用」などのメリットもある。

それぞれのメリットについて、下記の記事にて詳細に解説する。

交通事故の予防・削減

自動運転が普及することによるメリットとして最初に期待されていることが、交通事故の予防・削減だ。

国土交通省が令和5年に発表した資料によると、令和3年の交通事故死傷者は2,636人、負傷者数は362,131人となっており、内訳を見ると運転操作不適や漫然運転・わき見運転などの「安全運転義務違反」が全体の53.6%を占める。またその他にも酒酔い運転・一時不停止・追い越し違反などを加えると、死亡事故の95%が「運転者の違反」に起因しているという。

仮に全ての車が自動運転レベル4になれば、特定領域下のみだが「運転者の違反」が発生しづらくなるため、死亡事故件数の削減効果が期待できる。

渋滞の緩和・抑制

次に期待されるメリットとして、渋滞の緩和・抑制が挙げられる。

渋滞は分類すると事故渋滞・工事渋滞・自然渋滞の3つに分かれる。しかし、渋滞が発生する原因となると、どの渋滞も不適切な車間距離や加減速が一因となっている。

特に自然渋滞が起きやすい道路は、上り坂や高速道路と一般道の接続部分・トンネルなどがあり、ドライバーが無意識に速度を落としてしまうような特徴がある。

しかし、自動運転レベル4が普及してくると、ドライバーが無意識に減速してしまっていたエリアでも、一定速度で安定した車間距離を保ちながら走行することが可能になる。自動運転レベル4の車両が1台だけ走行しても渋滞は緩和されないが、集団で走行すれば渋滞の緩和や抑制が期待できる。

補足説明になるが、国土交通省が2015年に発表した資料「高速道路を中心とした「道路を賢く使う取組」の基本方針」によると、ドライバー1人当たり年間およそ40時間、無駄にしていると公表している。この調査は2012年当時のもので、2015年の日本の総人口は約127007千人だったため、これら一人当たり40時間を無駄にしていたと考えると、日本全体で約508000万時間を無駄にしていたことになる。

もし自動運転レベル4が広く普及すれば、大きな経済損失を防ぐことが可能だ。

地域公共交通の維持

自動運転レベル4の普及によるメリットに地域公共交通の維持が挙げられる。

電車がないような地方では自家用車での移動、もしくは地域の公共バスによる移動が一般的になる。しかしながら、地方の公共バスなどは高齢化などにより、利用者が減少する傾向があり、いかにして継続的にサービスを続けていくことが課題となっている。

自動運転レベル4が実現すれば、地方の公共バスやタクシーなどの移動サービスのドライバーが不要となることで、コスト削減やドライバー不足が解消され、サービス継続につながるとみられている。

運転時間の有効活用

自動運転レベル4 によるドライバーが受けるメリットは、これまで運転していた時間の有効活用が挙げられる。

通常であればドライバーは運転に集中しなければならないため、スマートフォンを見たり、片手でスマホを持ちながら通話する事はできない。

しかし、システムが運行を行っている間は上記のような行動が可能となる。例えば、システムで運行している間に、ノートPCでオンライン会議を行ったり、スマートフォンで調査を行ったり、動画教材で学習を行ったりなど、その空いた時間の活用方法は多岐にわたるだろう。

また、自動運転レベル3と違い、非常時でも運転をシステムから引き継ぐ必要がないため、より自由に時間を活用することができることが魅力となるだろう。

自動運転レベル4の実証実験事例

自動運転レベル4の実証実験事例イメージ

国内・海外問わず、自動運転レベル4に向けた実証実験が進められている。その実証実験の多くはまだレベル2やレベル3で検証している段階だ。しかし、レベル4相当での実証実験もこの記事内でも既にいくつかの事例が登場しているのは間違いない。本章ではあらためて2023年12月時点における自動運転レベル4に向けた実証実験事例と既に実用化された事例について、国内と海外で整理して紹介したい。

レベル4に向けた国内事例

国内において自動運転レベル4に向けた実証実験は、公道だけでなく、実用性の高い空港や一部の限定されたエリアを前だしする形で進められてきた。

例えば、2021年10月には中部国際空港で自動運転バスの実験を行ったことや、2021年12月に羽田空港、2022年2月に成田空港など空港での実証実験を行われている。2023年5月では、南紀白浜空港で滑走路の点検車に使用する自動運転レベル4相当での運行を目指した車両の実証実験が行われている。

また公道では、2023年5月に福井県永平寺町にて国内初の一般道での自動運転レベル4の運行が開始された。町内の約2キロメートルという短い区間の遊歩道を7人乗りの乗用車が運行する形だ。既に一般客を乗せた運行もスタートしている。

