DXの推進は企業における競争力・業務効率・顧客満足度の向上など、多くのメリットをもたらす反面、そのハードルはまだまだ高いのが実態です。そんななか、マクニカはお客様へのご支援はもちろんのこと、独自の組織である「DX Factory」の構想をはじめとした社内DXにも注力しています。
本記事では新事業部門とIT部門の本部長によるディスカッションを通じた、DX推進におけるヒントやマクニカのナレッジをお届けします。
▲イノベーション戦略事業本部 本部長の佐藤篤志(写真左)と、IT本部 本部長の安藤 啓吾(写真右)。
※ファシリテーターとして、イノベーション戦略事業本部 デジタルインダストリー事業部 事業部長代理の阿部 幸太も対談に参加。
DX Factoryの意義と構想の背景
阿部:マクニカではビジネス部門とIT部門が協力して「DX Factory」という組織を構想していますが、これはなぜ必要だったのですか?
安藤:私たちIT部門の重要なミッションのひとつは社内外を問わないDX推進なのですが、実際にはなかなかうまく進んでいない現状があります。そこで、現時点でのさまざまな課題を解決し、マクニカにおけるDX推進をさらに加速させる体制や仕組みが必要だと感じました。
たとえば2年ほど前には、全社での社内DX推進プロジェクトを立ち上げて各部門からメンバーを選出し、色々な議論を重ねながら進めてきました。そのなかで出てきた課題の数は300を超え、最終的にはテーマを4つに絞ったうえでひとつのアプリを開発することになりました。ただ、それなりに成果は出たものの、プロジェクトはあくまで一過性のものなので、終わったあとは関係者の熱量が下がってしまいかねません。「いかに持続的にDXを生み出す仕組みや環境を作るか」は、無視できない問題でした。
また、社内のDX開発状況を見渡してみると、色々なところで同じものを同じように開発していたり、困ったときの相談先がバラバラだったりと、非常に非効率な進め方になっていることが浮き彫りになりました。そこで要件・やるべきこと・開発リソースなどを1ヶ所に集約し、「DX Factory」という組織を通じた効率化な進め方にトライしようと思ったのです。
阿部:DXプロジェクトを一過性で終わらせないことや効率化を図ることは、どの企業でも等しく重要ですよね。佐藤さんはいかがですか。
佐藤:従来の IT部門と事業部門の関係性は、サービスを提供する側と受ける側という極めて閉じたものでした。しかし、各組織の垣根を超え、DXを共創・推進してゆくDX Factoryを共同で構想することで、オープンにお互いの立場を理解する絶好のチャンスを得られたと感じています。
今回は両者が交換留学のような形でお互いの組織に人を送り込んで、実プロジェクトに参画し、それぞれの強み・弱み・ノウハウなどを学び、共有しています。相手の立場に立って仕事をする訳ですから、お互いが鏡に投影された自分を見るように相互理解が進み、いざ本業に戻ったときには、事業部門はIT部門の強みを、IT部門は事業部門の強みを自然に取り込むようになります。既存の知と知の新結合がイノベーションの本質だとすれば、まさにそれを加速させるのがDX Factoryのコンセプトだと私は考えています。
DXは高度なITやデジタルソリューションの導入に着目されがちですが、いくら高度なITやデジタルソリューションでもそれはツールにすぎません。それを使う人や組織がDXを自分事として捉え、腹落ちし、使いこなせなければ、DXは成功しないと思っています。
現在、私の事業部門ではMendixというローコードツールをお客様に提供していますが、最初は製品の説明は一切せず、お客様の潜在課題の洗い出しをするために壁打ちや要件定義をして、解決に向けたDXのコンセプトや運用イメージを決め、それを動かす人や組織の提案をしています。ローコードツールなどのITツールが登場するのは、最後の最後ですね。
このようなお客様向けの伴走型コンサルティングサービスに、実際のローコードプラットフォームの社内ユーザーである安藤さんのIT部門の人が参画するので、お客様の課題の理解も早く、成功や失敗体験も共有するので、お客様との共感も生まれやすいのです。新鮮でリアリティのある経験を持ち帰ることで向上したスキルをチームに共有し、新たな社内外のDX推進に応用・展開してゆくこともDX Factoryの狙いです。
阿部:IT部門と事業部門の連携は相互理解とシナジーだけではなく、その取り組みで得たノウハウそのものを客様に提供し、さらにそこでの経験を社内に再度フィードバックすることで社内・社外を垣根なく巻き込み、イノベーションを継続的に起こす仕組みということですね。
