配線間のグラウンドパターンの功罪

ボードのパターン間に、グラウンドパターンを入れることはよく行われています。
シールド効果があるので、何となく、クロストークを抑制することができると考えてのことでしょう。

この「何となく」は、やめておいた方がいいと、私は思っています。
例えば、結合線路の、パターン間の距離を離すのは、何となくではなくて、確かにクロストークは小さくなることが、理論的にも証明されています。

しかし、両端を接地したパターンは、近端も遠端もインピーダンスが非整合です。
一般的に、分布定数線路のインピーダンス非整合は、1個所だけなら許容できます。
例えば、一般信号の伝送で、ダンピング抵抗を用いるのは、近端のインピーダンス非整合の度合いを許容できる程度まで下げていると考えます。
12mAドライバの出力抵抗は、22Ω程度です。線路の特性インピーダンスZ0が50Ωとすると、11Ω程度のダンピング抵抗を挿入して、出力抵抗を33Ωにしています。
このときの、近端の反射係数は、(33-50)/(33+50)=-0.2となり、非整合の度合いが許容できる範囲と考えます。

これに対して、両端を接地したパターンは、非整合が2個所あります。

今回は、このグラウンドパターンについて考えます。

回路としては、3本の結合線路の方程式を解きます。
4本の結合線路による差動クロストークと同様の解き方で、4096点のFFTを用いています。
詳しくは、拙著(参考文献)をご覧ください。

なお、以下の解析は、ドライバの出力抵抗を33Ω(8mAドライバ相当)、信号振幅は1Vに正規化、立ち上がり時間0.5ns(0-100%)、以下、特に断らない限り、配線長は10cm、繰り返し周期Tとパルス幅は、T=100ns、TW=30nsとしています。

図1.線路間のグラウンド線

図1に示すように、加害者線路(以下#1)と被害者線路(#3)との間にグラウンド線路(#2)を考えます。グラウンド線路は、両端をグラウンドに接続します。
パターン幅は、いずれの線路も100um、線間ギャップGも100umとします。
まず、#1と#3の信号の向きが反対の、近端クロストークについて考えます。すなわち、v31の波形を解析します。

図2.グラウンド線のない場合の近端クロストーク

図2は、#2が存在しないとき、すなわち、線間ギャップが、2G+W=300umの場合(クロストーク係数ξは、0.06)の解析例です。
ノイズの最初の立ち上がり部は、0.04V、すなわち、4%のクロストークです。
4%のクロストークは、ほぼ満足できる値(優等生)ですが、線間ギャップが300umと広いので、ここにもう一本のパターンを通して、それを接地すれば「何となく」クロストークは低減できると思うのは普通かもしれません。

図3(a).#2の両端を接地した場合
図3(b).繰り返し波形と単発波形
図3(c).T=20ns、TW=10nsの例

図3(a)は、その「何となく」の考えにしたがって、#2の両端を接地した場合の解析例です。
立ち上がり部は、0.01Vで、確かに、図2に比べてクロストークは小さくなっていますが、ノイズに高い周波数のノイズが重畳しています。
図3(a)の繰り返し波形に対して、図3(b)は、SPICEによる単発の場合の解析結果を重ねて表示しています。
高い周波数のノイズが継続するので、前の周期のノイズと重なります。
図3(c)は、T=20ns、TW=10nsとしたときの解析例です。高周波成分が重なって(共振して)増大しています。周期Tをわずかに変えただけで共振の様子が大きく変わります。

