ノイズマージンの考え方

ロジック回路の設計では、ノイズマージンの考え方が必要になります。分かったようで分かっていないのがノイズマージンだと思います。この考え方が誕生した時代と現在では環境が大きく変わっていますが、過去のノイズマージンの考え方を踏襲しているのが実情です。

ノイズマージンとは

図1 入出力レベルとノイズマージン

ロジック IC を接続する場合、前段の出力電圧と後段の入力電圧について規定します。図1 に示すように、出力電圧は、ロー(Low)の最大値とハイ(High)の最小値を決めます。たとえば、VOL≦0.4V、VOH≧2.4 です。入力電圧は、VIL≦0.8V、VIH≧2.0V です。以下のコラムを参照ください。

VIH/VIL/VOH/VOL って何?

したがって、出力に 0.4V 以下のノイズが乗っても大丈夫ということが分かります。この 0.4V が 図1 に斜線で示すノイズマージンです。

ノイズの種類は、反射ノイズ、クロストークノイズ、電源ノイズ、グラウンドノイズなどです。同時スイッチングノイズは、グラウンドノイズの一種と考えます。このほかに、外来ノイズも考えられます。反射ノイズは、オーバシュートの後の跳ね返りを考えます。以下のコラムを参照ください。

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クロストークノイズは、隣接した線路から受けるノイズです。線路の特性インピーダンスとドライバの出力抵抗との比で計算により求めることができます。

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電源ノイズやグラウンドノイズは、電源やグラウンドに乗ったノイズが、ロジック回路の出力に重畳して現れるものです。同時スイッチングノイズはグラウンドノイズの一つですが、以下のコラムを参照ください。

同時スイッチングノイズ

これらのノイズの合計を 0.4V 以下に抑えれば、ノイズによる誤動作は生じないことになりますが、それほど簡単ではないでしょう。

信号の振幅を 3.3V とすれば、0.4V は 12% となります。例えば、反射ノイズは、設計がうまくないと、4% 程度生じます。クロストークノイズは、クロストーク係数 ξ を 0.1 に選ぶと、5% 程度のノイズが生じます。この二つで 9% なので、残りは 3% しかありません。かなり心配ですね。

TTL の時代は、VOL の typical 値は 0.25V 程度ですが、VOH の typical 値は、3V 以上でした。したがって、実際のノイズマージンは、High 側の方が余裕がありました。すなわち Low と High で対称ではありませんでした。したがって、リセットのような非同期入力(脚注1)は、負論理を用いて、非同期ノイズによる誤動作を避けるようにしていました。現在の CMOS 回路は完全に対称なので、正論理でも負論理でも構わないのですが、リセット回路に負論理を用いるのはその名残と考えます。

ノイズマージンに対する考え方は人によってまちまちです。上のようにワースト(worst)設計をやる場合もありますが、多くは、もう少しティピカル(typical)に近い設定をするようです。以下はあくまで一例なので、参考に留めてください。

図2 実際の電圧レベルとノイズマージン

VOL の 0.4Vmax は、TTL の時代の規格で、現在の CMOS の場合にはあり得ない値です。TTL の場合は、実際に VOL は 0.25V 程度でしたが、CMOS は 0V です。入力電流 IOL の規定がありますが、バイポーラの TTL が接続されない限り、0V です。VOH も、実際は電源電圧に等しく、3.0V(@Vcc=3.0V) と考えます。VILmax は、規格上は 0.8V ですが、実際は電源電圧 Vcc の 30% 程度で Vcc=3.3V とすると、1V です。図2 にこれらを考慮した電圧レベルとノイズマージンを示します。実際は 1V 程度のノイズマージンがあります。

図3 CMOS 入力と差動入力

さらに、CMOS の入力回路は、図3(a) に示すようにトーテムポール回路ですが、図3(b) に示す、差動シングル入力を用いている可能性があります。この場合は、入力のスレッショールド電圧を、例えば 1.5V に選択すると、ノイズマージンは、1.5V になります。

TTL 時代を踏襲したノイズマージンの考え方は、現在の CMOS 回路には、必ずしもそぐわなくなっています。それでは、反射やクロストークをそれほど重要視する必要はないのでは? と思われがちですが、そうではありません。このことについては次回に述べることにします。


(脚注1)
通常の信号は、クロックに同期(同期信号)しているので、ノイズが重畳しても、そのタイミングでクロックのタイミングに一致してないと誤動作には至りません。クロックに同期しない信号(非同期信号)は、単発でもノイズが重畳してスレッショールドレベルを超えると誤動作に至るので、ノイズ対策が最重要な信号です。

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