実際にITツールの提案及び構築とITを使いこなし継続して効果を出すための方法論はセットであるべきですが、実際の現場では、なかなかそのようになっていないのは、難しいと感じる部分です。ITの機能だけではなく、それを使う人や組織の在り方、ビジネスプロセスの変え方など、使い続けて効果を出すためのノウハウや方法論をテンプレート化して再現性を高めていくことに、DX Factoryの真髄があるように思います。
安藤:その方法論は、各社が経験しながら作っていくものですね。ただ、スクラッチで自分たちで1から考えるのはとても難しいので、何かしらのメソドロジーやフレームワークをベースに、自分達がトライした結果を踏まえてカスタマイズする必要があります。
私と佐藤さんは先日、オランダのSiemens社で開かれた打ち合わせやワークショップに参加し、Mendixを使ったDX Factoryが本当に我が社にとって有効かどうかを判断するポイントを学んできました。Siemens社のフレームワークは、Process・Profile・People・Platform・Promotionの「5P」がDX Factoryを成功に導く鍵であり、それらを如何に自分事として定義し、実現していくかが重要だと示しています。
議論を重ねるうちにマクニカが目指すべき5Pを定義し、それぞれのKPIも設定することができたので、今後はそれをベースにMendixのメソドロジーやフレームワークを実際に使ってみようと。そして、マクニカに合致するところとしないところを見極めながら、最終的にはDX Factoryとしてのテンプレートを作れるとよいかなと思っています。
阿部:ヨーロッパ企業のメソドロジーやフレームワークといったベストプラクティスをインストールして使いこなせば、スピードと効率が上がりますね。また、それらを日本の現場で実行する上では、改良しなければいけない部分を明らかにしてアップデートしていくことで、私たちがお客様に提供する際に価値に繋がります。
“人が中心“のデジタルトリプレットという考え方
佐藤:システムを導入したお客様に「これがベストプラクティスです」と言って終わりにするのではなく、「これまでのお客様の課題・運用・長所を活かしながら、Fit to Standard(顧客の運用を世界標準システムに合わせる概念)の良い所をブレンドした提案をしながら、最後まで伴走し続けることが大切だ」と私は考えています。
日本の製造業におけるDXでは、ERPのような基幹システム導入の際によく見られる、完全にGlobal Standard やFit to Standardに寄せてしまう考え方よりも、ものづくりの思想や哲学、改善サイクルのノウハウや職人の暗黙知の形式知化など、これまで日本人が培ってきたベストプラクティスをDXに融合させるほうがうまくいくように思います。
日本人は元来、西洋文化と東洋文化の融合と良いとこどりが得意な民族ですが、この点はマクニカ同様で、最先端テクノロジーを世界中から探し、目利きし、日本向けに仕上げ、実装してゆくのが伝統的な強みです。最先端技術をお客様のものにするまで、つまり人と組織がシステムを使いこなし、人の知識や知恵がデジタルを使って価値を創造したり、増幅できるようになるまで徹底的に伴走することが弊社の強みであり、使命であると考えています。
阿部:型化してシステムでできることは最大限活用した上で、ラストワンマイルの知の領域を引き出すためにお客様と一緒になって考えることは必須ですね。そして、その概念はデジタルトリプレットに繋がっていると思いました。
佐藤:はい。デジタルトリプレットは、Digital TwinやCPS(Cyber Physical System)の上位層にHuman層(人による知的価値創造活動)を加えたものです。人が中心となってデータへの意味づけを行い、評価し、意思決定し、価値を増幅するというフレームワークですが、これもまた、デジタルはあくまでツールということを示唆しています。
「人間がすべきことをすべてAIができるようになったとき、人間は何をするのか」という究極の議論もありますが、産業界での営みは人間が意思決定をしなければならないセクターもまだまだ多く、お客様の課題も千差万別なので、標準化やベストプラクティスが定着しないこともあります。このような状況の中で、デジタルトリプレットのフレームワークを、DX Factoryに積極的に取り込んでいきたいですね。
