
クラシエが挑んだ"考える現場"
──「DSF Cyclone」とともに築く改善の土台
“考える現場”への進化──高岡工場が挑むスマート化の最前線
──クラシエ株式会社様
トイレタリー・食品・薬品の3事業を展開するクラシエ株式会社。 薬品事業では、医療用および、一般用の両方の漢方薬を提供しています。
その最終製造工程を担っているのが、富山県にある高岡工場で、国内外から調達された原薬(エキス粉末)をもとに、錠剤や顆粒剤といった最終製品への加工までを一貫製造し、クラシエの製剤技術と生産体制を支えています。
この高岡工場は、クラシエグループの製造工場の中でもっともスマート化を推進している拠点のひとつでもあります。設備投資への理解、専任担当の存在、そして「やると決めたらやり抜く」という現場の真面目な気質が、先進的な取り組みを下支えしています。
そんな高岡工場がいま挑んでいるのが、スマート工場化による抜本的な生産革新です。 背景にあるのは、近年、テレビやインターネット等様々なメディアなどでの紹介が増え、漢方薬の需要が増大した事です。 製造設備への投資だけでは対応しきれないこの変化に対し、クラシエが選んだのは、現場の知見とデータをつなぎ、継続的に改善が回る“考える現場”をつくるアプローチでした。
本プロジェクトの参加メンバー
クラシエ株式会社様
- 薬品カンパニー 薬品SCM室 高岡工場 技術開発課 情報技術推進係 主任 山本 彩様
- 薬品カンパニー 薬品SCM室 高岡工場 技術開発課 情報技術推進係 係長 土合 修平様
- 薬品カンパニー 薬品SCM室 高岡工場 課長 六田 勝
- 薬品カンパニー 薬品SCM室 高岡工場 技術開発課 情報技術推進係 主任 長谷川 紀実様
- 薬品カンパニー 薬品SCM室 高岡工場 技術開発課 情報技術推進係 副主任 板垣 侑志様
- 薬品カンパニー 薬品SCM室 高岡工場 技術開発課 技術開発係 係長 田中 翔様
- 薬品カンパニー 薬品SCM室 高岡工場 仕上課 仕上第一係 係長 京田 壮臣様
- 薬品カンパニー 薬品SCM室 高岡工場 仕上課 仕上第四係 副主任 東 直樹様
株式会社マクニカ
- デジタルインダストリー事業部プロフェッショナルサービス第2部第3課 課長 影山 優太

- 課題
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- 記録が残らず、振り返りと対策が困難
- 人の判断が拾えず、改善の出発点が曖昧
- データが意味を持たず、現場が動かなかった
- 目的
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- 記録・分析・改善を一体で回せる仕組みの構築
- 現場起点で“見て・考える”文化の醸成
- 社会的責任を支えるスマート工場基盤の整備
- 効果
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- データをもとにした納得感のある改善が定着
- 作業者の主体性と発言の増加
- 横展開可能な仕組みと、将来を見据えた拡張性の確保
現場の危機感が、変革の起点になった
漢方薬需要の増大に対し、高岡工場の従来手法では限界が見えていた
土合様:テレビなどで取り上げられる機会が増えて、気づけば漢方薬の需要が急激に伸びていました。こうした状況の中で、高岡工場では、従来の手法だけでは今後立ち行かなくなるという危機感が強まっていました。もともとの生産能力を超える需要があっても、設備投資で一気に対応するのは難しいのです。明日からいきなり倍の量を作るというわけにはいかない。製造のメンバーも本当に大変な思いをしていました。
見えない壁と向き合いながら──導入前にあった葛藤
設備とシステムはつながっていても、改善につながる情報が蓄積されていなかった
土合様:スマート工場への転換を掲げたものの、実際にはそんなに簡単な話じゃありませんでした。現場のみんなも「やった方がいい」と頭では分かっている。でも、いざやろうとすると、様々な壁にぶつかりました。
最初の壁は、「データが残らない」という、根本的な仕組みの問題です。高岡工場では、製造設備と製造実行システムの連携はある程度進んでいて、設備もシステムも動いていました。でも、それは“その瞬間”だけの話で、製造設備から送られてくる信号や状態は、リアルタイムで画面に表示されても、記録として残っていませんでした。
製造設備とシステムはつながっていても、やり取りは“その瞬間”だけで終わっていて、ログがまったく残っていない。どのラインで、どの時間帯に、どんな理由で機械が止まったのか。そういう情報は、本来は改善活動のスタート地点になるはずですよね。でも記録に残っていないと、あとから検証もできない。改善を積み重ねるにも、PDCAを回すにも、振り返る材料がそもそもないのです。
“現場の判断”も記録できる仕組みを求めて
高コストの専用開発でもなく、作業者に負担もかけない──その突破口として見出した、DSF Cyclone
