以前から必要性が叫ばれていたデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みがますます加速しています。
それに伴い、DXに関わるすべての人の負荷が高まり、プロジェクトの難易度も上がっています。そこで、本記事ではそもそも製造業DXとは何か?といった説明から進め方、さらにDXが困難な根本原因と、その回避策を説明します。
製造業DXとは何か
製造業DXとは、単にITツールやシステムを導入することではなく、業務そのものを見直し、変革していく取り組みのことです。
「DX=デジタルトランスフォーメーション」という言葉から「デジタル化」に意識が向きがちですが、本質は業務改革にあります。
DXを通じて業務プロセスを可視化・標準化し、データを活用することで、以下のような目的の実現が期待できます。
- 生産性向上|手作業や二重入力の削減、業務効率化による現場負担の軽減
- 品質の安定・向上|データ活用によるばらつきの抑制やトラブルの予兆検知
- 人手不足への対応|省人化、教育工数削減、技能伝承の効率化
つまり製造業DXとは、「デジタルを活用して現場業務をより良い形に変えていくこと」が目的であり、ツール導入はあくまで手段の1つに過ぎません。
製造業DXの基本的な進め方
製造業DXを成功させるためには、進め方そのものを誤らないことが重要です。特に、DX担当者が兼務であるケースが多い製造業では、無理のない進め方を設計することがDX継続の鍵となります。
ステップ1. 課題を業務単位で整理する
DXを進める際に最初に行うべきことは、「DXありき」で考えるのではなく、現場業務の課題を業務単位で整理することです。
生産管理、品質管理、設備保全、教育・引き継ぎなど、日常業務ごとに「時間がかかっている」「人に依存している」「ミスが起きやすい」といった課題を洗い出します。
また、この段階では、完璧な分析を目指す必要はありません。すべての業務を対象にすると、分析だけでDX担当者や現場の負担が大きくなってしまいます。改善余地が大きく、効果が出そうな業務に絞って整理することが重要です。
ステップ2. 小さく始める領域を決める
課題を整理した後は、全社・全工程を一度にDXしようとしないことが重要です。初期段階から範囲を広げすぎると、プロジェクトの難易度が一気に高まり、担当者の負担も増加してしまうためです。
まずはPoC(検証)を前提に、一工程・一業務・一拠点など限定的な領域から着手しましょう。成果が見えやすく、現場の協力が得やすいテーマを選ぶことで、小さな成功体験を積み重ねることができます。
この成功体験が、次のDXテーマへとつながる重要な土台になります。
ステップ3. 担当者負担を考慮した体制設計を作る
製造業DXでは、DX担当者が本来業務と兼務しながら推進するケースもあり、体制設計を誤ると担当者が疲弊してしまいます。
そのため、DX担当者に業務・調整・推進をすべて任せるのではなく、現場担当者や管理者との役割分担を明確にしておくことが大切です。
また、技術的な検討や設計が難しい場合には、外部パートナーの知見を活用することも有効です。
属人化しない体制を意識することで、DXを一時的な取り組みではなく、継続的に推進できる状態を作ることができます。
ステップ4. 成果を見える化し現場に展開する
DXは導入して終わりではなく、成果を見える化し、次の改善につなげることが重要です。
作業時間の削減、ミスの減少、教育工数の短縮などを可視化し、成果が明確になることで、現場や経営層の理解・納得を得やすくなり、DXへの協力も高まります。
また、成功事例として社内に共有・展開することで、他工程や他拠点への横展開が可能になります。
DXを一過性の施策で終わらせず、継続的な改善活動として定着させることが、製造業DX成功のポイントです。
DXを妨げる壁は、コミュニケーションの難易度の高さ
ここからは株式会社マクニカの丸山が、 何が製造DXを妨げるのかの要因から、多彩なDX支援の経験により辿り着いた回避策までを語った講演内容と合わせて詳しくご紹介します。
▪️講演者情報
株式会社マクニカ
イノベーション戦略事業本部デジタルインダストリー事業部
プロフェッショナルサービス第1部 部長
丸山 千明
製造業DXが進んでいく一方で、DXを妨げる壁が立ちはだかることがあります。その要因として「難易度が高すぎる」ことが挙げられます。
「例えば、中期経営計画をブレイクダウンした資料を作るにあたっては、『業務プロセスの変更や部門間の連携が伴ってくる』ということが課題となり、誰がやるのか、実際にできる人がいるのかといった議論が組織で起こります。実際に部門をまたいでコンセンサスを取る必要があるということに、難しさを感じていることが多いようです」(丸山)
システムの側面から見ると、すでに各部門が独自に最適化を図っているため、さらに難しいテーマに感じられます。
「難易度が高い」ことについて深掘りすると、「コミュニケーションの難易度が高い」と丸山は分析します。特にDX推進部門は、経営層と関連部署の間に入る立場にあり、複雑なコミュニケーションを必要とします。
組織の側面から見ると、DX推進部門の業務ボリュームが非常に多く、困難な状況であることがうかがえます。
DXプロジェクトの難易度上昇や担当者負担の増加
これまで350件におよぶDXプロジェクトを支援してきたマクニカでは、プロジェクトを取り巻く最近の傾向について、次のように述べます。
「経営陣がDXの必要性を認識し、中期経営計画に取り入れているケースが非常に増えています。その流れで、複数の部門から選抜されたDXの専門知識プロジェクトチームができており、さらに企業によっては技術検証のステップを終え、経営課題との連動や実運用へとフェーズが進んでいます。加えて、新型コロナウイルスの影響を受けてのデジタルシフトも加速してきました。一方で、不安定な経済環境によって計画の稟議は非常にシビアになっており、特に期限やスピードに対する要求が非常に高まっていることを日々感じています」(丸山)
