分布定数回路には 特性インピーダンス という概念があります。 英語で Characteristic Impedance といいます。信号が伝わる導体のことを伝送路(Transmission Line)または線路といいます。配線と言ってもいいのですが、信号が伝わる経路という意味からこのようにいうことが多いようです。電源や直流信号の配線は単に配線といいますが、伝送路とはいいません。この伝送路には電気信号が波として伝搬していきます。伝搬(でんぱん)の代わりに伝播(でんぱ)ということもあります。英語で Transmit といいます。Characteristic は「特有の」という意味がありますから、ある伝送路が持っている特有のインピーダンスという意味になります。インピーダンスとは抵抗と同じ 電圧 ÷ 電流 のディメンションをもっています。

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図1 集中定数回路の電圧と電流

分布定数回路に対するものは集中定数回路です。電気回路とか交流回路などで習った一般的な回路のことをこのようにいいます。部品の空間的な広がりを考えなくてよい回路です。電池で豆電球を光らせるときに、電池の出口と電球付近の電圧の違いは意識しません。電流は、オームの法則により決まります。(脚注1

図1 はこれを回路図で表したものです。電流は電圧源と負荷の抵抗の値のみで決まります。

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図2 分布定数回路の電圧と電流

この電池と電球との間の配線を極めて長い配線にしたときは、部品の空間的な広がりを考える必要があります。すなわち、分布定数回路という概念が出てきます。

図2 は分布定数回路のときの電圧と電流です。電圧源から最初に流れ出る電流の値は負荷抵抗に依存しません。電圧源は負荷に何が接続されているかまだ知らないのです。「極めて長い」を電流が電圧源から負荷まで伝わるのに 1 秒を要するような配線とします。 その長さは、地球を 7 周り半するような極めて長い配線です(『豆知識:電気の伝わる速度』参照)。簡単のために配線の抵抗は無視できるとし、電球の抵抗値は常に一定(脚注2)であるとします。地球を 7 周り半するような配線でつないでいるので、配線を電池につないでから 1 秒後に電球が光ります。すわなち、電池付近の電圧と電球付近の電圧とは同じではありません。電池に配線をつないだ瞬間にはどんな電流が流れるのでしょうか。負荷にどんな電球がつながれているのか、電池からは分かりません。実は、電球がつながっていても、何もつながっていなくても、または、短絡されていても、電池をつないだ瞬間に電池から流れ出る電流は、いずれの場合も同じ値となります。この配線で、電池をつないでから例えば 0.5 秒後に豆電球を外しても、電池から流れ出る電流はしばらくはそのままです。実は、豆電球を外したことを電池が知るのは、電池から出た電流が行って帰るまで分からないのです。

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図3 (a) 豆電球の電力
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図3 (b) 豆電球の電力(拡大)

では、最初に電池から流れ出る電流はどのように決まるのでしょうか。この電圧と電流との比は、電圧 ÷ 電流なのでインピーダンスのディメンションとなり、ある線路にとっては特有のインピーダンスなので、特性インピーダンスというわけです。

プリント配線板の特性インピーダンスはおよそ 50 Ω 程度です。 なぜ 50 Ω 程度かというと、いろいろと理由はありますが、このことはまた別の機会に説明しましょう。概念的にいえば、幅広でグラウンド面に近い配線は特性インピーダンスが低く、細くてグラウンド面から離れた配線は高い特性インピーダンスを持ちます。製造上の制約もあるので、実用上は 30 ~ 70 Ω 程度に収まっています。

図3-a はこの電池から豆電球をつなぐ地球を 7 周り半する配線の特性インピーダンスを 50 Ω、電池を 1.5 V(ボルト)、豆電球を 0.3 W(ワット)としたときの豆電球の電力を時間とともに表したものです。図3-b にその立ち上がり部分を拡大して示します。電池をつないでから 1 秒後、すなわち電池から豆電球まで最初に電流が到達した時点では、わずか 0.02 W だけの電力しか豆電球には伝わりません. さらに 1 往復後、すなわち 3 秒の時点で約 0.06 W に増加します。最終値の 0.3 W の 90 % 程度にまで到達するのに 20 秒ほどかかります。

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図4 消費電力の異なる豆電球の電力

それでは、もう少し電力の小さな豆電球の場合には電力はどのようになるのでしょうか。先に説明した 0.3 W の 1/10 の 0.03 W の豆電球の電力は 図4 のように変化します。1 秒の時点で規定の 0.03 W の 1.5 倍程度の電力が伝わっています。その後、振動して、最終的な 0.03 W に落ち着きます。電池から最初に流れ出る電流が特性インピーダンスによって決まっているから、負荷の豆電球にたどりついたときに、過不足が生じるわけです。

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図5 電池と豆電球の電圧

図5 には電池の電圧と豆電球の電圧を時間とともに示しました。 線でつないでいても場所によって電圧が異なることがよくわかります。
もちろん、配線には抵抗がありますし、豆電球は、光ってないときと光ってからでは抵抗値が異なるので、実際とは異なりますが、概念として示しています。

電球に流れる電流については、『豆知識:電球に流れる電流』をご覧ください。

 

脚注1
電池の電圧を 1.5 V として、0.3 W の電球をつないだときに 0.2 A(アンペア)の電流が流れます。電圧と電流との積が電力となりますから、電流は電力 ÷ 電圧、すなわち、0.3 W ÷ 1.5 V = 0.2 A というわけです. このときの豆電球の抵抗値は、1.5 V ÷ 0.2 A = 7.5 Ω になります。

脚注2
この場合は 7.5 Ω。

実際には、点灯しているときの電球のフィラメントの温度は極めて高く、抵抗は正の温度係数を持つので、消灯時の抵抗値は点灯時の 1/10 程度です。ここでは実際の豆電球のふるまいを述べているわけではないので、消灯時も点灯時と同じ抵抗値を持つとしています。

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