安藤:佐藤さんのおっしゃるようにお客様によって状況は異なるので、そもそもベストプラクティスが通用しないこともあります。一番大事なのはお客様がなぜ現状の型になっているのかを理解し、最適なアプローチを見つけ出すことです。そのためにはまず自分たちが経験し、実践することが重要です。たとえばマクニカがMendixを使う場合はSiemens社の方から聞いた内容を自分たちなりにチューニングし、なぜその方法を採るのかをしっかり習得したうえでノウハウを外に発信することが必要です。ゆくゆくはそれがマクニカの強みになると思います。
阿部:共感や共創などの理念をベースにお客様やグローバルの状況を深く理解し、一緒になって物事を考えられるのは、やはり私たちの強みですよね。そして、この土台を作ってきたのはマクニカが重んじているファーストペンギンの精神、すなわちまず自分たちが経験してみることの蓄積だったと改めて思いました。
佐藤:DX Factoryを構想したIT部門と事業部門は、冒頭でお話した通り、ある意味では提供側とユーザーの関係にあります。つまり、事業部門とお客様との関係と似ている部分があるので、お互いの共感が生まれやすい環境にあると思います。
時代は「QCD」から「DCQ」へ
佐藤:DXが進まない理由としてよく挙げられるのは、組織間の軋轢・バジェットの取り合い・方針の違いなどをトップ層が調整できていないといったものがありますが、逆にいえば、トップ同士が共感して握っているプロジェクトはかなりの確率で成功すると思います。ただし、そこには現場の共感や腹落ちも必要です。今回のDX Factoryのアイデアには、安藤さんも私もすぐに共感しましたし、現場もすぐにコンセプトに腹落ちしていたので、その後の動きはとても速かったですね。IT部門と事業部門がOne Teamになって、一緒にオランダのDXトレーニングにも出張しました(笑)。
阿部:スピードの重要性が高まっていることもポイントですね。安藤さんも以前、「優先順位がQ(Quality:品質)>C(Cost:コスト)>D(Delivery:早さ)から、D>C>Qに変わってきている」とお話されていました。
安藤:やはりこれだけ環境変化が激しいと、何をするにも柔軟に素早く対応できるかが、企業の運命を左右するんですよね。とても従来のように「ITシステムの開発に1年かかります」と言っている場合ではなく、基本的には3ヶ月くらいでモノを作ってリリースしなければ、周りの環境がガラッと変わってしまいます。また、そのスピード感でマーケットに対応することの重要性は、私たちだけでなく皆さまも感じているのではないでしょうか。とはいえ、その対応が一朝一夕にはいかないのもまた事実です。
佐藤:日本はウォーターフォール的に順序立て、スピードよりも品質重視でトラブルのないようにプロジェクトを進める傾向がありますが、最近はアジャイル的な考え方で、品質よりもスピードを重視する考え方も徐々に浸透しているように思います。当然のことながら、DXの領域ではまずは作り始め、ピボットしながらMVPを作り、徐々に理想に近づけるやり方の方が成功確率が高いですよね。プロジェクト毎にウォーターフォールとアジャイルを使い分ける動きもありますが、安藤さんのIT部門ではいかがですか?
安藤:この話を突き詰めていくと、会社のカルチャーの話になってしまいますね。特に大企業は失敗が許されないので、チャレンジがしにくい環境にあります。私たちも部下には、「小さくてもいいから、早く成果を出すようにしよう」とよく言っています。こうしたマインドをみんながもってトライしていくことが望ましいですが、それを許容する会社になるには、経営陣も含めてカルチャーを変えることが前提になります。
佐藤:ユーザー部門がIT部門に対して、状況に応じて「スピードを重視してください」と伝えるなど、許容すればよいですね。私は以前、ネットワークやセキュリティなどのIT事業に携わっており、お客様は企業のIT部門が中心でした。
当時、多くのIT部門のお客様は、システム導入を成功させても特に賞賛されることはなく、逆にトラブルを起こすと強く批判されるので、これでは保守的になるもの無理はないなと思っていました。特に金融や官公庁のシステムなどは絶対に失敗はゆるされないので、システムの品質や安定性には特に気を配っていたと思います。
このような状況が長く続くと、新しいシステムを導入するにしても、石橋を叩いて渡るようなカルチャーが根付いてしまったのかもしれません。。需要なネットワークインフラやSoR(System of Record)では、依然として保守的な状況が続いていると思いますが、SoE(System of Engagement)やSoI(System of Innovation)のようなITで価値を生み出すような領域では、ローコードやアジャイル、市民開発的な考え方が浸透しているように思います。
