
・スマートビルディングに適用可能なAI事例を知りたい方
・新規コロナウイルス感染拡大に伴い発表されたAIアーキテクチャを知りたい方
・バーチャル安全トレーニングに興味のある方
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はじめに
スマートビルディングの市場規模の成長スピードは、いまやAIやIoTの技術進化の速度に肩を並べる勢いです。それは、AIやIoTの技術が進化すればするほど、それら技術をスマートビルディングの多様な領域へ活用できるためです。
さらに現在は、SDGsを達成するための自主的な活動や、新型コロナウイルス感染症に関わる社会課題への対応も求められており、それらの社会課題に対応するAIやテクノロジーの研究報告が多く見受けられます。
今回の記事ではスマートビルディングの多様な領域へどのように技術を活用できるのか、活用のヒントになるような事例や研究をご紹介いたします。
コロナ禍に適用されるAIを用いた人の行動分析
ソーシャルディスタンス検出
新規コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴い、ソーシャルディスタンス(社会的距離)がマスクの装着に加え、感染拡大を防止する手段として挙げられてきました。ウイルスの拡散を防止するには、駅・ショッピングモール・大学のキャンパスなどの公共エリアでソーシャルディスタンスを維持することが重要です。
オハイオ州立大学から提出された論文『A Vision-Based Social Distancing and Critical Density Detection System for COVID-19』ではソーシャルディスタンスの状態を検出し、混雑したエリアへの流入を調整するための重要な歩行者密度の閾値を特定できる警告システムを提案しています。
出典:A Vision-Based Social Distancing and Critical Density Detection System for COVID-19
キャプション:Figure 1. Overview of the proposed system.
https://www.mdpi.com/1424-8220/21/13/4608/htm
カメラで撮影された動画をベースに人物検知を行い、鳥瞰図のような人物検出区域を3次元から2次元平面に起こし、人物の位置を2次元平面の座標上にプロットし人物位置を取得します。
そしてそれぞれの人物位置から人物間距離を取得し、人物間距離から社会的密度を定義し、ソーシャルディスタンスの違反を下図は歩道上の人物を検出し(左側の写真)、青い点線エリア内の歩道を2次元平面上に起こし、人物の位置情報も2次元平面上にプロット(右側の図)した例です。
出典:A Vision-Based Social Distancing and Critical Density Detection System for COVID-19
キャプション:Figure 3. Illustration of pedestrian detection using Faster R-CNN [13] and the corresponding social distancing.
https://www.mdpi.com/1424-8220/21/13/4608/htm
現在の日本ではまだソーシャルディスタンスの確保が求められるシーンがあるでしょう。新型コロナウイルス感染症対策のニーズ以外でも、商業ビルやイベント施設などの密度監視や予測にも活用可能な技術です。それによりさらにスマートビルディングにおける快適性が保たれるかもしれません。
マスク装着の良し悪し検出
先ほどはソーシャルディスタンスについてのシステム実装の提案をご紹介しましたが、今度はマスク装着に関する事例です。新型コロナウイルスのまん延に伴い、ソーシャルディスタンスと同様にマスクの装着が必須となる公共の施設が増えました。しかし、ただマスクの装着をしているか、していないかだけではなく、実際は正しくマスクを装着していることが感染予防としてはとても大事になります。
そこで今回は、マスク装着なし・正しいマスク装着・誤ったマスク装着が検出可能な、システムの理論と応用やAI技術の学会であるIEEE2021で発表されたマスク装着検出器のAIモデル「RetinaFaceMask」と、よりリアルなマスク装着状態を検出するためのデータセットを作成した研究事例をご紹介します。
出典:RetinaFaceMask: A Single Stage Face Mask Detector for Assisting Control of the COVID-19 Pandemic
キャプション:Fig. 2. Architecture of RetinaFaceMask.
https://arxiv.org/pdf/2005.03950.pdf
RetinaFaceMaskはマスク検出における多様なシーンに対応するため、強力な特徴抽出ネットワークを基幹(Backbone)として使用しています。さらに顔だけの検出と比較して、マスク検出は顔の位置の特定とマスク装着状態の識別の両方が必要となります。より高い識別性を持たせるためにCAMという独自のブロックを使用したことで、マスク装着の判別ができるようになっています。
この研究ではMAFAというデータセットをベースにMAFA-FMDというデータセットを作成しています。MAFA-FMDは「マスク装着なし」「マスク装着あり」のみならず、マスク装着のうち「正しいマスク装着」「誤ったマスク装着」も分類したデータになります。公開されているAIZOOというデータセットとMAFA-FMDのデータセットを使用し、マスクの装着状態を予測した結果を見ると「誤ったマスク装着」も高精度で検出していることが分かります。
出典:RetinaFaceMask: A Single Stage Face Mask Detector for Assisting Control of the COVID-19 Pandemic
キャプション:Fig. 4. Qualitative Results on AIZOO and MAFA-FMD Datasets.
