フレッシャーズにはフレッシャーズの時にしかない特権があります。

まだ知らないことは恥ではありません。何でも聞けばよいし、先輩も教えてくれます。ただ、いつまでも聞くばかりでは進歩しません。まだこの特権があるうちに、いろんなことを覚えましょう。

今回は、『ダンピング抵抗~その1』です。

ダンピング抵抗~その1

またまた専門用語が出てきました。ただ、皆さんの先輩方で、この用語を知らない人はいないくらい有名な単語です。



ダンピング抵抗は、電気信号を送る際の信号の振動を抑えるために用います。カタカナでダンピングと言っても、英語では Damping と Dumping の 2つの単語が出てきます。後者の Dumping は、不当廉売といって商取引上ではふさわしくない行為です。ダンピング抵抗は、前者の Damping です。車の振動を抑える装置をダンパーというのと同じ用法です。信号が振動しているのを抑えるという意味からこのような使い方をします。ピアノを弾く人は、右側のペダルをダンパー・ペダルということはご存じですね。これは踏むと、ダンパーが開放されて振動が持続します。



電気信号は、送り側(ドライバ側)と受け側(レシーバ側)との間でキャッチボールをしているように送られます。ボールは空中を飛びますが、信号は導体の中を通ります(脚注1)。導体は多くの場合、銅です。銅は電気をよく伝えるし、加工しやすく腐食しにくい、そして、それほど高価ではないという多くの理由によって用いられています。



配線は線をつなぐというよりも、配線を印刷したプリント配線板によって行われます。写真の技術を使って、細い線をつないでいきます。プリント板(ぷりんとばん)とかボード(Board)と呼ぶことが多いですが、正式な用語としてはプリント配線板です。配線の太さは、100 ミクロン程度で、髪の毛と同じ程度です。



定量的な計算は別として、ドライバが強すぎるとレシーバはうまく受け取れません。素人のキャッチャーが 80 km/h のボールならうまく受け取れるけど、プロのピッチャーの 150 km/h のボールは通常は受け取れません。ダンピング抵抗は、ピッチャーが投げたボールの強さを抑える、そんなイメージで考えればよいと思います(脚注2)。



ドライバの強さは、一般に駆動能力という言い方をします。強いドライバは、例えば 24 mA ドライバで、弱いドライバは 4 mA ドライバという言い方をします。これは、24 mA ドライバでは出力に 24 mA の電流を流し込んだ(または流し出した)ときに、出力が 0.4 V 変化するという定義です(脚注3)。なぜ 0.4 V なのかというと、50年ほど前に TTL (Transistor Transistor Logic) が誕生したときに決めた規格です。



図1(a) は、24 mA ドライバを用いたときのレシーバにおける波形で、図1(b) は 8 mA ドライバのときの波形です。どちらがよい設計かは (b) だとお分かりだと思います。ダンピング抵抗は (a) の波形を (b) のようにするために用いる抵抗で、最適値があります。詳しくは、『フレッシャーズ:ダンピング抵抗~その2』で解説します。



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図1 (a) 24mAドライバのレシーバ側の波形
Article header 120269 fr05 fig1b  1
図2 (b) 8mAドライバのレシーバ側の波形

脚注1
信号は波動として伝わるので、厳密には導体だけでなく、その周りに存在する絶縁体との組み合わせの中を伝わっていきます。少しわかりにくいので、この話はずっと後で述べたいと思います。



脚注2
ボールの速度という例えだけで、信号の速度を変えるわけではありません。 信号の速度は、およそ光の半分で、6 ~ 7 ns(ナノ秒)程度です。

脚注3


電流の最小値が 24 mA という規格なので、実際にはこの 1.5倍、すなわち、36 mA 程度の強さがあります。

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ダンピング抵抗の値ってどのように決めるの?
ダンピング抵抗を入れる場所
もっと簡単に決めるダンピング抵抗の値
フレッシャーズ:ダンピング抵抗~その1
フレッシャーズ:ダンピング抵抗~その2

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