パラレルからシリアルへ

最近は、信号の伝送方式が従来のパラレルに同時に送る方式から、複数の信号を 1本または少数の本数にまとめてシリアルで送る方式に変わってきています。代表的なものが、PCI から PCI-Express (PCIe) やハードディスクの ATA から SATA への変更です。

多くの信号本数を使うと、信号間のタイミングのずれ(スキュー)が転送速度を制限する要因となります。これに代わって、複数の信号をパラレルからシリアルに変換して、ひとつにまとめて送る方式に変える方がトータルの転送速度が上がるし、信号本数も減り、配線の取りまわしも簡単になるため、PCI や ATA は急速にシリアル化が進んできました。

シリアル伝送から差動伝送へ

図1 は、グラウンドを基準に送る不平衡伝送(Unbalanced Transmission)と、2本の線路に互いに極性の異なる信号を与えてその差をとる平衡伝送(Balanced Transmission)とを示します。

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図1 不平衡伝送と平衡伝送

従来のシングル(パラレル)伝送は、グラウンドを基準に送る不平衡伝送でしたが、差動伝送は平衡伝送で信号を送ります。

信号のしきい値は、2本の信号の差がゼロになる点なので、不平衡伝送に比べて、狭いしきい値が得られます。その結果、信号振幅も小さく抑えることができるので、高速伝送に向いています。
同じ信号の立ち上がり時間でも 3.3 V 振幅と 0.4 V 振幅とでは、電圧や電流の時間当たりの変化量が 1/8 以下になり、外部に与えるノイズもそれに比例して低減します。

2つの信号の差をとるということは、同じ極性で乗ったノイズは引き算でキャンセルできるので、ノイズに強い伝送形態です。また、マクロにみる(遠くから全体をながめる)と立ち上がりと立ち下がりとが同時に起こっているので、トータルとして何も変化してないように見えて、他に与える影響も少なくなります。

差動伝送は、トータルの信号本数が少ないことと振幅が小さいことにより整合終端しても消費電力の増加が少ないので、よりきれいな波形を送るために、一般的に整合終端します。

2本線路の特性インピーダンス

1本の線路の場合には特性インピーダンスは明確に定義できますが、2本線路の場合にはお互いの線路の信号が影響し合い、その状態によって特性インピーダンスは異なります。

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図2 隣接する線路の状態により異なる特性インピーダンス

図2 のコモンモードのように、両者に同じ極性の信号が伝送する場合は線路間には電気力線が存在しないので、特性インピーダンスは高くなります。この逆に、同図のディファレンシャルモードのように、互いに異なる極性の信号が伝送する場合には、線路間に密に電気力線が存在するので、特性インピーダンスは低くなります。前者をコモンモード(またはイーブンモード)の特性インピーダンス ZC、後者をディファレンシャルモード(またはオッドモード)の特性インピーダンス ZD と呼びます。両者の間には、ZCZD の関係があります。
2本の線路の間の結合が強いほど ZCZD の比は拡がり、弱ければ最終的に等しくなって、2本の独立した線路とみなせるようになります。このときの特性インピーダンス Z0 は、ZCZD との幾何平均、すなわち、

Z0 = √(ZC × ZD)

となります。
近端クロストークとその対策』で説明したクロストーク係数 ξ(ギリシャ文字小文字のクサイ)は、

ξ = (ZC - ZD)/(ZC + ZD)

と表され、これらから ZC および ZD を求めると、

ZC = √(1 + ξ)/(1 - ξ) × Z0
ZD = √(1 - ξ)/(1 + ξ) × Z0

と表されます。

差動インピーダンス

差動インピーダンスは、例えば、PCIe は差動インピーダンスが 100 Ω、USB は 90 Ω となります。この値は、ディファレンシャルモードの特性インピーダンス ZD の 2倍です。コモンとディファレンシャルの特性インピーダンスは、コモン > ディファレンシャルの関係がありますが、コモン < ディファレンシャルの関係になっている場合には、コモンは 2本当たりのディファレンシャルは 2本の線間のインピーダンスを表していますので、注意が必要です。この場合には、コモン = ZC/2ディファレンシャル = 2ZD となっているはずです。

シングル伝送と差動伝送との同一層内同居

差動伝送を多用する装置の場合には、プリント配線板の層構成は独立した差動信号の層を確保できます。一方、ほとんどの配線がシングル伝送で、一部の配線だけ差動伝送を適用したい場合には、プリント配線板のシングル伝送の層に差動伝送を同居させる必要が生じます。きちんと考えずに、50 Ω のシングル伝送で設計した層に、単純に配線を 1本追加した場合の平衡伝送の特性インピーダンス ZD は 1本の線路の特性インピーダンス Z0 の 80 % 程度になりますので、注意が必要です。

図3 には、シングル伝送と差動伝送とを同一層内に同居させるときに、シングルあるいは差動どちらを重視するかに分けて寸法の例を示します。実装密度を十分に考慮して寸法を決定する必要があります。

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図3 シングル伝送と差動伝送の層内同居

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