https://arxiv.org/pdf/2005.03950.pdf
イベント実施時などマスクの正しい装着が今後も推奨されると思いますが、その際の確認に人手を使わず、さらに歩行中の人物に対しても検出が可能なこの技術は、活用や応用することで今後様々なメリットを持つでしょう。
工事の進捗状況の可視化による業務改善
建築工事の建設進捗を把握することは、建設スケジュール通りに施工管理において非常に重要です。しかし、建設進捗の測定は多く手作業で行われており、手作業であるため時間がかかり、エラーが発生しやすく、労力をもたらすプロセスを課しているのが現状です。
そこで建設進捗のモニタリングにAIを活用する事例をご紹介いたします。
ドローンとGISを活用した3次元データによるスケジュール管理
ドローンはご存知の方も多きかと思いますが、無人で遠隔操作や自動制御によって飛行できる航空機で、おもちゃから産業用、軍事用と様々な種類があります。GIS(Geographic Information System)は地理情報システムのことを指し、デジタル地図のような地理情報のデジタルデータをベースに、その上に道路や建物のデータなどを重ねるような編集や、そのような各種データをシステム上で分析・管理できるシステムです。GISを使用すると地理情報と各種情報を関連付けて可視化することが可能です。
これらドローンとGISを使用した、施工のスケジュール管理としてシステム化する際に参考になるような、実用的な論文である「BUILDING CONSTRUCTION PROGRESS MONITORING USING UNMANNED AERIAL SYSTEM (UAS), LOW-COST PHOTOGRAMMETRY, AND GEOGRAPHIC INFORMATION SYSTEM (GIS)」では、画像処理から3D建築物のデータを作成する過程に多くの工夫が見られる進捗モニタリング方法です。
提案された方法は、ドローンから獲得した動画から歪んだ画像やぼやけた画像以外のはっきり写画像を用います。ドローンで取得した画像のうち2つの画像を選び、一致する特徴をVisualSFMといった3次元の形状データを作成するソフトから自動的に検出します。
出典:BUILDING CONSTRUCTION PROGRESS MONITORING USING UNMANNED AERIAL SYSTEM (UAS), LOW-COST PHOTOGRAMMETRY, AND GEOGRAPHIC INFORMATION SYSTEM (GIS)
キャプション:Figure 5. Image to image matching using SIFT algorithm
https://www.isprs-ann-photogramm-remote-sens-spatial-inf-sci.net/IV-2/41/2018/isprs-annals-IV-2-41-2018.pdf
検出された一致する特徴をキーポイントデータとして保持し、最終的に以下のような3Dモデルを作成します。そして、建設予定のビルのCAD図面をGISを利用し3Dモデル化します。このドローンから取得し作成した3Dデータと、建設予定のビルの3Dデータを比較することによって、建設工事の進捗状況を監視することが可能となります。
出典:BUILDING CONSTRUCTION PROGRESS MONITORING USING UNMANNED AERIAL SYSTEM (UAS), LOW-COST PHOTOGRAMMETRY, AND GEOGRAPHIC INFORMATION SYSTEM (GIS)
キャプション:Figure 8. Processed LAS files for flight observations Mar. 05,2017, Figure 9. Isometric View of the As-Planned Model of UPCA
(walls - yellow, columns - red, beams - green, slab/floor – gray).
https://www.isprs-ann-photogramm-remote-sens-spatial-inf-sci.net/IV-2/41/2018/isprs-annals-IV-2-41-2018.pdf
この技術は前述の通り、人手での進捗把握の工数を削減できる他、建設工事中は近隣の施設や環境の予定を押さえ、同意を得なくてはいけませんが、スケジュール遅延における周りへの環境リスクを軽減することができます。
まとめ
社会課題に対する技術活用について3つ論文をベースにご紹介いたしました。最後の技術は、最近人気のメタバースを人材育成に活用した例でもあります。ここ数年でAI活用は日本社会でも根付き、今ではこういった新しい技術を作り出す要素の一つにAIが含まれることが当たり前になりました。
より時代にあった課題に活用ができるように今後も様々な情報を発信していければと思っております!
■ 本ページでご紹介した内容・論文の出典元/References Xinqi Fan, Mingjie Jiang,“RetinaFaceMask: A Single Stage Face Mask Detector for
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