多くの企業がリスキリングを通じてDX人材育成について検討を進めるなか、マクニカでは文系出身の営業担当者がシステム部門とのコラボレーションを通じて、新たな取り組みに向けた第一歩を踏み出している。それぞれの組織をつなげるハブとして大きな役割を果たしているのが、ローコード開発プラットフォームのMendixだ。独自カリキュラムの自主学習による学習プログラムであるDX Academy※を通じた学びから、新たなキャリアを開拓した株式会社マクニカ テクスターカンパニー 第2統括プロダクトセールス第2部第3課 林 啓太とともに、林とプロジェクトを一緒に手掛けたIT本部 IT統括部ITエンジニアリング部 プロダクトエンジニアリング課 課長 石田 卓也に、プロジェクトの経緯やその成果について聞いた。
※アルネッツ社が提供するDX内製化支援サービス

学びの自己学習と仕事に活かせないジレンマ

林さんの普段の仕事について教えてください。

林:半導体部門に所属する営業担当として、普段は海外から仕入れた半導体チップを国内や日系企業の海外向けに提供する仕事をしています。お客様への提案から見積もり作成、納期管理など、いわゆる営業として活動しています。システム開発などITとしての経験はなく、文系出身の営業です。

そんな林さんですが、ご自身でリスキリングとしてPythonの学習をされた経験があると聞いています。その経緯について教えてください。

林:現在でも営業として日々活動していますが、自身のキャリアを考えたときに、何も形に残るものがないという焦りがありました。そんな折、一緒に半導体販売に関わるフィールドアプリケーションエンジニアのように、しっかりとした技術を持って開発してみたいと思ったのがきっかけです。自分で生み出したものに触れてもらう喜びを突き詰めたいという想いが湧いてきました。Pythonを選択したのは、最近話題となっているAIにつながるプログラミング言語として注目されていたためです。

会社からは、どんなことを期待されていますか。

林:我々は2030年のビジョンとして「豊かな未来社会の実現に向けて、世界中の技と知をつなぎ新たな価値を創り続けるサービス・ソリューションカンパニー」を掲げています。そのために求められる人物像は、デジタル技術を活用して顧客変革に伴走できる人物と定義されています。営業に加えて、デジタル技術のスキルを持つことでこの人物像に近づけるのでは、と考えています。

自己投資した学びについてはどうでしたか。

林:実際にはオンライン授業を中心とした6ヶ月ほどのスクールに通いましたが、理論的な学びや設計といった、理系の人たちが学ぶような基礎的な部分から入っていったため、かなり苦労したのが正直なところです。リスキリングに関する国からの助成金も取得しましたが、それなりに金額をかけて自己投資しました。

リスキリングとしてITに関する基礎的なスキルは身につけたと思いますが、成果として得られたことはありますか。

林:いろんなバックグラウンドや志を持った仲間と一緒に学ぶ機会が得られたことは良かったですが、普段の仕事にすぐ活かせたかというと難しいところです。営業という立場ですぐにPythonを使うシーンはありませんし、本当に生かすのであれば転職するしかない。転職してもゼロベースでキャリアを積み上げていくことは大変ですし。

システム部門としての課題

林さんと一緒にプロジェクトを推進したシステム部門の石田さんとしては、どのようなことが課題となっていたのでしょうか。

石田:もともとIT本部では、システム開発は外部に委託していましたが、スクラッチ開発よりも抽象化された形で開発がスタートできるローコードツールが市場に出回ってきたなかで、これを機に内製開発できる組織を作っていくことを念頭にプロジェクトを立ち上げました。また、そのノウハウをいずれは外にも展開していき、システム部門としてビジネスに直接貢献していけるような動きにも繋げていきたいという思いもありました。そこで、お客さま向けに提供しているローコード開発プラットフォームを活用し、新たな開発プロジェクトをスタートさせたのです。

具体的にはどのような領域の開発プロジェクトだったのでしょうか。

石田:これまで手掛けてきたものの多くは、業務量が多く標準化しやすいオペレーション部隊の改善に向けたシステム開発でした。一方で、営業部門の業務改善に直接つながるような部分は進んでいない状況でした。パッケージを使った開発になると大掛かりな開発が必要ですが、ローコードツールを使えば現場にある小さな改善も含めていろいろ進めていける場面が増えます。そこで、基幹システムであるSAP周辺の業務に注目し、営業部門として改善の余地がある仕組みから始めてみようと考えたのです。具体的には、SAPから取得したデータ自体を営業担当者が見たい形に抽出できておらず、Excelなどで加工して自分たちの活動やお客さまへ情報提供していました。そこで、ローコードツールを用いて必要な情報が簡単に入手できるような業務改善の仕組みを検討しました。

