高速道路の運転のコックピット

近年は様々な行政機関や民間企業が協力し、自動運転技術の開発が進められている。政府は2025年を自動運転レベル4の一つの区切りとし、体制の整備や道路・システムの研究開発などの取り組みを実施している。

レベル4の実用化に向けた取り組みは着々とその数を増やしており、レベル4の乗用車はまだ存在しないものの、20235月には福井県永平寺町にてレベル4のカートによる移動サービスが開始し、20246月には羽田みらい開発株式会社が民間初のレベル4のシャトルバス運行許可を取得した。
また、国外ではレベル4のタクシーが運行し活発に利用されるなど、実用化が進んでいる。

そこで本記事では、以下の内容について解説する。
・自動運転レベル4とは
・自動運転レベル4によって実現する事
・自動運転レベル4における国内外の最新動向

本記事を読むことで、自動運転レベル4の概要や今後の展開をおわかりいただけるだろう。

自動運転レベル4とは

国土交通省による自動運転レベルの定義は、米国の自動車技術会(SAE)の基準をもとに作成されている。

自動運転レベル4は「高度運転自動化」とも呼ばれており、「システムが全ての動的運転タスク及び作動継続が困難な場合への応答を限定領域において実行」と定義されている。
つまり、自動運転が許可されているエリアにおいて、人の介入を必要とせず運転を行い、運転が困難な状況に陥った時には安全な場所に停止するなどの制御までを全てシステムが行う、ということだ。

自動運転レベル4の公道走行解禁後の状況

2023年4月に道路交通法が改正され、国内の自動運転レベル4の公道走行が解禁された。
ただし、許認可のプロセスでは、走行予定の地域を管轄する都道府県公安委員会の走行認可を得る必要がある。対象地域の公安委員会が定めた条件によっては一概にレベル4といっても監視システムや速度など、走行する上で遵守すべき条件が変わるだろう。

自動運転レベル4の実用化までのプロセスを詳しく知りたい場合は、20246月に第1版が公開された「自動運転移動サービス社会実装・事業化の手引き」(国土交通省・経済産業省・警察庁)をご覧いただきたい。

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自動運転レベル4の「移動サービス」は実用化がスタート

2023年は自動運転を支援する地域が拡大し始めたタイミングのため、政府は「自動運転実装化元年」と呼んでいる。
そして国内における自動運転レベル4の活用は、トラックなどの物流サービスや乗用車よりも、バスやタクシーなど移動サービスにおける実用化が先行している。

先述の通り、20235月には福井県永平寺町にて国内初となるレベル4を使った公道の移動サービスが始まった。マクニカが車両やシステムの提供やメンテンナンスに関わっているシャトルバス「ARMA」も、羽田イノベーションシティ内をレベル4で運行している。
また、経済産業省は20239月に国内初となる公道での「自動運転レーン」の設置計画を発表した。茨城県日立市のJR大甕駅から日立製作所の工場までの数kmの区間にセンサーやカメラを設置し、自動運転バスを走らせるという。
このレーンでの取り組みによって、レベル4の公道運行が実用化されるスピードは加速するだろう。

また、国外では中国の北京や、米国のサンフランシスコでレベル4が搭載された無人タクシーが運行している。レベル4を使用した移動サービスの実用化に関しては中国・米国が先行している状況だ。

自動運転レベル4の「物流サービス」は高速道路での試験走行を開始

国内において自動運転レベル4を搭載したトラックによる物流サービスはまだ実用化に至っていないが、政府は実用化に向けた取り組みを積極的に進めており、目標を2025年以降としている。

2024年6月に経済産業省が発表した「デジタルライフライン全国総合整備計画(案)」によると、新東名高速道路の駿河湾沼津 SA~浜松 SA 間において、自動運転車優先レーンを深夜時間帯に限定して設定し、トラックのレベル4実用化に向けた実証走行を開始する。また、実証に伴い、2024年6月には国土交通省から高速道路での走行実証実験の公募が告知された。※1

