今回は、やや上級編になりますが、ボードの特性インピーダンスはどのように決めればよいかについて解説します。

前回までに、ドライバの駆動能力やダンピング抵抗について述べました。それでは、ボードの特性インピーダンスの値はどのようにして決めるのでしょうか。何となく、50 Ω とか 70 Ω にしているのではないでしょうか。特に意味があるわけでもなく決めているのが大半だと思います。
ボードの特性インピーダンスは、作り方、すなわち、作りやすい値にすることから決まるのが第一の要因でしょう。ところが、もっと大事なことは、反射による波形乱れやクロストークノイズの大きさも特性インピーダンスで決まってきます。「なんとなく」決めずに、最適な値に決めれば、設計品質の良い、手戻りの少ないボードになります。

作り方からみた特性インピーダンス

>なぜ、一般には 10 Ω や 100 Ω のボードはないのでしょうか。作りにくいのもひとつの理由です。
図1 はボードの断面図の例です。4層板の表面層とその下のグラウンド層を想定しています。銅箔はエッチング(脚注1)により形成されるので、均一にエッチングできずに、上に細いやや台形となります。

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図1 ボードの断面図

ボードの特性インピーダンスは、主に、パターン幅Wとグラウンド (接地) 面からの距離 (高さ) h とによって決まります。電源面も高周波的にはグラウンド面とみなすことができます。パターン幅は細いほど実装密度が上がりますが、エッチングで作るので、細さには限界があります。普通に使っているガラスエポキシの FR-4(脚注2)の場合は、最小でも 100μm(マイクロメートルまたはミクロン)(脚注3)程度です。これ以上に細くすると、均一にエッチングできないと断線してしまいます。
グラウンドからの距離(高さ)h は、プリプレグ(Prepreg)という、層と層との間に入る絶縁体の厚みで決まります。エポキシ樹脂を含ませたガラス繊維でできたガーゼのようなものです。この厚さは、メーカによって異なりますが、1枚 50 ミクロン程度です。これを 2枚重ねると 100 ミクロンになります。この W = 100 μmh = 100 μm の場合の特性インピーダンスがほぼ 50 Ω になります。50 ミクロンのプリプレグを用いる場合には、高さ h は 50 ミクロン単位となり、途中の 120 ミクロンなどは選ぶことができずに、飛び飛びの値になります。

特性インピーダンスを決めるパラメータは、パターン幅の W、グラウンドからの距離 h、および基板の樹脂の誘電率 ε(ギリシャ文字小文字のイプシロン)です。

表1 特性インピーダンスの例
W (μm) h (μm) Z0  (Ω)
75 100 61
100 55
150 47
200 41
100 50 38
150 67
200 76

表1 にこれらのパラメータを変えたときの特性インピーダンスを示します。なお、ガラスエポキシの FR-4 のエポキシ樹脂の比誘電率(脚注4)は通常 4 ~ 5 程度です。W が大きく(すなわちパターンが太く)なると特性インピーダンスは低くなり、逆に W が小さく(すなわち細く)なると特性インピーダンスは高くなります。h が大きくなると特性インピーダンスは高く、逆に h が小さくなると特性インピーダンスは低くなります。表1 から分かるように、普通に作ると、特性インピーダンスは 50 Ω 前後で、低くても 40 Ω、高くても 70 ~ 80 Ω 程度になります。そのような理由で、一般的なボードの特性インピーダンスは 50 ~ 60 Ω に選ばれていると考えます。

特性からみた特性インピーダンス

現在多く用いられている CMOS IC は、駆動能力が大きい傾向があります。通常は、6 mA 程度の駆動能力で十分ですが、12 mA、16 mA、さらには 24 mA のものがあります。駆動能力が大きいために、レシーバ端では、反射による振動波形が生じます。このために、『ダンピング抵抗の値ってどのように決めるの?』で述べたダンピング抵抗を用いる必要があります。

12 mA のドライバをダンピング抵抗を用いずにそのまま使おうとすると、ドライバの出力抵抗は 22 Ω(『特性インピーダンスとドライバの駆動能力』参照)ですから、『ダンピング抵抗の値ってどのように決めるの?』のオーバーシュート 20 % にするためには、特性インピーダンスは 33 Ω という低い値になります。この特性インピーダンスの値を実現するためには、W = 130 μm、h = 50 μm となります。