その他、長野県塩尻市では2023年9月に、市内の中心部にて自動運転レベル4に向けたEVバスの実証実験を行った。このEVバスは2025年の導入を目指しており、実際に運行した際の想定ルートの一部を用いて、実証実験を行っているとのこと。

また物流サービスにおけるトラックの自動運転レベル4相当も実証実験が行われている。2023年6月には米国の自動運転トラックの技術企業TUSIMPLE HOLDINGS, INC.の日本支社が東名高速道路でのテスト走行動画を公開している。

2023年に入り、自動運転レベル4の導入に向けた実証実験が活発になっており、これからも日々事例が増えていくだろう。

レベル4に向けた海外事例

海外においては移動・物流サービスにおいて、自動運転レベル4の実証実験や実用化は日本よりも多くの事例が公表されている。

まず自動運転タクシーに関しては、中国と米国の取り組み事例が多い。例えば、中国の北京ではインターネット大手の百度(バイドゥ)が、2023年3月より一般客を乗せることができる無人の自動運転タクシーを運行している。無人タクシーを専用のスマートフォンアプリで呼び、指定した目的地まで自動で運行してくれるとのこと。しかし、課題も残っておりシステムが判断不可能なトラブルが起きた際には、遠隔システムで人的に対応しているとのことで、今後の発展が期待される状況だ。

また、米国のサンフランシスコ市内では、2022年6月からウェイモとGMクルーズが自動運転タクシーの運行をスタートしている。さらに同年8月には24時間営業の認可も正式に取得し、実用化が進んでいる。

自動運転タクシーはまだ一部の制限エリア内だけの導入にとどまっているが、近い将来に本格的に普及してくるのは間違いない。

また、物流サービスでも、米国や中国の取り組み事例は多い。例えば、米国の自動運転トラックの技術開発を行っているPLUS.AIは、2019年12月に米国初の自動運転レベル4相当の商用輸送を実証実験している。その輸送した距離は、米国東海岸のカリフォルニア州TULAREから西海岸のペンシルベニア州QUAKERTOWNまでのおよそ4,500㎞と長距離にわたる。

中国では、自動運転技術を開発するPONY.AIが、2021年12月に高速道路にて中国初の自動運転レベル4相当を搭載したトラックの実証実験を実施した。

自動運転レベル4の実用化に向けて、中国と米国が世界をリードする形で実証実験を進んでいる。

自動車メーカーの自動運転レベル4の開発動向

ここでは国内自動車メーカーの中でも、自動運転レベル4の開発動向が公開されているトヨタとホンダの2社の情報を紹介する。

トヨタの自動運転レベル4開発動向

トヨタは自動運転レベル4の実現時期などを具体的に公表していない。しかし、中国のPony.aiと協業で自動運転技術を開発していることや、ウーブン・バイ・トヨタ株式会社という会社を立ち上げて技術開発を行っている事は公表している。

2023年9月時点の情報では、2023年8月に中国のPony.aiとトヨタが出資する合弁会社を2023年度末までに設立を目指し、自動運転タクシーを量産する計画を発表した。この合弁会社を作る狙いの一つに、コストを下げる事があると一部では予想されている。

トヨタに限らず、現在は市販で販売されている車両に自動運転システムを特注で搭載する形で技術開発されているため、製造コストが高くなっているが、仮に全てを同一工場で製造することができれば、大きなコスト削減に繋がる可能性がある。

技術開発だけではなく、一般ユーザーの手が届く範囲での価格になるような取り組みも進められていると見ていいだろう。

ホンダの自動運転レベル4開発動向

ホンダの自動運転レベル4は、GMとその子会社であるGMクルーズと提携して開発を進めていることを公表している。

2022年9月には、GMクルーズと共同開発した自動運転専用車両の「クルーズ・オリジン」の走行試験中の動画を公開した。

この動画内で、HONDAはこのクルーズ・オリジンを使った自動運転サービスを2026年初頭ばに、東京で運行開始することを目標に掲げていると公表。クルーズ・オリジンはドライバーが運転する事を想定していないため、運転席そのものがない。また乗車人数が4人程度である事を見る限り、バスではなくタクシーに近い形で運行を想定しているのではないかと予想される。

まとめ

世界的に見て、自動運転レベル4の開発は移動サービス・物流サービスを軸に進んでおり、米国と中国が世界をリードする形だ。

しかし、日本も官民一体となり自動運転の社会実装を進めていることや、トヨタやホンダは世界をリードしている海外の自動運転技術の開発企業と緊密に連携していることもあり、急速に自動運転レベル4の社会実装が進む可能性もある。

今後も自動運転に関する技術には注目して行く必要があるだろう。

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