製造業DXの現場では、日々多くの推進リーダーが壁にぶつかり、悩みを抱えています。
私たちマクニカは、組織のために奮闘する皆様を現場で支援し続けてきました。本連載ではその経験を踏まえ、DX推進リーダーを3つのタイプに分類し、それぞれの「よくある失敗」と「解決策」を解説します。
本連載が、DX推進に悩む皆様が再び前を向くヒントになれば幸いです。(この記事は2回目/全3回)
製造業DX推進リーダーの3タイプ
先の記事では、製造業DXを推進するリーダーを以下のように分け、各タイプの「強み・弱み・よくある失敗」について、長年製造業のDXを伴走支援してきたデジタルインダストリー事業部 事業部長代理の阿部に聞きました。
本記事では、まず各タイプの「よくある失敗」の解決方法をご紹介します。
なお、よくある失敗は連載①にてご紹介しています。
リーダー別、よくある失敗の解決策
タイプAの解決策:チーミングとコミュニケーション設計
—— 早速ですが、タイプA(事業部門が主体となってDXを推進するケースのリーダー)のよくある失敗である「個別最適」をどのように解決すればよいでしょうか。
阿部:タイプAが失敗を避けるためには、まずリーダーの弱みで挙げた“圧倒的な時間不足”をどう補うかが起点になります。
彼らは非常に忙しいため、自分の“右腕・左腕”となるチームを作ることが欠かせません。 例えば、IT知識が足りなければ詳しい人を、戦略を練る時間がないなら調査を代行する人を入れるなど、リーダーの強みと弱みに合わせて動ける体制を作り、物理的な工数を確保することが成功の鍵です。
次に、自分の事業部を優先する「個別最適」を防ぐためには、全体最適で評価してくれるスポンサーを入れることや、IT部門を早期に巻き込むことが重要です。構想段階から、全体最適の視点でフィードバックしてくれるスポンサーやIT部門などをチームに入れることで、評価の問題や後の対立を防ぐようにします。
なお、IT部門を巻き込む際に大切なのが、このチーミングにおけるコミュニケーションを“プロジェクトの一部”として設計することです。 単なるタスク共有ではなく、ワークショップなどで互いの背景や『今、何に困っているか』を共有する時間を設けます。人間関係ができていない状態で仕事を頼むと『面倒な仕事』と思われますが、互いを知れば協力体制が生まれます。
しかし、日本ではこうした関係構築を業務外や現場任せにしがちです。実は、縦割りが明確な海外のビジネスパーソンほど、他部門との連携を非常に慎重に行っています。組織の壁を超える難しさを理解しているからです。
日本はその意識が薄く、『言わなくても分かるだろう』と過信してしまいがちです。だからこそ、マネジメント層がその重要性を理解し、意図的にコミュニケーションの時間を確保しなければなりません。
タイプBの解決策:1対Nのコミュニケーションの仕組み化
—— 次に、タイプB(IT/情報システム部門がDXを推進するケースのリーダー)のよくある失敗である「システムを使う側とのミスマッチ」をどのように解決すればよいでしょうか。
阿部:タイプBが失敗を避けるためには、IT部門が考えている以上に、企画の段階から事業部門と密に連携する必要があります。
しかし、これは簡単ではありません。なぜなら、IT部門という1つの組織が、多様な事情を持つ多数の事業部門を相手にする1対Nの構造だからです。これは、先のタイプAの解決策である事業部とIT部門の1対1でのコミュニケーションとは、構造的に大きく異なります。
人間は、どうしても話しやすい相手とだけ話してしまいがちです。 たとえば、売上規模は小さいけれどITに理解がある部門ばかり相手にして、気難しいけれど大きな売上を持つ部門を後回しにしてしまう、といったことが起こります。これでは全社的な成果は出ません。
これを防ぐには、意識した仕組み作りが必要です。例えば全部門の『誰と何を話すべきか』、『コミュニケーションに漏れがないか』を客観的にチェックする。こうした体制を作り、徹底して実行することが求められます。
また、開発の進め方自体も変える必要があります。 最初に決めた通りに作るのではなく、少し作っては見せて、実際に使用する人からのフィードバックをもらいながら修正するアジャイル的なアプローチをとることが大切です。
ただ、これらを内部のリソースだけで完結させるのは非常に困難です。IT部門はビジネスの現場を熟知しているわけではありませんし、複雑な利害調整のプロでもないからです。
“自分たちだけでできる”という認識を疑い、プロジェクトの立ち上げやヒアリングといった重要な局面では、ファシリテーションに長けた外部の専門家を活用するほうが結果的に良いことが多いです。
タイプCの解決策:インナーブランディング
—— では最後に、タイプC(DX推進部/経営企画部門がDXを推進するケースのリーダー)のよくある失敗である「権限と調整による疲弊」をどのように解決すればよいでしょうか。
阿部:タイプCのリーダーが失敗を避けるためには、大きく分けて2つのアプローチが必要です。
まず1つ目は、プロジェクトの遂行と並行して“インナーブランディング”を行い、社内の協力体制を作ることです。 このタイプは、事業部門のような売上実績も、IT部門のようなシステム権限も持っていません。 そのため、社内政治的に立場が弱く、正当性がなければ誰も動いてくれないのです。
具体的には、社長からプロジェクトの重要性を発信してもらったり、小さな成功でも称賛したりする活動が必要です。 プロジェクトの中身を作る前に、まずそれを組織が受け入れるための“環境や大義名分”を整えなければ、どんなに良い企画でも頓挫してしまいます。
2つ目は、自社の弱点を補完できる適切な“パートナー選定”を行うことです。 推進力と技術力の両方が不足しがちなこのタイプが、すべてを自社で解決するのは現実的ではありません。
パートナー選定のポイントは、単にシステムを作れるだけの会社ではなく、事業連携や組織風土の改革まで理解しているベンダーを選ぶことです。技術だけでなく、社内の合意形成やブランディングといった泥臭いところまで伴走してくれる“仲間”として動いてくれるパートナーを選定することが、成功への近道となります。
—— パートナーは選定だけでなく、その付き合い方も重要だと思います。忙しいからといって丸投げするのは良くないと思いますが、外部ベンダーとうまく付き合うポイントはありますか?
