変化の速いデジタル社会の現代では、自社の業務を革新し、顧客への提供価値を最大化することが強く求められています。そして、その土台となるのが、デジタル技術を駆使して業務効率化・生産性の向上などを図る社内DXです。
今回は、マクニカにおける社内DXのカギを握る「DX Factory」の概要・具体的に進めている施策・取り組み事例などについて、IT本部の本部長を務める安藤 啓吾が語ってくれました。
マクニカの社内DXと、DX Factoryの生い立ち
「モノからコトへ」と言われるようになってから久しい昨今、皆さまの会社やマクニカににとっては「デジタルテクノロジーを駆使して、新しいサービスやソリューションをいかに生み出すか」が命題になっているかと思います。私が所属する情報システム(以下、情シス)部門は、ビジネス部門のメンバーと共に自分たちのアイデアをスピード感をもって具現化し、グループ全体のDXを進めることが非常に重要だと考えています。
一方で、ビジネス部門がアイデアを相談すべき相手が分からず、変化を起こせないという状況は往々にして起こりますし、情シス部門も知見不足ですべきことを定められないこともあります。そんななかで一体感をもってDXを推進することはやはり難しく、各部署で色々な取り組みをしてはいるものの、動きがバラバラで非効率になりがちです。
こうした状況を打開するため、マクニカではDX推進部門と情シス部門が協力して「DX Factory」を立ち上げました。デジタルテクノロジーを使った新しいサービスやソリューションの開発において、ビジネス部門は早くモノを作ってMVP検証を行い、リリースしたいはずです。これまでの情シス部門はそのサポートが十分にできていなかったのですが、今後は積極的に参画し、知見を活用して貢献していきます。
下の図は、DX Factoryのイメージです。ビジネス部門にも半導体やネットワーク・セキュリティなどさまざまなカテゴリがありますが、いずれもが日々新しいアイデアや企画を考えています。それを大小問わず持ち込んでもらい、「プロダクトオーナー支援」「開発プロセス支援」といった各々のアイデアを具現化するために必要なサポート機能を提供するのが、DX Factoryの役割です。また、この一連の流れによってビジネス部門がものづくりとリリースのサイクルをスピーディーに回せるようになり、結果的に他社に打ち勝てるのが理想です。
私は2年ほど前、情シス部門のメンバーとして社内DX推進プロジェクトに参画していたことがあります。そこには各部門から集められた代表者がおり、各自が色々と課題を出しながら事を進めていたのですが、それはあくまで「プロジェクト」でした。つまり、終わりがあったのです。しかし、本来のDXは一過性のものではなく、いかに継続するかが重要であり、そのためには何らかの仕組みや制度が必要です。マクニカとしては、DX Factoryを「利益につながるアプリケーションを常に製造し続ける仕組み」というポジションに置きたいと考えています。
DX Factoryにおける、4つの施策
ここからはDX Factoryが提供する施策や機能について、より具体的にお話します。DXセンターには、下図に示した4つの要素を社内のユーザーに提供するための開発基盤「デジタルサービス開発環境」があります。また、この環境ではローコードで素早くアプリケーションを作ることができる、Siemens社のソフトウェア「Mendix」を中心に活用しています。
①プロダクトオーナー支援
昨今のデジタルソリューションやデジタルプロダクトの開発は、基本的にアジャイルで進められます。その際に非常に重要な役割を果たすのが、マーケットやユーザーが求めているもの・何を作るか・プロセスをどうすべきかなどを中心になって考える、プロダクトオーナーです。
このポジションには、やはりプロダクトを作る人が就くことが望ましいと言えます。つまり、マクニカでいえば情シス部門のメンバーではなく、事業部門からアイデアを持ち込んだメンバーとなります。とはいえ、その人に「今日からプロダクトオーナーになってください」と頼んでも経験の問題からすぐには務まらないため、最初はDX Factoryがサポートや育成を行います。これが①の「プロダクトオーナー支援」です。また、支援の内容にはTo beプロセスの作成やMVPを作るための要件定義も含まれます。
②開発プロセス支援
アジャイル開発では、ユーザー事業部門がスクラムという形でアプリケーション開発を回しながら進めていきます。関係者にはスクラムマスター・ローカル開発者・プロダクトオーナーなどが挙げられますが、通常、事業部門にはそのいずれもいません。そのため、プロダクトオーナーやその人の思考・発言を具現化するメンバーが事業部門から選出され、それをDX Factoryがサポートすることになります。このような流れを実現したのが、②の「開発プロセス支援」です。