同じボード内に、4 mA のドライバが混在すると、特性インピーダンスが 33 Ω なら、レシーバ端の最初の立ち上がり電圧は、フル振幅の 70 % 以下にしかならず、振幅不足となります。特性インピーダンスが 50 Ω のときに 4 mA のドライバで駆動すると、レシーバ端の最初の立ち上がり電圧は、85 % で何とか立ち上がるし、特性インピーダンスが 60 Ω なら 103 % になるので、いろんな種類のドライバに対応させるために 50 ~ 60 Ω の特性インピーダンスが適当な値になっていると考えます。

次にクロストークの面から特性インピーダンスをみてみます。特性インピーダンスが高いということは、グラウンド面との結合が弱いことを意味します。したがって、隣接線路との結合は相対的に強くなります。このことは、特性インピーダンスが高いとクロストークが大きく、逆に特性インピーダンスが低いとクロストークは小さくなると予想できます。

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図2 特性インピーダンスとクロストーク

図2 に、特性インピーダンスに対して、クロストーク係数 ξ(ギリシャ文字小文字のクサイ)を計算した例を示します。特性インピーダンスが 70 Ω では ξ = 0.38 と危険領域にありますが、特性インピーダンスを 50 Ω にすると、ξ = 0.22 と通常の範囲に低減できます。特性インピーダンスを 70 Ω のままで ξ = 0.22 とするには、2本のパターン間の距離を図2 の例の 100 μm から 270 μm まで広げる必要があり、実装密度からみると非常に不利になります。必然性があって 70 Ω の特性インピーダンスを選択するなら別ですが、「ただ何となく」70 Ω に選ぶのなら、もったいない話しです。今設計しているボードの特性インピーダンスが、なぜその値になっているのか、見直してみることは非常に価値があります。ノイズに強いだけではなく、実装密度を上げて、例えば、6層板を 4層板にすれば格段のコストダウンとなります。

ボードの断面図から特性インピーダンスを計算するソフトは多数発表されていますが、著者のお薦めは Windward 社の GreenExpress V2 です。評価版や無償のオンライン解析版も用意されていますので、お試し下さい。
※ Windward 社が閉店したため、解析ツール GreenExpress V2 を入手することができません。

本ソフトに限りませんが、実際にボードメーカさんに設計、製造を頼む場合には、計算による結果は参考にとどめて、そのボードメーカさんが自社のプロセス結果を反映した設計ルールにお任せするようにすることをお薦めします。寸法指定しても、必ずしも所期のインピーダンス値にはならないことが多いし、費用も高くなることが多いようです。

脚注1

銅をエッチング液に浸すと化学反応により銅が溶けます。ガラスエポキシ樹脂の表面に貼られた銅箔の表面に写真の技術を使って、配線部分にマスクを形成すると、周りだけ溶けて配線が残ります。これを配線パターンまたはトレースといいます。

エッチングの時間が短いと、周りが十分に溶けずに残り、隣のパターンと接触してしまいます。逆にエッチングの時間が長いと溶けすぎて細くなり、断線することもあります。
パターン幅 W が細くなるほどこの制御が難しくなります。なお、パターンの断面は長方形が望ましいのですが、一般には溶けすぎる前にエッチングをやめるので、台形になります。

脚注2
FR とは Flame Retardant の頭文字で、プリント配線板の耐燃性(または難燃性)の等級を示す記号で、米国の NEMA 協会が以下のように規定しており、市場の大半は FR-4 です。
FR-1:FR-2 紙フェノール基板
FR-3:紙エポキシ基板
FR-4:ガラスエポキシ基板
FR-5:耐熱性ガラスエポキシ基板
FR-6:ガラスマットポリエステル基板

脚注3
長さの単位で、1メートルの百万分の一がマイクロメートル(μm)で、ミクロンともいいます。このミクロンという単位は国際単位系(SI)には含まれていないので、論文や公式文書にはマイクロメートルを使うべきですが、口頭ではミクロンも多用されているので、本コラムではミクロンも用いています。

脚注4
誘電率 ε を真空の誘電率 ε0(= 8.854 × 10^-12 F/m)で割った係数を比誘電率 εr といいます。空気はほぼ真空に等しいので εr = 1 とみなします。ガラスは εr = 5~10 程度、エポキシは εr = 3~4 程度ですが、FR-4 はエポキシの中にガラスの芯が入っているので、εr はエポキシよりやや大きくなります。

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