ここで使われているのがMendixなわけですね。

石田:もともとビジネスとしてお客さまに提供していたMendixを試していこうという流れがあったなかで、SAPとの親和性やプログラムの管理性、開発プロセスの管理など、非常にメリットが大きいと考えました。エンタープライズにおける保守性やガバナンスという部分で必要な機能が一気通貫で提供されているのがMendixの強みです。機能を補完しながらいろいろなソリューションを組み合わせれば同じことができますが、工数的なハードルが高く、ガバナンスもマネージメントも低下する懸念があるため、Mendixが最良だと判断しました。

今回は営業部門の林さんがプロジェクトに参加していますが、システム部門だけで進めていくことは考えたのでしょうか。

石田:確かにローコードツールのおかげで開発自体が抽象化され、誰でも参入しやすくなっていることは間違いありませんが、一般的なDBの知識やフローチャートの概念などがある程度理解できていないと厳しいなと正直感じています。一方で、システム部門のメンバーには現場の知識がないぶん、システム部門だけでプロジェクトを進めていくのは難しい。IT人材を増やしていくという意味では、外に人材を求めるのか、業務部門も含めた内部に人材を求めていくのかは、選択肢として考えていく必要があります。

 ただ、林のように基礎技術を学んできた方に関しては学びながら内製化に向けた取り組みにも貢献してくれるという期待がありました。もちろん、小さいところから始めていくというステップがローコードツールと相性がいい。1つの形として、業務としての知識を持っている現場の方に参加いただくこともあると考えています。

どのような経緯で林さんがプロジェクトに参加されたのでしょうか。

林:自分でITスキルを身につけるためのリスキリングを行ったものの、業務に活かす機会がないなか、同じ事業部にいたメンバーに私自身がPythonを自己投資で学んだという話をしたところ、ローコードツールのMendixを社内で扱っているという話を聞きました。Mendixを使った社内で新たな開発案件を石田の部門で検討していたタイミングが重なり、現場の知見を活かすべくプロジェクトに参画させてもらったのです。おそらく、現場の知識とともに、ITの基本的な学びを経験している人材というのがうまくマッチングし、声をかけてもらいました。

システム部門と共創したプロジェクト概要

具体的にはどのようなプロジェクトだったのでしょうか。

林:営業現場の課題を解決するためのPoCとしての取り組みで、SAPから得られる情報を現場に合わせてうまく抽出できる仕組みです。たとえば納期管理に必要な情報はSAPから得られますが、情報過多で必要のない情報も多いのが実態でした。具体的には受注・発注・在庫という3つの情報があれば十分なのですが、これらをうまく精査して取得できる仕組みです。実際には、以前は1つのアイテムに関して情報をまとめるのに15分ほど時間が必要でしたが、ワンクリックで簡単に抽出できるようになっています。仕組みはとてもシンプルですが、多くのアイテムを扱う営業担当者にとっては大きな成果です。

どのような体制でプロジェクトを進めたのでしょうか。

林:今回は私がプロダクトオーナーで、石田が基幹システムを含めたインフラの調整役です。また、実際にMendixで開発を担当したエンジニアが別にいます。プロダクトオーナーは、業務で要求されることや業務改善の方向性を開発エンジニアに伝え、実際に開発されたものの改修要望を伝えていく役割です。そのため、事前にMendixを理解するべく、セルフトレーニングが可能なDX AcademyにてMendixの基礎を学んでいます。

石田:私はSAPの構築・運用を支援しているインテグレーターに対して必要なデータ提供などの調整を行うといった役回りでした。シンプルな仕組みで、プロジェクトはわずか1週間ほど、開発期間という意味では15時間ほどで済んでいます。全てオンラインでの打ち合わせで、最終レビューのみ全員が集まって1時間ほどで遂行できました。

実際にプロジェクトに参加されていかがでしたか。

林:私自身どこまで貢献できたかはわかりませんが、ITの知識含めてシステムに関する知識を持つ現場のメンバーが増えてくれば、業務改善は間違いなく早期に解決していけるようになると改めて感じました。プロジェクトに関われたことで、業務改善が現実のものとして実行できた実感を持つことができました。

石田:今後もスクラム開発などに取り組んでいく必要があると思っていますが、そのなかでプロダクトオーナーというロールをシステム部門がやるのか各部門にお願いするのかという部分は大きなテーマの1つです。今回の林のようにITの知識と業務の知識を持っている人が入ると、プロジェクトは非常にスムーズに進むことを実感しました。もちろん開発の規模が大きくなればシステム部門がプロダクトオーナーになった方がいいかもしれませんが、今回のように小さな改善を積み重ねていくことで個別最適化できる領域には各部門のメンバーのほうが適しているケースも多いはず。そんなメンバーがローコードツールを使って開発者として育ってくると、さらに面白くなるのではないかと考えています。