こうした傾向の影響を受けて、プロジェクトリーダーやメンバーの期待値や負担が激増しています。
またマネジメント層も、妥当性や進捗について善し悪しを判断することが難しくなっています。そしてすべてに共通して言えるのは、検討すべき内容が多くなりすぎているということです。
350件の支援から見えた「コミュニケーションを円滑にする4つのポイント」
上述したDX推進の障壁を突破するには、「コミュニケーションを円滑に進める形を作る」ことが不可欠になります。
「経営層、関連部署、DXチーム、それぞれが三位一体になるとコミュニケーションが円滑に進んでいき、難易度が下がっていくことにつながります。それを実現するための4つのポイントが『健康診断』『シミュレーション』『Fit to Standard』『セキュリティ』です」(丸山)
健康診断(現状分析)について丸山は「レイヤー間や部門間のコミュニケーションにおいて、『出発点の合意が必須』です。そうしないと、どこに向かって進むべきかを表すことができません。改革の最初にはいつも診断と分析が必要なのです」と話します。
その上で、現状分析と調査における課題を事前に理解しておく必要があります。
「現状分析の必要性を理解していても、実施には困難がついて回ります。例えば、『現状分析に時間がかかりすぎる』『費用対効果を上手く上層部に示せず、承認が下りなかった』『外部委託するとコストが高い』といった懸念点がつきまといます。また現状分析は調査する側だけでなく、調査される側にも負担を強いることも忘れてはなりません」(丸山)
では、何が現状分析のブレイクスルーポイントとなるのでしょうか。それは、部門間やレイヤー間で通用する「客観的・定量的」な現状と業務プロセスの可視化を「クイックかつローコスト」で実現することです。
「具体的には、自社の立ち位置を確認する成熟度診断や、業務におけるAs-Isを分析するプロセス診断があり、マクニカでも診断サービスを提供しています」(丸山)
「シミュレーション」については、体験を共有することでコミュニケーションが円滑になります。ブレイクスルーのポイントは、「安く・早く・細部を作り込みすぎず」傾向をつかむことだと丸山は言います。
─ 最初は高い精度を求めるよりも、全体を把握することを意識し作成するのが重要です ─
Fit to Standardについては、部門間の連携や業務プロセスの変更が入るプロジェクトでは、机上の理論による説明で経営層と現場の双方から理解を得る難易度が高くなります。
要件定義にかかる時間と工数も非常に大きくなってしまうケースが多く、これをドライブできる人材も枯渇しています。
─ 全体最適のデジタル基盤は難易度が高くなります ─
「Fit to Standardによるアプローチはブレイクスルーとして効果的です。日本ではシステムを業務に合わせるFit & Gapが多いかと思います。アドオン開発をしていくとコストがかさんできますし、そのためにバージョンアップが困難になります。それに対してFit to Standardは、業務をシステムに合わせる、いわゆるパッケージを最大限に活用する手法です。足りない自社要件については、アドオンを開発するのではなく、APIで連携する外部のアプリ活用や開発で実現することがポイントです」(丸山)
─ Fit to Standardのアプローチでは、パッケージ標準をよく理解するのが重要です ─
最後の「セキュリティ」について丸山は、「セキュリティは、検討課題から抜け落ちやすい内容です。IT部門に相談しても『OT領域のセキュリティはIT部門の管轄ではない』と言われてしまうことがよくあるようです。
IT部門からの協力を得るためには、具体的に『何のために』『いつから』『どことどこがつながるか』をしっかりと考え、最適なタイミングで相談を持ち掛けなければなりません」と指摘します。
また、セキュリティ検討のデッドラインを明確にし、それまでに連携を検討しなければ、中断や手戻りが発生してしまう可能性があります。最終フェーズでのインフラ構成作成時には、必ずセキュリティを交えて検討するのが重要です。
─ セキュリティ要件の検討漏れは、プロジェクトの進捗に大きな影響を及ぼす可能性があります ─
「自社の方針に沿ってベストな検討を進めていただくことが大事です。IT部門も忙しいでしょうが、コミュニケーションをとるように心掛けていただきたいです。まずできる対策としては、管理・監視を含めてパートナーと連携することです。もし自社で完結させる場合は、担当をつける必要があります。事故を想定した備え、エスカレーションパス、復旧手順も準備してください。ISOなどの規格に組み込んでしまうのも手です」(丸山)
製造業DXの進め方に悩んでいる方はマクニカへ相談
本記事では、製造業DXの進め方から、DX推進の壁であるコミュニケーションを円滑にするポイントをご紹介しました。
マクニカは、上記のようなコミュニケーションの問題を解消し、以下のようなDXを組織文化にする「Digital Execution Factory」というサービスを提供しています。
- 全社を巻き込むガバナンス体制の強化
- 事業部門・IT部門を横断する専門組織(CoE)の構想設計から立ち上げ・定着に至るまでの伴走
- DX推進を現場でリードできるスペシャリスト人財の育成プログラム
- アジャイル開発で小さい成功体験を積めるローコード開発プラットフォームのMendixを活用した開発支援
など
上記の支援を通し、「自社に最適なDXが、自発的かつ継続的に創出される」状態を目指すのが「Digital Execution Factory」です。
この「Digital Execution Factory」はDXが進んでいる欧米で確立された実学を日本の製造業向けに最適化し、日本でマクニカしか提供できないノウハウになります。
もし本記事でご紹介した壁にぶつかっている、悩んでいる方はお気軽にご相談下さい。