クロストーク は日本語で漏話といいます。昔のアナログの電話では、回線間の結合によって、他人の電話が漏れて聞こえることがありました。文字どおり話しが漏れるわけです。ディジタルの世界では、信号が変化する際に、隣接する線路にその一部が漏れる現象が起こります。これがボード設計で遭遇するクロストークです。

クロストークを発生する側の線路を加害者(Aggressor)、受ける側の線路を被害者(Victim)といいます。加害者を -ing、被害者を-ed という言い方も、少し俗っぽいかもしれませんが多用されます。

クロストークは多くの場合、加害者側の線路と被害者側の線路とが、並行して配線されている場合に生じます。加害者はドライバの出力、被害者はレシーバの入力です。加害者の信号の進む向きと被害者の信号の進む向きとによって、二通りのクロストークがあります。図1 のように、両者が互いに逆方向に信号を送っている場合には加害者からみると近端にクロストークが発生するので、近端クロストーク といいます。

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図1 逆方向伝送近端クロストーク

逆に図2 のように、加害者と被害者とが同じ方向(順方向)に信号を送っている場合には、加害者からみると遠端にクロストークが発生するので、遠端クロストーク といいます。

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図2 順方向伝送遠端クロストーク

直感的には、近端クロストークは加害者のすぐ近くなので大きく、遠端クロストークは遠方にあるので、比較的小さいですが、この他にも互いに異なる特徴があります。
近端、遠端にかかわらずクロストークは、

  1. 加害者の線路と被害者の線路との結合が大きいほど、クロストークは大きい。
  2. 加害者の線路と被害者の線路とが並行する線長が長いほど、クロストークは大きい。
  3. 加害者のドライバの立ち上がり時間が速いほど、クロストークは大きい。


の特徴があります。

"1" は、線路間の距離が近いほど結合が大きくなります。また、ボードのグラウンドからの距離が離れるほど線路間の結合は大きくなります。
"2" と "3" は「おおざっぱにいうと、」という前置きが付きますが、長い配線長や高速のドライバを使用する際には気をつけて下さい。

近端クロストークは、加害者と被害者との区別がつくので、図3 のように、加害者と被害者とを互いに距離を離すことによって線路間の結合を小さく、すなわち、クロストークを低減できます。

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図3 逆方向伝送の場合の対策

加害者と被害者とを互いにグループ分けすると離す個所が少ないので、この対策によってボードの実装密度をそれほど下げることはありません。一方、遠端クロストークは加害者と被害者との区別がつかないので、グループ分けできません。したがって、互いの距離を離すとしても、図4 のように、全ての配線間の距離を離す必要があります。

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図4 順方向伝送の場合の対策

離す個所が多いので、この対策によりボードの実装密度を大きく下げてしまいます。また、遠端クロストークは、特にバス伝送のように、複数の信号が同時に変化することが多いので、例えば、64 ビットバスなら、1 本の被害者に対して、63 本の加害者が存在するケースもあります。もっとも、加害者が被害者の線路のすぐ隣にある場合と、被害者から離れるとクロストークはずっと低減しますので、63 本全ての加害者を考慮する必要はありませんが、2本おいて隣、すなわち、片側 3 本程度の加害者までを考慮する必要があるようです。また、近端クロストークは回路定数を適切に選択すると、クロストーク量を数分の 1 にも低減できる方法がありますが、遠端クロストークはこのように回路定数の選択によって低減できません。以前は、近くに大きなクロストークが発生する近端クロストークに着目していましたが、現在では、上記のように簡単な解決手段のない遠端クロストークの克服が課題となってきています。

近端クロストークとその対策』では、もう少し詳しくクロストークについて説明します。

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