なお、自動運転車優先レーンは、レベル4のトラックだけでなく、レベル4の乗用車や高速バス等の走行実証も想定されているという。
新東名高速道路の駿河湾沼津SA~浜松SA間は、100kmを超える距離となり、乗用車も走行する道路として実現すれば、世界最長のテストレーンとなる。

また、2025年度以降には、東北自動車道6車線区間の一部を自動運転車用レーンとして設置するとしている。

※1:高速道路における路車協調実証実験について募集します(国土交通省)

自動運転レベル4の「乗用車」は存在しない

現時点において、自動運転レベル4の乗用車は存在しない。
官民ITS構想・ロードマップ(デジタル庁)によると、乗用車の高速道路での実用化は2025年を目途としている。

新東名高速道路の一部区間で設置される自動運転優先レーンがレベル4のトラックだけではなく、レベル4走行に向けた実証を行う乗用車や高速バス等の走行も想定されていることを考慮すると、レベル4の乗用車も同じ区間での実証実験が近々開始される可能性も考えられる。

自動運転レベル4によって実現する事

特定の走行環境条件を満たす限定された領域において、システムが運転タスクを実行する点においては「条件付運転自動化」と呼ばれる自動運転レベル3と同じだが、システムが作動困難な状況に置かれた場合にもドライバーは運転に戻る必要が無い点がレベル3との違いであり、レベル4の特徴と言える。

レベル4が実現すると、ドライバーは運転中にセカンドタスクが行えるようになる。非常時には運転に戻らなければいけないレベル3と違い、レベル4では完全にセカンドタスクに没頭しても問題はない。食事やスマートフォン操作、動画鑑賞、読書などが行えると想定される。

移動サービスにおいては特定のエリアを無人タクシーとして運行することが可能になる。また、物流サービスにおいては、特定のエリアにおける無人輸送が実現するだろう。

自動運転レベル4の普及がもたらす5つのメリット

ドライバーが運転について考える必要のない「ブレインオフ」、つまり自動運転レベル4が普及すれば、社会全体にもたらすメリットは大きい。国土交通省の資料では、レベル4に期待される効果として1から4を挙げている。ここでは、ドライバーが得るメリットを5として追加しておく。 

  1. 交通事故の削減
  2. 渋滞の緩和
  3. 地域公共交通の維持
  4. ドライバー不足の解消
  5. 移動時間の有効活用

1. 交通事故の削減

自動運転レベル4の普及がもたらすメリットとして最初に期待されていることが、交通事故の予防・削減効果だ。

国土交通省が令和5年に発表した資料によると、令和3年の交通事故死傷者は2,636人、負傷者数は36万人超となっており、内訳を見ると運転操作不適や漫然運転・わき見運転など、「安全運転義務違反」が全体の約54%を占める。またその他にも酒酔い運転、一時不停止、追い越し違反などを加えると、死亡事故のうち95%が「ドライバー」に起因するものだという。

レベル4の車が普及すれば、限定領域下においてドライバーが起因となる事故を大幅に減らすことができるため、死亡事故件数の削減効果が期待できる。

2. 渋滞の緩和

次に期待されるメリットとして、渋滞の緩和・抑制が挙げられる。
渋滞は分類すると、大きく以下の3つに分かれる。

・事故渋滞
・工事渋滞
・自然渋滞

また、どの渋滞も発生原因は「不適切な車間距離や加減速」が一因となっている。
特に自然渋滞が起きやすいエリアは、「上り坂」や「高速道路と一般道の接続部分」、「トンネル」などがあり、ドライバーが無意識に速度を落としてしまうという特徴がある。

しかし、自動運転レベル4が普及すれば、ドライバーが無意識に減速してしまっていたエリアでも、一定速度で安定した車間距離を保ちながら走行することが可能になる。レベル4の車両が普及することで、渋滞の緩和や抑制が期待できる。