今回はどのあたりがうまく機能したと考えていますか。

石田:正直、どんな開発プロジェクトでも要件定義はとても大変な労力を伴うもので、本来なら一番時間をかけないといけない部分です。業務の知識がある林にお願いできたことはとても大きいですし、短期間で要件定義を進められたのは現場とITの知識を持っている林だからこそだと思っています。

ローコード開発プラットフォームであるMendixの魅力

今回活用したローコード開発プラットフォームであるMendixはいかがでしたか。

林:今回のプロジェクトに直接の関係はないかもしれませんが、かつて自己学習でPythonを使ってWebアプリを作ったことがあり、記述したコードをデプロイする作業が必要でした。この作業がかなり大変で、一緒に学んだ多くの仲間もかなり苦戦したものです。Mendixを使うとクリックするだけでデプロイできてしまうなど、これほど簡単にできてしまうことに正直感動した記憶があります。ローコード開発プラットフォームの大きな魅力の1つだと実感しています。

Mendixを使ってご自身でアプリケーション開発できそうな感触は得られましたか。

林:正直に言えば、難しい部分はあると思います。ローコードとはいえしっかりとした学習が必要ですし、実際にはDX Academyで数十時間ほどしか学んでいないため、多くの人に使ってもらえるようなアプリケーション開発を手掛けるという意味ではハードルは低くありません。もちろん、タスク管理や日報管理といった、DX Academyで学習したシンプルなものであれば、私でも十分作れるという実感はあります。実践的な経験は積み重ねていく必要があるはずです。

いくらローコード開発プラットフォームとはいえ、誰でも作れる魔法の杖ではないという感じでしょうか。

林:そうですね。私自身は半導体の営業という立場で今も活動しており、今回のプロジェクトはあくまで会社からの指示ではなく、業務時間外でプロジェクトに参画したものになります。圧倒的に時間が足りない部分はありますが、今回現場のDXという視点で業務改善に関われたことは、今後のキャリアには大きく活かせるはずで、自分としてはぜひ伸ばしていきたいです。

システム部門として林さんの取り組みついてはどのように評価していますか。

石田:開発者の育成という意味で抽象化できるMendixは非常に大きな力になる可能性を秘めており、林がDX Academyで学んだことをベースに、スクラム開発など一緒にペアプログラミングのようなトライを続けていけば、これまでにないキャリアをスタートさせていけると思っています。スクラッチ開発するようなアプローチと比べると、間違いなくDX人材としてのキャリアを踏み出していけるはずです。

今後の取り組みについて

今後についてはどのように考えていますか。

林:主業務としての半導体営業に重きを置きながらも、2足の草鞋として業務改善していける私のような現場のメンバーが増えることは、会社が求めるこれからの人材像にもマッチしていくと思います。顧客変革のためにデジタル技術を活用できる人物が求められるなか、今の会社であっても別の会社に移っても1つのスキルを獲得できたことは、自分自身の武器になってくると考えています。いずれ会社にどうアピールしていくのかも含めて、私の活動を1つの成功事例として周りに広げていくことができれば、よりよい環境になっていくことでしょう。

石田:システム部門としては業務部門とのコラボレーションを広げていくことを進めていかなければいけない状況にありますが、実際には業務部門のメンバーのなかには林のようにITセンスを持ったメンバーが結構いることは間違いありません。そんなメンバーとMendixのディベロッパーポータルなどを使ってコミュニケーションを重ねていくなかで、開発寄りにキャリアを進めていくことも、プロダクトオーナー寄りに歩んでいく人がいてもいい。参加するメンバーと一緒になってキャリア形成していければいいのかなと思っています。システム部門としても会社としても、非常に大きな可能性を秘めていると実感しています。

 

今回の取り組みがきっかけとなり、システム部門と現場部門、そしてMendixを扱う新事業部門がバーチャルな組織として動き出そうとしており、最終的には半導体部門の業務改善を社内で推進し、その成果を外販していけるようなゴールを描いているという。サービス・ソリューションカンパニーを目指す2030ビジョンの骨子になるような組織として経営層からも期待されているなど、Mendixを軸にしたDX推進の大きな取り組みは今後も加速していくことだろう。リスキリングに向けたプラットフォームとして注目されるMendix、ぜひ一度DX Academyにてその実力を体感してみてはいかがだろうか。

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