土合様:この課題に関しては、設備メーカーやシステムベンダーに相談することも考えました。ただ、個別に仕組みを作るとなると、コストも時間もかかるし、保守や運用のことを考えると、正直続けられる気がしませんでした。それに、設備の停止理由って、信号だけじゃ分からないことが多く、結局、作業者の判断が必要になるケースもある。しかし、現場の作業者に新しい入力作業をお願いするのは、負担が大きすぎる。通信だけでは拾えない“人の判断”も記録したいけど、現場の負荷は増やしたくない。そこが一番の悩みどころでした。
そんなときに出会ったのが、マクニカの「DSF Cyclone」です。データの収集から可視化、改善活動につなげるところまでを一貫して支援してくれる──これは、どうしたらいいか模索していた自分たちにとって、本当にありがたい存在でした。
DSF Cyclone活用事例動画
クラシエ様におけるDSF Cyclone活用の様子は、実際の現場映像とともに、以下の4つのケースに分けて動画でご覧いただけます。
CASE1:リアルタイム監視
製造では、充填室に設置されたモニターで、離れた場所にある設備の状態をリアルタイムで監視。 異常検知から復旧判断までを迅速に行い、ライン全体の安定稼働を支える様子をご紹介します。
CASE2:生産効率分析
生産技術では、時間稼働率の分析を通じて、効率低下の要因を抽出。改善会議を実施し、現場の実態とデータを統合した施策立案の流れをご紹介します。
CASE3:統計解析
生産技術と製造では、蓄積されたロス情報を統計解析し、異常傾向をスコア化。 改善の優先度を見える化し、現場では気づきにくい課題にアプローチする手法をご紹介します。
CASE4:実績レポート
生産技術では、生産実績レポートを自動集計し、食堂モニターで可視化。 全員が稼働状況を共有できる環境を整え、改善文化の醸成を図る取り組みをご紹介します。
可視化しただけでは、現場は動かなかった
表示された数字はあっても、そこに改善のヒントは見出されていなかった
土合様:DSF Cycloneを導入した当初、現場では「データを見せること」自体が目的になっていました。設備の稼働データを取り込んで、定型的な可視化ボードに表示する。たしかにそこにデータは“ある”。でも、それを見せられた現場の反応は、あまり良くなかった。もともとボードは用意してもらっていましたが、製造現場の方に見せても、特に「じゃあこれで何をどう改善するか」という話にはならなかったんですよね。
単にデータが“見える化”されているだけで、それが現場の人にとって“意味のある情報”にはなっていなかった。そこには、「で?ここから何が分かるの?」という、目に見えない戸惑いがあったと思います。
現場とマクニカの“対話”が、改善の土台をつくった
「これが見たい」に応えるかたちで、ボードは進化していった
土合様:そこで、次の一手を打つことにしました。既存のボードで分かりにくかった部分をマクニカと共有して、「もっとこういうデータが見たい」とこちらの希望を伝えていきました。
その中でキャッチボールのようにやり取りを重ねて、こちらの意図をくみ取ってもらいながら、データの加工や表示の方法を何度も調整していきました。その結果、ようやく現場の中で「これを改善しようか」という議論が少しずつ生まれてきました。
ただ、このプロセスには時間がかかりました。手元からデータを取り出して、分析用に加工して、それをレポートにまとめてから現場にフィードバックするまで──だいたい2〜3週間、長いと1ヶ月以上かかっていました。改善会議では「これ、何の話だっけ?」と、忘れかけた出来事を思い出す場面も少なくなかったです。これでは改善のスピードが上がらないし、継続的にやっていくのは難しいなと感じました。
そんな中でマクニカが提示してくれたのが、“可視化のテンプレート”を超える新しい仕組みです。改善活動によく使われる観点をあらかじめ組み込んだ、より柔軟なボードを設計してもらって、日々の稼働データを自動で表示できるようになった。
おかげで、次回の改善会議ではすぐに前月の状況が分析できる。そんな仕組みが整ったことで、「月次で振り返って、すぐに改善を打てる」という体制が、ようやくスタートラインに立ったなと感じました。
見えてきた課題、そして「仮説から実行へ」
分析から見えてきた課題に対し、データで裏打ちされたルール変更が実現
土合様:新しいボードを導入してから、現場の課題が少しずつ“見える形”で立ち上がってくるようになりました。たとえば、仕上げ工程の一部である「包装」と「充填」の連携に関する課題です。あるとき、分析の中で「充填側の停止ロスが異常に多い」というデータが出てきました。肌感覚で感じていたよりも、はるかに多い数値が出て、現場でも「そんなに止まっていたの?」と驚きの声があがりました。
じゃあ、なぜそんなに止まっているのか?──その原因を話し合った結果、ひとつ見えてきたのが、「充填側の作業が始まるタイミングが遅れている」という事実でした。