3. 地域公共交通の維持

自動運転レベル4の普及によるメリットに、地域公共交通の維持が挙げられる。
過疎化が進む地域では、公共バス利用者の減少や、ドライバーの高齢化などによって便数が減少傾向にある。このような地域での移動手段は自家用車が多いため、高齢者も自家用車の運転を余儀なくされるケースが多く、地域の公共交通の維持が課題となっている。

今後、レベル4の公共バスが普及すれば、ドライバー不足や運行コストの問題は解消され、多くの路線や便数を維持することができるだろう。また、安定した便数、安心して使えるバスであることが分かれば、バス利用者の増加も期待できる。加えて、「自動運転バスの導入」という新しい取り組みによって住民の地域に対する愛着と誇りが向上するという面もある。

また、都市部では環境負荷を軽減し、より効率的で持続可能な移動サービスを提供することができるだろう。

4. ドライバー不足の解消

ドライバー不足が喫緊の課題となっている。配達の需要増加や高速化、ドライバーの高齢化や長時間の残業など、負担が大きい労働にも関わらず賃金が低いなどの要因が関係している。

また、ドライバー不足と切っても切れない要因として「2024年問題」が挙げられるだろう。2024年問題とは、ドライバーの労働負担を軽減するため、働き方改革改善法で労働時間等に制限をもたせたものである。これにより、ドライバーの働く環境が改善する一方で、上限を超えた時間外労働の賃金は発生しなくなる。従来であれば得られた報酬をモチベーションにしていたドライバーも多くいるため、ドライバー不足に拍車をかけてしまっている側面もある。

自動運転レベル4による無人トラックでの輸送が実現すれば、当面は高速道路など特定の走行環境条件を満たす限られた領域のみでの走行になると予測されるが、ドライバー不足と人件費が削減でき、収益の改善も図ることができるだろう。

5. 移動時間の有効活用

自動運転レベル4 によってドライバーが得るメリットに、運転に費やしていた時間の有効活用が挙げられる。
通常であればドライバーは運転に集中する必要があるため、目線を逸らした動きをすることはできない。
しかし、レベル4になると特定の領域では運転以外の事を行えるようになるため、走行中に出来ることは多岐にわたるだろう。

補足説明になるが、2015年に公開された資料「高速道路を中心とした「道路を賢く使う取組」の基本方針」(国土交通省)によると、ドライバー1人当たり年間およそ40時間、無駄にしているという。2015年の日本の総人口が約1億2710万人だったことを鑑みると、日本全体で約50億8000万時間を無駄にしていたという計算になる。 

総人口が運転をしていた訳ではないが、この数字を見れば、レベル4が広く普及した際には大きな経済効果が期待できることがお分かりいただけるだろう。

自動車メーカーによる自動運転レベル4の開発動向

ここでは国内自動車メーカーの中でも、自動運転レベル4の開発動向が公開されているトヨタとホンダの2社の情報を紹介する。

トヨタの自動運転レベル4開発動向

トヨタが2024年に、特定の条件下で人が運転に関わらない「レベル4」による自動運転サービスを始めることを発表した。これは運転手不要のロボタクシー事業を念頭にしており、東京・お台場に建設中の次世代アリーナ周辺を、当面は無償で運行し、2025年以降は有償で範囲を都心に広げるという。実現すれば、一般車両を使用した公道での移動サービスとしては国内初となる見込みだ。

車両はトヨタのミニバン「シエナ」をベースに開発されており、すでにレベル4のシステムを搭載しているが、当面は、安全を踏まえて運転手を同乗させるという。

ホンダの自動運転レベル4開発動向

ホンダの自動運転レベル4GM、クルーズと提携して開発を進めている。そして202310月、3社で共同開発した自動運転専用車両の「クルーズ・オリジン」を使ったレベル4の移動サービスを東京都心部で開始することを発表した。
開始時期は2026年初頭を見込んでいる。