阿部:外部ベンダーとうまく付き合うポイントは、“下請け扱い”でも“丸投げ”でもない、対等な協力関係を築くことです。
なぜなら、DXは変革を伴うものなので、スポットの開発やアドバイスだけでなく、継続的な伴走が必要だからです。
また、外部の客観性や知見を活用せずに一方的に指示を出すだけでは、DXの実現まで遠回りになることがあります。逆に、思考停止して相手に頼りすぎると、自社にノウハウや判断軸が蓄積されず、自社で変革する力が培われません。
したがって、単に作業を依頼するだけの関係や、すべてを任せて依存する関係は避けるべきです。 課題に対して対等に議論できるパートナーとして接しつつ、最終的な意思決定は自分たちで行うというスタンスが不可欠です。
失敗を超え、成果を出す伴走のポイントとは
では、多くの企業の製造業DXを支援してきたマクニカは、各リーダーの特性に合わせてどのように伴走しているのでしょうか。
タイプAへのポイント:スピード
—— まずタイプAが成果を出すために、マクニカではどういった伴走をしていますか?
阿部:タイプAへの伴走で最も重要なのは“スピード感” です。 彼らは、システム基盤を整備することよりも、今のビジネスをどう加速させるかを求めているからです。
そのため、理屈や全体最適を説くよりも、まずは目の前の課題を解決し、短期的な成果を一緒に出す姿勢が求められます。まずは信頼を勝ち取ることが第一歩となります。
一方で、彼らはどうしても個別の成果に集中しやすく、全体最適の視点が抜け落ちがちです。 これを防ぐには、“この成功を次にどう広げるか”というロードマップを、初期から合意しておく必要があります。
壮大な計画書を作る必要はありません。『まずはここで実績を作り、次は全社へ展開する』という手順をあらかじめ宣言しておきます。 そうしないと、いざ成功した後に『次は全社で』と提案しても、『なぜやる必要があるのか』と戸惑われてしまうからです。
つまり、短期的な成果で熱量を高めつつ、それが次の全体最適への布石であることを共有しておく、という両面のアプローチが重要になります。
—— タイプAの解決策である、事業部門とIT部門のコミュニケーションにおいて、自社だけでドメイン知識とIT知識のギャップを埋めることは難しいと思います。マクニカであれば製造現場もITも理解しているため、円滑なコミュニケーション支援が可能ということでしょうか?