図4.#2の両端を開放

図4は、#2の両端を開放した場合です。立ち上がり部は0.05Vとなり、図2よりもやや大きくなりました。高周波の共振はみられません。

図5.#2の近端接地、遠端開放

図5は、#2の近端側をグラウンドに接続し、遠端側を開放にした場合です。
立ち上がり部は、0.01Vですが、クロストークが収束しません。

図6.#2の近端開放、遠端接地

図6は、図5と逆に、#2の近端側は開放で遠端側をグラウンドに接続した場合で、0.05Vとなりました。

ここまでで、#2の少なくとも片側を開放することは意味がないことが分かりました。
したがって、#2の両端をグラウンドに接続する場合を考えます。

線長の影響

図2~図6は、いずれも線長は10cmですが、5cmと20cmについて解析しました。

図7.線長5cm

図7は、5cmの例です。高い周波数のノイズの周波数が高くなって、高周波ノイズの振幅は小さくなっています。

図8.線長20cm

図8は、20cmの例です。高周波成分の周波数が低くなり、振幅は大きくなっています。

#2は、両端がグラウンドに接続されているので、いずれも反射係数は-1です。
両端で逆相反射をするので、例えば、近端から出発した立ち上がり波形が、遠端で逆相反射して、立ち下がり波形になり、近端に戻ります。近端で、また逆相反射して立ち上がり波形になって、遠端に向かう、すなわち、逆相反射を永遠に繰り返すことが想像できます。
図7および図8に図3も併せて考えると、この高周波成分は、線長に依存しています。

ここで、#2の中間点の信号を考えます。

図9.#2の中間点の周波数特性

図9は、#1の近端から、#2の中間点までの伝達関数を求めたものです。
700MHzから800MHzの間に急峻なピークが存在します。
同図は、2桁(100MHzから10GHz)を3,000点で計算しているので、急峻なピークが正確に再現できていません。

図10.#2の中間点の共振点の詳細

図10は、周波数の分解能を上げてピークを見つけると、762.18MHzとなり、利得は、50dB(約300倍)程度でした。

図11.信号源を正弦波としたときの#2の中間点の波形

図11は、ドライバの信号を振幅±1の正弦波(sin)としたときの、#2の中間点の波形です。
ドライバの振幅1に対して、±300の余弦波(cos)となりました。

ドライバのパルス波形は、広い範囲の周波数成分を有しているので、特定の成分の300倍の成分が#2の中間点に生じています。
これは、#2が、長い吊り橋、または、ギターの開放弦のようなふるまいをしていると考えます。両端を固定していても、中間点が振動します。
すなわち、#2の両端で反射を繰り返し、共振が生じていると考えます。
この特定の周波数成分が、#2から放射されることも容易に推測できます。
50dBという数値に着目してください。

図12.信号源を正弦波とした場合の#1の近端の波形
図13.信号源を正弦波としたときの#1の遠端の波形

図12は、このときの#1の近端の電圧、図13は、同じく遠端の電圧です。この周波数の成分が20倍となって伝わっています。これは、#2との間の共振と考えます。

図14.同一方向伝送の遠端クロストークの例

図14は、#1と#3の信号の向きが同じ方向、すなわち遠端クロストークの例です。
共振が一部みられますが、近端クロストークほどではありません。

なお、中間層(ストリップ線路)について、同様の解析を行いました。

図15.中間層の近端クロストーク解析例
図16.中間層の遠端クロストーク解析例

図15は、中間層の近端クロストークの、図16は、遠端クロストークのそれぞれ解析例です。いずれの場合も、線間ギャップG=300umの場合に対して、間にGndパターンを入れた方が、クロストークの振幅は半減します。
表面層で生じたような高周波の共振も見られません。

まとめ

グラウンドパターンを間に挟むことは、グラウンドパターンがない場合に比べて、クロストークノイズはやや低減できますが、グラウンドパターンの共振が生じます。
この共振に対して、例えば、#2の複数の中間点にグラウンドに接続するビアを設けて、共振点を帯域外に追いやることが考えられます。
ただし、ビアの径とクリアランスを考えると、#1、#3間の距離はかなり広くなるので、#2を設けなくても、クロストークは十分小さくなり、実用的には意味がありません。

今回のように、パターン間のグラウンドパターン以外にも、両端をグラウンドに接続するパターンが存在する場合には、共振を意識して、多くのビアでグラウンドに接続することを考えることが必要です。

参考文献

 碓井有三 :ボード設計者のための分布定数回路のすべて(第3版)自費出版, 2016
C.R.Paul : Analysis of Multiconductor Transmission Lines, 2E, Wiley-IEEE Press, 2007
C.R.Paul : Introduction to Electromagnetic Compatibility, Wiley(2006) (ポール,櫻井ほか(訳),(2006) EMC概論, ミマツデータシステム

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