3社はクルーズ・オリジンを使い、自動運転タクシーによる新しい価値の提供や、ドライバー不足など社会課題の解決にも貢献していきたい方針だ。

自動運転レベル4の事例

国内では2025年に向けたレベル4の実証実験も徐々に広がりを見せている。本章では現時点におけるレベル4に向けた実証実験の事例について、国内と国外に分けて紹介したい。

自動運転レベル4の国内事例

国内における自動運転レベル4に向けた実証実験は、実現性の高い「空港」や「一部の限定されたエリア」を主軸として進められてきた。

例として2021年10月に中部国際空港、同年12月に羽田空港、2022年2月に成田空港にて、自動運転バスの実証実験が行われたことが挙げられる。
バス以外では2023年10月に南紀白浜空港にて、滑走路点検の自動化にレベル4の自動運転車両「macniCAR-01」を使用した実証実験が行われている。
公道では、2023年5月に福井県永平寺町にて国内初のレベル4の移動サービスが開始された。町内の2キロほどの区間を、7人乗りの自動運転自動車(カート)が運行する形だ。一般客を乗せた運行もスタートしている。
その他、長野県塩尻市では2023年9月に、市内の中心部にてレベル4に向けたEVバスの実証実験を行った。同市は2025年の実用化を目指しており、想定ルートの一部を用いて、実証実験を行っているとのこと。

また物流サービスにおけるトラックのレベル4相当も実証実験が行われている。
2023年6月には米国の自動運転トラックの技術企業TUSIMPLE HOLDINGS, INC.の日本支社が東名高速道路でのテスト走行動画を公開している。

2024年に入り、レベル4の導入に向けた実証実験が活発になっており、これからも日々事例が増えていくだろう。

自動運転レベル4の国外事例

国外においては移動・物流サービスにおいて、自動運転レベル4の実証実験や実用化は日本よりも多くの事例が公表されている。

まず自動運転タクシーに関しては、中国と米国の取り組み事例が多い。
例えば、中国の北京ではインターネット大手の百度(バイドゥ)が、2023年3月より一般客を乗せることができる無人の自動運転タクシーを運行している。
無人タクシーを専用のスマートフォンアプリで呼び、指定した目的地まで自動で運行してくれるというもの。しかし、課題も残っており、システムが判断不可能なトラブルが起きた際には、遠隔システムで人的に対応しているとのことで、今後の発展が期待される。

また、米国のサンフランシスコ市内では、2022年6月からウェイモとGMクルーズが自動運転タクシーの運行をスタートしている。
さらに同年8月には24時間営業の認可も正式に取得し、実用化が進んでいる。
自動運転タクシーはまだ一部の制限エリア内だけの導入にとどまっているが、近い将来、本格的に普及してくるのは間違いない。

また、物流サービスでも、米国や中国の事例は多い。例えば、米国の自動運転トラックの技術開発を行っているPLUS.AIは、2019年12月に米国初の自動運転レベル4相当の商用輸送を実証実験している。
その輸送した距離は、米国東海岸のカリフォルニア州TULAREから西海岸のペンシルベニア州QUAKERTOWNまでのおよそ4,500㎞と長距離にわたる。 中国では、自動運転技術を開発するPONY.AIが、2021年12月に高速道路にて中国初のレベル4相当を搭載したトラックの実証実験を実施した。

中国と米国が世界をリードする形でレベル4の実用化に向けた実証実験が進められている。

まとめ:2025年を目途としたレベル4の進展に注目

自動運転レベル4の開発は移動サービス・物流サービスが先行しており、世界的に見ると米国と中国が世界を牽引する形だ。
しかし、日本も官民一体となりレベル4の社会実装に向けた取り組みを進めていることや、トヨタやホンダが世界をリードする海外の自動運転技術の開発企業と緊密に連携していることもあり、急速にレベル4の社会実装が進む可能性もある。
当面はレベル4に関する新たな情報が次々と発信されると予測される。今後も最新の動向に注目してい行く必要があるだろう。

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