阿部:私たちの強みは、元々が商社という事業会社の出身である点にあります。システムを作る側の論理だけでなく、事業責任者としてのプレッシャーや、ビジネスの現場感覚を肌で理解しています。
特定の製品やしがらみに縛られることがないため、純粋にビジネスの目的を達成するためにどうすべきか、というフラットな視点でIT部門と事業部門の間に入ることができます。
また、商社ならではのネットワークを活かし、世界中の多様なテクノロジーの中から最適なものを提案できる点も特徴です。 特定の技術に固執せず、客観的な選択肢としての知識や技術を提供できるため、結果として事業部門の方々にも受け入れられやすいコミュニケーションが可能になります。
タイプBへのポイント:コミュニケーションの仕組みとビジネス側への翻訳
阿部:タイプBへの支援で最も重要なのは、ビジネス部門をいかに巻き込むかという点です。
IT部門(1)対 多数の事業部門(N)というコミュニケーションの構造上、それぞれの要望や利害を、個別のコミュニケーションや個人の努力だけで調整するのは現実的ではありません。 そこで我々は、個人の調整力に依存せずに連携できる“客観的な仕組み”や“共通のプロセス”の構築を支援します。
明確な合意形成のルールなどを定義することで、感情的な対立を避け、ビジネス部門がプロジェクトに参画しやすい土台を整えます。
また、我々は事業部門側の支援実績も豊富にあるため、彼らがどのようなメリットを感じて動くのかを熟知しています。IT部門の皆様が本来の強みであるシステム企画に集中できるよう、システム導入の意義をビジネス部門にとってのメリットとして翻訳し、社内連携を円滑に進めるための補完的な役割を果たします。
タイプCへのポイント:インナーブランディングと客観性
阿部:タイプCの方への支援において最も重要なのは、プロジェクトの正当性の担保と客観的な合意形成の2点です。
まず、彼らは事業部門のような売上数字も、IT部門のようなシステム権限も持たないため、社内を動かすための求心力が構造的に不足しがちです。 そのため、『なぜ今、我々がこれをやるのか』というストーリーを構築し、社内マーケティング(インナーブランディング)を通じてプロジェクトの意義を浸透させる活動を支援します。
具体的には、経営層からのメッセージ発信や動画制作など様々な手段を通じて、組織全体がプロジェクトを支持する空気感を作り出します。
また、利害の異なる部門間の調整においては、第三者視点による客観性を提供します。 社内の人間関係だけで議論を進めると、どうしても政治力や声の大きさで意思決定が左右されがちです。
そこで我々が、他社事例や市場基準ではこうあるべきという外部の客観的な視点を持ち込むことで、感情論を排した公平な交通整理を行います。 特に我々はビジネス側もIT側もご支援実績が豊富です。この経験があるからこそ、両事業部との調整が必要なタイプCが、本質的でDXを推進できる環境を整えることができます。
推進力を奪う「孤独」から解放されるリーダーたち
—— 外部パートナーに頼らず日々戦っているリーダーも多いと思います。マクニカのようなパートナーがいることで、リーダーたちが嬉しいことは何だと思いますか?
阿部:孤独からの解放ではないでしょうか。
その理由は、大きく分けて2つあります。
1つ目は、部門ごとの“言葉の壁”を取り払い、社内での理解者を得られるようになるからです。DXプロジェクトでは、立場や優先順位の違いから部門間の調整が難しく、リーダーが孤立してしまうことがよくあります。
例えばタイプAのスピード感は、IT部門からは無謀な暴走と誤解されがちですが、我々がその意図を翻訳し、技術的な実現性を補完して伝えます。
タイプBの全体最適な堅実なルールは、事業部からは融通が利かないと思われがちですが、それをビジネスを守るためのガードレールとしてメリットに変えて伝えます。
またタイプCは、業務やITに関する深い知見と誇りがある各部門から容易には納得を得られないことがあります。そこで私たちは、多種多様な企業でのDX推進の経験に基づく第三者の視点を提供し、各部門のメンバーと同じ目線で対話するための橋渡しを行います。
このように、中立的な翻訳者として間に入ることで、誰にも真意を理解してもらえないという精神的な孤立を防ぎます。
2つ目は、リーダー個人では背負いきれない組織構造上の重圧を、戦略的に分担できるからです。 どのタイプのリーダーも、個人の能力だけでは突破できない構造的な限界を抱えています。
タイプAに対しては、彼らが苦手とする全体最適へのロードマップを我々が描き、将来的な孤立(サイロ化)のリスクを未然に防ぎます。
タイプBに対しては、1対Nの調整という過酷な状況に対し、個人の頑張りではなく客観的な仕組みを導入することで、矢面に立つ負担を減らします。
タイプCに対しては、権限の不足を補うために、社内マーケティングを通じてプロジェクトの正当性を作り出し、戦うための武器を提供します。
つまり、変革の責任や政治的な矢面を一人で抱え込ませず、パートナーとしてその重荷をシェアすることで、リーダーを孤軍奮闘の状態から解放できると考えています。
マクニカでは、上記のような伴走支援に加え、ツールとしてのMendixの導入・開発支援とDXノウハウとしての5Pを提供しています。
次の記事では、各リーダーが成果を出すための強力な武器となるMendixやDXノウハウである5Pについて、各リーダーの特性を踏まえて詳しくご紹介します。
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ソリューション
製造業DXを組織文化にするDigital Execution Factory
マクニカでは、製造業DXの各リーダーの強み・弱みに合わせて、パートナーとして失敗を一緒に乗り越える製造業DX支援サービスを提供しています。
具体的には以下のようなご支援を通じて、DXを組織文化にする「Digital Execution Factory」を提供しています。
- 全社を巻き込むガバナンス体制の強化
- 事業部門・IT部門を横断する専門組織(CoE)の構想設計から立ち上げ・定着に至るまでの伴走
- DX推進を現場でリードできるスペシャリスト人財の育成プログラム
- アジャイル開発で小さい成功体験を積めるローコード開発プラットフォームのMendixを活用した開発支援
など
「Digital Execution Factory」はDXが進んでいる欧米で確立された実学を、日本の製造業向けに最適化した日本でマクニカしか提供できないノウハウです。お客様それぞれにとって最適なDXが、「自発的かつ継続的に創出される」状態を目指し、伴走いたします。