波形乱れ対策に最も多用されるのはダンピング抵抗です。22 Ω とか 33 Ω(豆知識:抵抗やキャパシタの値 参照)とかの抵抗をドライバの出力に直列に挿入します。これは、基本的にはドライバの出力抵抗の値と線路の特性インピーダンスの値とを近づけるために入れるものです。どの程度近づけるのが望ましいかについては、『ダンピング抵抗の値ってどのように決めるの?』にて詳しく説明します。

ところで、ドライバの出力抵抗の値は通常 10 ~ 70 Ω 程度なのですが、一般にはデータシート上には記載されていません。これが分からないと、線路の特性インピーダンスの値に近づける計算もできません。私は著書や講演で、低駆動能力の代表として 4 mA ドライバの出力抵抗は 70 Ω、高駆動能力の 24 mA ドライバの出力抵抗は 10 Ω 程度と述べています。これらの抵抗値をどのように推測したのでしょうか?20 ~ 30 年前の TTL の出力特性は非線形でした。ところが、CMOS になってからは、出力特性は線形とみなせるようになりました。図1 に ibis(脚注1)から得た出力特性(静特性)の例を示します。

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図1 ドライバの出力特性

出力特性とは、ドライバの出力電圧 Vo と出力電流 Io との関係をグラフ化したものです。一般的には、横軸に出力電圧を、縦軸に出力電流をとります。電流の向きは、ドライバに流れ込む向きを正とします。これは、ずっと昔から使われていたトランジスタの静特性の表現方法にあわせています。同図の青系の線はプルダウン(Pull-Down)、赤系の線はプルアップ(Pull-Up)を示します。

プルダウンとはドライバが電流を引き込む特性で、ロー(Low)レベルを出すのに寄与します。プルアップは逆にドライバが電流を吐き出す特性で、ハイ(High)レベルに寄与します。CMOS 出力の場合、P チャネル・トランジスタが上に、N チャネル・トランジスタが下に上下にトーテム・ポール接続されていますが、プルダウンは下の N チャネル・トランジスタが働き、プルアップは上の P チャネル・トランジスタが働きます。同図は、テキサス・インスツルメンツ社の 24 mA ドライバの例です。ibis には、一般的に typ、min、max の特性が示されており、これらも同時に図示しています。図2に、プルダウンの一部、すなわちロー・レベル付近を拡大して示します。

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図2 ドライバの出力特性(拡大)

図2 に示すように、24 mA ドライバの場合、ローレベルの出力電流 IoL = 24 mA のときに、出力電圧が 0.4 V 以下と規定されます。ibis の min の特性がこの境界より左上を通る必要があります。シグナルインテグリティの解析は、多くの場合、typ の値を用います。

図2 の typ の特性では、VoL = 0.4 V のとき、IoL = 35 mA です。この点と原点を結んだ直線の傾きは 11 Ω となります。傾きは、電流 ÷ 電圧 なので、厳密に言えば傾きの逆数です。この 11 Ω が 24 mA ドライバの出力抵抗となります。図2 の例では、min 値の 24 mA に比べて、そのおよそ 1.5 倍の電流駆動能力があります。したがって、これを一般化して、0.4 V 出力時の電流値が typ の 1.5 倍としてその傾きを出力抵抗とすれば、ドライバの駆動能力によって出力抵抗を計算することができます。12 mA ドライバの場合は、0.4 V ÷ (12 mA × 1.5) = 22 Ω、8 mA ドライバなら、0.4 V ÷ (8 mA × 1.5) = 33 Ω、4 mA ドライバは、0.4 V ÷ (4 mA × 1.5) = 67 Ω です。 おおざっぱには、4 mA ドライバは 70 Ω、24 mA ドライバは 10 Ω といってもいいでしょうが、複数の駆動能力を比較するときには、私は 24 mA ドライバは 11 Ω、12 mA は 22 Ω、8 mA は 33 Ω、4 mA は 67 Ω を使っています。この出力抵抗と、線路の特性インピーダンスとの不一致をどのように解消するか、それを実現するのがダンピング抵抗です。『ダンピング抵抗の値ってどのように決めるの?』をご覧ください。

脚注1

ibisとは I/O Buffer Information Specification の略で、デバイスの回路解析のためのビヘイビア・モデルです。モデルは出力回路(ドライバ)の場合、パッケージの LCR、ドライバのキャパシタ、ドライバの電圧・電流特性(静特性)、ドライバのスルー・レートなどから構成されています。SPICE(スパイス)モデルと異なり、半導体のプロセスや回路情報などの知的財産情報を含まないため、半導体ベンダーからみると提供しやすくなっています。また、このモデルを SPICE に取り込んで解析する際にも、SPICE モデルよりも高速に実行できます。

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