安藤:DX Factoryが万能ではないように、適用範囲の問題ですね。アジャイル開発やDXですべてを解決しようとするケースも世の中には見られますが、それは不可能です。たとえばERPをDX Factoryで作れるかといえばそれはムリですし、作る必要もありません。何をどう作るべきかは、トップ層がしっかりとダイレクションを出していかなければ、会社は判断を誤ってしまうでしょう。
阿部:先ほどのQCDからDCQのお話を聞いて非常に腹落ちしたお客様と会話をしたのですが、その方は「TOPがコンセプトを言語化したうえで、何のためにどの領域でDCQの考え方が必要かの共通認識を取ることが非常に大事だと思いました」とフィードバックを下さいました。何のためにどの領域でやるのかを判断するためには、ビジネスの現場とITのシステムの両方について知っていなければならないので、結局はその二者の現場同士が近くあるべきということですね。
佐藤:確かにERPに代表される、いわゆるコーポレートITと呼ばれる領域、別の言い方をすれば「守りのIT」の領域は、品質を重視した開発の方が良いと思います。しかし、従業員同士のコミュニケーション基盤や社外とのコラボレーションプラットフォーム、LOB(Line of Business)の現場で市民開発されるようないわゆるビジネスITの領域、いわゆる「攻めのIT」の領域では、もっとアジャイル開発を取り入れた方が良いと思います。今回のDX Factoryでは、この攻めのITの領域が、IT部門と事業部門とのシナジーが最も創出されやすいフィールドだと思いますね。
相互理解から進めるDX
阿部:先ほど5Pの話がありましたが、実際にオランダで話を聞いてみて、特に印象的だったトピックはありますか。
安藤:5Pについてはいずれも活発な議論がなされましたが、私としてはその中でも「Promotion」が特に重要だと感じました。「本業が忙しいなかDXを推進しているが、DXをやっていること自体が評価されない」「なぜDXなどやっているのかと言われることもある」といった声を、私はお客様からよく聞きます。
その状況を変えるには、DXがその会社にとってどれだけ重要であるかをトップ自らが発信したり、その推進に取り組んでいる方々をプロモートし、周囲を巻き込みつつ全社運動に変えていく必要があります。DXはそういった施策も並行して実施しなければ前に進まないのかもしれないと、オランダでの議論を通じて強く感じました。
阿部:「People」の解像度が高い場合ほど、「Promotion」が重要になりそうですね。一方で、「Promotion」をプロジェクトではなくカルチャーとして運用するのであれば、その変革を行うのは「People」なので、やはりこの2つは常にセットだと言えそうです。
安藤:佐藤さんが冒頭で言われた、人が重要という部分に戻ってきましたね。ただ、本当にモチベーション高く、DXに取り組むかどうかにもかかっているので、そのためにも「Promotion」の施策が重要だと思います。
佐藤:先程申し上げた通り、私と安藤さんの部署では社内インターンのような制度を採り入れているのですが、これは社員のモチベーション向上や周囲への好影響につながるのでもっと多く実施されるとよいと思います。たとえば、私の部下がインターン先の安藤さんの組織で非常に高い成果を出し、その活動が客観的に評価され、それが両組織でシェアされ、本人にフィードバックされれば、本人のモチベーションは高まり、さらにその人は自分の成功体験を他の人に教えられる立場になります。このように人財の流動性が高まり、ポジティブスパイラルが加速することを願っています。
私たちは先日、北海道の生活協同組合コープさっぽろという、日本中で最もDXが進んでいる生協と連携協定を締結しました(プレスリリース)。実は同組合には事業ライン側の若手が6か月ほどIT部門へ異動し、ローコード・ノーコードツールの開発手法を学び、ツールの開発成果を発表する取り組みがあります。元の部署に戻った後も学んだ知識を生かして業務改善が行われ、よい改善は仕事改革発表会でのレポートや理事長賞という形で表彰されます。まさに実践と学習を繰り返すポジティブスパイラルが回っていると感じました。こうした取り組みを社内だけでなく、お客様との間で他流試合をしたり、交換留学をしたりするのも面白いなと思います。
阿部:お互いに考えていることが分からないとケンカが起きますが、お互いの苦労を理解していれば、共感して一緒にやっていきやすくなりますよね。インターンやジョブローテーションといった手法は昔からありますが、それをもっとクイックに企業を超えて行うこと自体も型化できるノウハウの一つになるかも知れないですね。
