反射の解析については、以前に詳しく述べました。



クロストークについては、以下のように、何回かに分けて述べています。



以上のいずれも、数式は煩雑になるので、意識して極力避けてきました。
「数式による反射の解析」については、冗長なくらいに詳しく述べましたので、少し要領をつかめたと思うので、クロストークについても少し詳しく述べます。通常現れる、対称線路、すなわち、同じ寸法の線路間のクロストークについては、拙著をご覧ください。

対称線路の場合は、コモンモードとディファレンシャルモードという考えを導入することによって、理解が簡単です。ここでは、非対称の線路、すなわち、加害者線路と被害者線路の寸法、例えば、パターン幅が互いに異なるような例も含めた場合について述べます。層間のクロストークについても適用できます。

数学的には、行列を用いて、固有値や固有ベクトルを理解する必要がありますが、まずは、これらを用いないで、解く方法を紹介し、固有値や固有ベクトルについては、別の機会に述べます。

等価回路と方程式

反射の場合と同様に、図1の等価回路を考えます。
単一線路と比べて、線間の相互インダクタンスLMや線間容量CMが新たに加わります。

図1. 結合分布定数線路

結合項を含めて、線路1に対して、式を図2 左上のように立てます。
電圧と電流の式が対称ではないので、図2の中央の矢印の式のように、C01+CM=C1、CM=-Cmと置いて、同図右のように変形します。電圧の式はそのままでもいいのですが、電流と合わせて、見やすくするため、L01=L1、LM=Lmと単純に置き換えます。

線路2に対しても同様に式を立て、反射のときと同様に、偏微分方程式を得ます。
なお、この式の変形は、必須ではありません。変形しないまま解いている例は多く見かけますが、変形したほうが簡単だと考えます。
電圧の式、電流の式それぞれを行列で表します。

図2. 式の変形

図3は、式の変形に対応した等価回路です。ここで、Cmはマイナスであることに着目してください。線路定数を求めるソフトでは、結合容量は、多くの場合、マイナスで表示します。そのマイナスの意味は、式の変形からきていると理解してください。

図3. 結合分布定数線路(式の変形後)

連立方程式から電圧を求める

図4に示すように、反射の場合と同様に、偏微分方程式をラプラス変換して、常微分方程式にします。
電圧の式を2度微分して、電流の式を代入し、電圧だけの式にします。
電圧の式のV1の2階微分をさらに2度微分して、V2の2階微分をV1の4階の微分の式に代入すると、V1に関する4階の微分方程式を得ます。

図4. 連立方程式からV1を求める

この4階の微分方程式のd/dxを微分演算子Dとおきます。(記号解法)
φ(D)は複二次式で、φ(D)=0の根の2乗(D^2)をλ1およびλ2とし、これらは、2次方程式の根の公式により、同図のように求まります。
V1は、モード1およびモード2の、二つの波動ε1およびε2の和(1次結合の最も簡単な形)で表されるとします。対称回路の場合、これらはコモンモードとディファレンシャルモードです。
ここに、λの平方根は、それぞれの波動の遅延時間で、速度uの逆数です。
モード1のε1の右辺第1項は、右行波(右に進む波)で、第2項は左行波です。係数のA11およびA12は積分定数で、後で、境界条件により求めます。
V1の式を、モード1とモード2の1次結合として、a11とa12の係数(ここでは、いずれも1)をかけて表現します。

図5. 線形微分方程式の解

図4のV1の2階微分の式から図6に示すように、V2を求めます。
この式に、図5の最後のV1の式と、V1の2階微分とを代入するとV2が求まります。
この式も、ε1とε2との1次結合です。それぞれの係数を、同図のように、a21とa22とおきます。

図6. V1からV2を求める

電流を求める

図7に示すように、電圧の式から電流を求めます。
図4の電圧の式から電流を求めます。この式中の電圧の微分を求めます。
この微分の式を上で求めた電流の式に代入して、I1およびI2を求めます。
電流も、電圧と同様に、モード1とモード2の1次結合として表されます。これらの式の左辺の文字は、ギリシャ文字のι(イオタ)です。

図7. 電流

図8の回路に対して、近端と遠端の電圧、電流を図のように決めると、電圧と電流の関係は、図に示すようになります。

図8. 近端と遠端の電圧・電流

境界条件により積分定数を求める

図9に近端と遠端の境界条件を示します。これらの4つの式に、図8の電圧と電流の式を代入すると、4つの積分定数、A11、A12、A21、A22に関する連立方程式が求まります。

このA11~A22についての連立方程式を解いて、図8の式に代入すると、近端と遠端の電圧が求まります。
今回は、連立方程式を立てるとこまでとします。

4元の連立方程式なので、それほど簡単ではないですが、解を、ラプラス逆変換すると時間関数を得ます。
対称線路については拙著を参照ください。

図9. 境界条件と係数方程式

次回は、いくつかの解き方について述べる予定です。

参考文献

 碓井有三 :ボード設計者のための分布定数回路のすべて(第3版)自費出版, 2016

碓井有三のスペシャリストコラムとは?

基礎の基礎といったレベルから入って、いまさら聞けないようなテーマや初心者向けのテーマ、さらには少し高級なレベルまでを含め、できる限り分かりやすく噛み砕いて述べている連載コラムです。

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