③人財育成
マクニカには、アジャイルなデジタルプロダクトの開発経験者がほとんどいませんでした。しかし、それができる人が事業部門に増えなければ、全社的なDXはなかなか加速しなません。そこで③の「人財育成」によって、ビジネスとデジタルプロダクト開発の両方の知見をもつメンバーの育成を、DX Factoryが中心になって行っています。
具体的にはハンズオン研修・自習用の学習コンテンツ・動画などを提供しており、OJTで学んでもらいながら、最終的には事業部門にプロダクトオーナーを務められる人財を多く確保しようと考えています。
④ガバナンス
最後は、「④ガバナンス」です。ものづくりにおいては、どうしても作るモノの方に目がいきやすく、ガバナンスを忘れがちになってしまうことには注意が必要です。色々な部署が好き勝手に開発を進めると非効率ですし、本来は非常に重要なセキュリティもおろそかになります。実際、ユーザーインターフェースや機能は優れているのに、セキュリティ面に問題があるケースも少なくありません。そこでDX Factoryが、そのガバナンスを効かせる部分を明確にするための機能を提供しているというわけです。
たとえば図の下部分に「再利用可能なアプリ」とあるように、使い回しができるものがある場合はそれを最大限に活用すべきであり、それを実現するための開発基盤やアプリケーションを事前に用意します。結果、開発がスピーディーに行われるようになり、作ったモノをマーケットに早くリリースできるようになります。
かつて、IT開発のKPIは「Q(Quality)」「C(Cost)」「D(Delivery)」と言われており、日本の会社は圧倒的にクオリティを重視していました。その一方でコストがオーバーしたり、納期が遅れたりといったこともあったわけです。確かに従来はウォーターフォールでの開発が中心でしたので、優先順位が「Q > C > D」でも大きな問題はなかったのかもしれません。しかし、変化が激しい現代で他社に勝るためにもっとも重要なのはスピード、すなわち「D」なのです。つまり、いかに早くモノを完成させてマーケットにリリースするかということです。
もちろん品質やコストも可能な限り担保されることが望ましくはありますが、デジタルプロダクトの開発においては、「7~8割の完成度であってもマーケットインする」というマインドが大切だと思います。
社内DXの事例
次に、マクニカ社内のDX事例をご紹介します。私たちはDX Factoryやデジタルサービス開発基盤を活用し、最小限の要件を満たすMVP開発に必要な3つの機能を提供しています。具体的には、「IT基盤」「開発プロセス」「人財育成」です。今回は、半導体事業・生成AI活用プラットフォーム・わさび工場を例にします。
半導体事業
半導体事業の営業担当は基本的に、速やかな納期回答を求めます。しかし、それを調べる業務はSAPを介して手作業で行われていたため、多くの時間を要していました。そこで私たちはMendixを活用してSAPから直接データを抽出し、納期回答のレポートを作る仕組みを構築しました。結果、従来は15分かかっていた作業が1クリック5秒で完結するようになったのです。スクラッチでインターフェースの開発をした場合はそれなりの工数がかかりますが、このときはMendixを活用したことで、開発期間も非常に短期で済みました。
生成AI活用プラットフォーム
マクニカは2023年から、生成AIを活用した新しいサービス・ソリューションの開発に注力しています。ここで紹介しているのは、お客様や社内のユーザーが利用できる、データ連携を可能とする生成AIアプリケーション開発プラットフォーム環境です。
図には「ユーザー毎にデータセキュリティの設定、データ連携設定」「各社の生成AIソリューション、社内で開発したAIプログラムの連携」「業務にあわせたUI開発・ワークフローへの組込み」といった項目がありますが、これらを丸ごとMendixを用いたアプリケーション基盤として活用し、開発を進めています。
パートナーとの共創PoCが実施可能なSandbox
最後は、わさび工場の事例です。図の写真は大きなコンテナの内部で、ここにマクニカの技術の粋を結集し、植物を栽培できる環境をお客様との共創によって構築しています。
わさびはデリケートな植物で、生育が非常に難しいとされています。そこで、このコンテナにはカメラやAIを活用した監視システム・わさびの生育に適した波長を照射できるLED・空気質センサーといった、さまざまなテクノロジーを導入しました。そして、それらを管理する仕組みの構築にもMendixを活用しています。
マクニカでは今回ご紹介したような取り組みを中心に、今後もDXを加速させていきます。