佐藤:人同士のコミュニケーションで、「言いましたよね」という言葉がありますが、「言った」のと「伝わった」のが違うのと同じで、聞き手が「確かに情報はもらったけれど、腹落ちはしていません」と感じてしまうと、軋轢が生まれてうまく進まなくなることもあります。ここで大事なのは、相手の立場になることです。
現在は提供者側だけれど、インターンを通じて利用者側の立場になってみると、自分たちがこれまでに提供してきたものがいかにユーザー本位ではなかったが分かるかもしれません。一方で、ユーザー側が提供側の体験をすると、いかに小さなことでクレームを入れ、提供者側に負担をかけていたかに気付くかもしれません。このように、できるだけ相手の立場に立つことや、現在のポジションから遠く離れたところで交流を深めることが相互理解や共感を生み、ひいてはイノベーションに繋がるのではないかと私は思います。
阿部:最先端のDXを実現するためにもっとも重要なのが、実は相手の気持ちを理解することだというのは、いかにも本質的ですね。ベストプラクティスを吸収し、そこにプラスアルファの価値を加えることに関しては、日本人が一番得意なのかもしれません。
佐藤:DX Factory然り、苦労して作ったものを継続的に使ってもらうためにはそのあたりがポイントになりそうですね。たとえば運用し始めたあとにユーザー数やログイン数が増えない場合には、提供側がユーザー側を訪問してヒアリングするといったカスタマーサクセスの活動や、逆にユーザー側が提供側に改善点の要望を出しに行ったりすることが、継続的な使いこなしの促進にも繋がるのではないかなと思います。
自走を見据えた伴走の重要性
阿部:今回のディスカッションを通じて、伴走は常に同じ形でなくともよいのかなと私は思いました。継続的な改善と成長を仕組み化する方法論がDX Factoryにあるとして、私たちと同じような悩みを抱えているお客様にそれを適用した場合、私たちがずっと横にいるから続けられるというよりは、なるべく早くに私たちがいなくても良い状態を作り、その上で、さらなる高みを目指す為にまた新たなテーマで伴走をさせてもらうことで。お客様と私たちが一緒に成長していくことが望ましい姿だと思いました。
安藤:それはユーザー企業からしても、間違いなくそうでしょうね。私たちも色々なサプライヤーやベンダーとやり取りをしますが、彼らのサポートなしで動けないのでは意味がないので、私たち自身が実装をできるようにしてくれることは非常に重要です。
佐藤:ユーザー部門からすれば丸投げは確かにラクですが、その代償としてベンダーロックインが待ち受けていますね。いざというときに誰も対策が分からない、知見が溜まっていないので退職や異動で人がいなくなると、ますますベンダー頼みにならざるを得ません。自分事化してコアの部分を内製化して使いこなしながら実装していくことが、先ほど安藤さんがおっしゃったDXの第一歩であり、継続するための最低条件かなと思います。
阿部:最近は、「DXを推進する人が空洞化している」という話もよく耳にします。その原因は、社内の人材が成長した後に入社し機能分化した後しか経験していない世代、会社の一時代を築いた人たちで二極化しているからです。会社がまだ小さい頃からいる人は自分の担当分野に関わらずビジネスの機会を作っており、会社が大きくなっていく過程で機能分化を体験しているので、先の想像がつきやすい。しかし、機能分化されてから入った人はそうはいきません。
とはいえ、30~40年のスパンで変わる場合には確かに間が大きく空いてしまいますが、それが2~3年で済むなら、このドーナツ化現象は自然と解消されるようにも思います。これだけ変化が早い現代なら、その分成長するチャンスもあるのではないでしょうか。
安藤:そうですね。社内ITでいうと基幹システムの入れ替えがだいたい10~15年に一度行われますが、そのときは何十人、何百人が携わる一大プロジェクトになります。ここで問題になるのが、その入れ替えを経験した人たちが次の10年目で訪れる入れ替えの前に退職などでいなくなる、つまり中抜けをしてしまって人が育たないことです。ただ、昨今は3ヶ月などの短い期間で作ったモノを常に見直しながらブラッシュアップしていくような時代ですし、そこに関わる人たちの成長スピードやサイクルも全然違うものになってきていると思います。
阿部:サイクルが違ったことを活用して人を育てる仕組みを作ったら、イノベーションさせるための仕組みも回りやすいというところに戻ってくるんですね。そういう意味では、私たちがいま苦労しているのも一過性のものなのかもしれません。
安藤:現在はもうすぐ訪れる2025年の崖によってトラディショナルなものから新しいものに変わろうとしている過渡期でもあるので、もう少し時間が経てば新しい方が主流になってくるような気はします。