この記事では、LT8640と言うパワー素子内蔵型の同期式降圧型DC/DCコンバーターを用いて、次の周辺定数の選定(算出方法)について説明していきます。
・出力電圧を設定する分圧抵抗
・スイッチング周波数の設定
・インダクター
・入力コンデンサー
・出力コンデンサー
定数計算と合わせて、部品選定や部品配置の基本的な注意点についても説明します。
LT8640でDC/DCコンバーターの定数計算を学んでみよう!
電源回路の設計は、難しいと思われがちですが、回路定数の選定はそれほど難しくありません。
降圧型のDC/DCコンバーターであれば、今回ご紹介する内容で定数選定して頂くことが可能です。
(念のため、選定した型番のデーターシートも参照しながら設計してください。)
例えば、入力VIN=12(V) 出力VOUT=3.3(V) 負荷電流IOUT=4(A)が必要な場合を考えてみます。
80%ディレーティングを考慮して、負荷電流は5(A)品 [=4(A)÷80%] を選定します。
※ ディレーティングとは、定格に対してどれくらいマージンを持って設計するかと言う指標です。

出力電圧の設定
分圧抵抗R1,R2とフィードバック電圧(VFB)から出力電圧(VOUT)は次の式の様に設定できます。

R1を1MΩとして出力電圧3.3Vの時のR2を求めます。
LT8640のフィードバック・リファレンス電圧は、VFB=0.97なので次の式に代入して計算します。
※ フィードバック・リファレンス電圧は、製品によって異なるのでデーターシートで確認してください。

計算するとR2は、416KΩとなるので、E96系列から412KΩを選定します。
よく分圧抵抗の選定で、分圧比があっていれば良いと考えて、R1=1KΩ、R2=412Ωとしても良いか?と質問を受けますがNGです。
分圧抵抗は、推奨の範囲があるのでデーターシートの推奨回路例を参考に抵抗値の選定をお願いします。
スイッチング周波数
LT8640のスイッチング周波数は、200kHz~3MHzの範囲で設定できます。
周波数を上げて小型化しつつ、効率も落としたくない為1MHzの設定で使用することにします。
周波数設定用の抵抗RTの値は、次の式で計算できます。
※ スイッチング周波数の設定方法は、製品によって異なるので算出式などはデーターシートで確認してください。

抵抗RTの単位はKΩで、スイッチング周波数fswの単位はMHzです。
計算すると、RT=41.3KΩとなるのでE96系列から41.2KΩを選定します。
インダクターの選定
インダクターの選定は、次の式でインダクタンスを決定します。
インダクター電流は実負荷としては4Aですが、LT8640の定格の5Aで計算します。
ΔILは、インダクターのリップル電流なので最大負荷電流の40%とします。
また、Vin(max)には、実仕様の上限である42Vを入れて計算します。

計算からインダクタンス値は、1.5μH以上あれば良いことになります。
軽負荷時の効率改善とリップル電圧を小さくするため、データーシートの推奨回路では2.2μHを選定しています。インダクタンス値を大きくしすぎると、負荷応答性が悪くなる点には注意が必要です。
インダクターは、インダクタンス値の他に定格電流と飽和電流に気を付けて選定してください。
入力コンデンサーの配置に注意
入力コンデンサーは、電源 - GND間のデカップリングとトップMOSFETソース電流をフィルターするために配置します。これを効果的におこなうため、入力コンデンサーは、VINピンとGNDピンに出来るだけ近くに配置する様に気を付けてください(図2の赤丸部分参照)。LT8640はVINピンが2つあるので、低ESRの1uFのコンデンサーをVIN1とVIN2直近に配置することが重要です。

データーシートの推奨通り、VIN1とVIN2をまとめて接続した電源ラインに4.7uFのセラミックコンデンサーを1つ配置してください。
セラミックコンデンサーは、X7RまたはX5Rの特性を使用してください。一般的な使用方法では、これらの入力コンデンサーのみで問題ありませんが、アプリケーションによっては、次の電源コラム記事の内容に注意してコンデンサーを追加してください。
[電源コラム]
出力コンデンサー
出力コンデンサーは、データーシートの「標準的応用例」に掲載されている回路図の定数を参考にしてください。負荷応答特性やリップルを改善したい場合は、コンデンサーの追加を検討してください。
その時のリップル電圧の計算式は、次の式を参考にしてください。
この式は、理想状態の計算式で基板上のインダクタンス成分やコンデンサーのESLなどは考慮していません。
その為、実機の測定結果とは、大きく異なる場合もあります。

その他
ソフトスタート
ソフトスタートは、TR/SSピンに接続するコンデンサーの容量で設定できます。
これにより、出力電圧の立ち上がり時の傾き(時間)を設定することが可能です。
接続するコンデンサーと立ち上がり時間の関係式は、出力電圧の設定によって異なるため、LTspiceや評価ボードを用いて確認してください。
LTspiceの使い方は、「LTspiceを使ってみよう!」を参考にするか、無料セミナーを受講してみてください。
位相余裕の調整
LT8640の位相余裕度調整用の補償回路は、ICに内蔵されています。
調整が必要場合は、FBピンとVOUTの間に接続しているコンデンサーでおこなってください。
LT8640において、今回の様なFB抵抗値が大きい場合、コンデンサーの値は通常4.7pF~22pF必要です。
調整する場合は、位相余裕度を測定しながらおこなってください。
その他
・BSTピンに接続しているコンデンサーは、ブートストラップ回路用のコンデンサーです。データーシート通り、0.1uFを接続してください。
・INTVCCに接続しているコンデンサーは、内部の電源(INTVCC)を安定化させるためのコンデンサーです。データーシート通り、0.1uFを接続してください。
今回は、一般的な降圧型のDC/DCコンバーターの定数計算について説明してきました。
ここで説明していない周辺部品については、お使いの製品のデーターシートを参考にしてください。
この記事の内容含め、もっと詳しく知りたい方は、お勧めセミナーにある「電源設計セミナー」を受講してください。
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