縦続接続のクロストーク

クロストークを考えるとき、通常、2本の線路は、ドライバからレシーバまで途中で特性が変わりません。ところが、途中で特性が変わることも、実は多くあるのです。

例えば、
・外部からユニットを購入して自分の設計したボードに接続する
・配線密度が高い個所だけ部分的に配線ピッチを狭くする
・配線の一部にケーブル接続が存在する
・特性インピーダンスだけを考慮してクロストーク係数は考えてない
のようなケースです。

図1 縦続接続によるクロストーク

図1 は、2本線路を縦続接続した例です。Line1 はクロストーク係数(脚注1)ξ=0.2 のクロストークの大きい線路で、Line2 は ξ=0.05 のクロストークの小さな線路です。2本線路は、コモンモードとディファレンシャルモードの二つのモードに対応して、ZC と ZD と二つの特性インピーダンスを考えます。(脚注2)

クロストーク係数 ξ と、2本線路の特性インピーダンス ZC、ZD の関係は同図内に記載しているとおりです。いずれの線路も、特性インピーダンス Z0 は 50Ω とします。(ξ:ギリシャ文字小文字のクサイ)

ここで、同図の表のような、二つのケースを考えます。
・ケース1:Line1 のみで、遅延時間は 2ns(およそ 30cm)
・ケース2:Line1 と Line2 が同図のように縦続接続された場合
両者とも全体の配線長(遅延時間)は、2ns で同じです。ケース2 は、配線長の 1/4 がクロストーク係数の小さな線路なので、ケース1 よりクロストークが小さいような気がします。

図2 縦続接続によるクロストーク増大
図3 重ね合わせによるクロストーク計算

ところが、図2 に示すように、この二つのケースのクロストークを解析した結果を見ると、ケース2 のクロストークは、ξ の小さな線路を縦続接続したにもかかわらずケース1 に比べて 1.5 倍程度増大しています。

この原因を調べるために、図3 の重ね合わせによるクロストーク計算を行います。この方法については、「バックワード・クロストーク係数 Kb とフォーワード・クロストーク係数 Kf」を参照ください。

図4 Line1 のみ
図5 Line1 + Line2 縦続接続

図4 は、ケース1 の、Line1 のみの Common と Differential の波形で、両者の差(図3 では和)がクロストークとなります。図5 は、ケース2 の、Line1 と Line2 とを縦続接続した場合です。Line1 と Line2 の接続点で反射が生じます。その結果、Common と Differential との差をとると、クロストークが増大します。

上の例は、Line1 がクロストークの大きい線路で、Line2 が小さい線路ですが、図6 に、この逆接続、すなわち、Line2 と Line1 との縦続接続の例を示します。クロストークのピークのタイミングは異なりますが、振幅は前の例とほぼ同じです。

図6 Line2 と Line1 の縦続接続
図7 Line2 のクロストーク係数による差

上の例は、Line1 がクロストークの大きい線路で、Line2 が小さい線路ですが、図6 に、この逆接続、すなわち、Line2 と Line1 との縦続接続の例を示します。クロストークのピークのタイミングは異なりますが、振幅は前の例とほぼ同じです。

図7 に、Line2 のクロストーク係数を変えた場合のクロストークを解析して示します。Line2 のクロストーク係数 ξ が小さいほどクロストークが大きくなっていることが分かります。すなわち、Line1 と Line2 のクロストーク係数が異なるほどクロストークが増大します。特に、Line2 が同軸ケーブル(ξ=0)のような場合には、このことに意識が回らないので要注意です。


(脚注1)
近端クロストークとその対策」の 脚注2 参照。

(脚注2)
差動インピーダンスとは?」の 2本線路の特性インピーダンス参照。

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