包装側の作業が終わったタイミングで、充填側にうまく連絡が伝わっていなかった。しかも、それをフォローする仕組み自体もきちんと制度化されていない。結果として、機械がスタンバイ状態のまま、何もせずに時間を過ごしている状況が存在していました。
そこに対して、「じゃあこう変えましょう」とルールを見直すことで、1指図あたり3分程度のロス削減が可能になった。そういう“納得感のある改善”が、データから生まれるようになってきました。
作業者の行動が、能動的に変わりはじめた
「やらされる入力」から「自分たちで考える文化」へ──現場に意識の変化が生まれた
土合様:こうした取り組みを続けていく中で、現場の反応にも変化が出てきたと感じています。改善会議でボードを見ながら話していると、「このタイミングが悪かったよね」とか、「この機械がネックになっていたんじゃないか」といった具体的な意見が、現場のメンバーから出てくるようになりました。
あるときは、会議の前に現場の作業者が、自分からコメントを入力してくれていて。これまでには考えられなかったことです。「やれと言われてやる」のではなくて、「自分たちで“見て、考える”」という文化が、少しずつ育ってきたなと感じています。
スマート化って、仕組みを入れただけで何かがすぐに変わるものではありません。だけど、意味をちゃんと伝えて、それを根気よく、丁寧につなげ続けることで、少しずつ現場が変わっていく。見るだけだったデータに対して、現場が“考える”ようになってきた。その変化が、何より大きいなと思っています。
支えになった“伴走”という姿勢──マクニカのサポート
現場の課題に寄り添い、次の一手を常に考え続けてくれた
土合様:現場の反応が変わってきたとはいえ、そこに至るまではやっぱり試行錯誤の連続でした。いろんな改善を積み重ねて、ようやく今の形になってきたという感じです。そのプロセスの中で、現場の悩みに寄り添ってくれて、まだ言語化されていない課題に気づいてくれたのが、パートナーとしてのマクニカでした。
導入の初期は、マクニカがほぼすべての工程をリードしてくれていました。データの収集から、可視化、さらにはその活用方法の設計に至るまで、本当に一貫して支援してくれた。
こちらからは情報を提供するだけで、あとは必要な形を整えてくれる。自分たちではまだ見えていなかった部分まで見えるようにしてくれる。その安心感はすごく大きかったですね。
それから、横展開のサポートもありがたかったです。導入を通じて得られた知見をもとに、複数の製造ラインへと仕組みを広げていく──この作業を自分たちで回していけるように、必要なノウハウを惜しみなく提供してくれました。設定方法で分からないところがあれば、聞いたらすぐに返ってくる。こちらが逆に返事を待たせてしまうくらい、スピード感を持って対応してくれて、本当に心強かったです。
そして何より印象に残っているのは、提案の姿勢です。
たとえば、現場で作業者とリーダーの連携に課題があると感じていたときに、マクニカはただこちらの要望を待つのではなく、先回りして具体的な提案を持ってきてくれました。
作業者の行動を変えるのではなく、“環境”を変えることで自然と行動が引き出されるようにする。その考え方が、結果的に現場との距離を縮めていったと思います。
いつも“次の一手”を考えてくれている──そんな存在でした。“伴走”という言葉が、本当にぴったりだなと。
“見える工場”のその先へ──広がる挑戦と、果たすべき責任
安定供給を支える仕組みとして、工場のスマート化は進化を続けている
土合様:スマート化の取り組みは、今も進行中です。高岡工場では今後、製剤工程にも通信対応設備を広げていって、DSF Cycloneによる可視化の範囲をさらに拡大していく予定です。最終的には、あらゆる製造設備の稼働情報をリアルタイムで把握できるような、真の意味での“見える工場”を目指しています。
そして、その先にはクラシエ全体としてのスマート工場推進という考えがあります。各工場の情報がバーチャルにつながって、現場ごとの課題に対して、全社で最適解を共有・創出できるような状態をつくっていきたい。それが、クラシエの製造部門として描いている未来の姿です。
今はまだ、高岡工場内の可視化を地道に進めている段階ですが、他の工場との連携も視野に入れながら、着実に動いていきたいと考えています。
最近では、医薬品の供給不足が社会問題として取り上げられることも多くなっており、供給を安定して続けられるかどうかは、企業の信頼に直結すると思っています。
スマート工場化を通じて、生産効率を上げて、トラブルを未然に防げるようになれば、それが結果として安定供給につながる。そうやって社会に貢献していくことが、私たちの責任だと思っています。
効率化や見える化は、単に生産性を上げるための手段ではありません。その先にある、“社会を支える力”として、工場の進化はこれからも続いていく──そう信じて取り組んでいます。

クラシエ株式会社様
- 事業内容
- トイレタリー商品・化粧品、漢方薬を中心とした医療用・一般用医薬品、菓子・冷菓等の製造販売
- 設立
- 2007年7月 (商号変更)
- 従業員数
- 1,827名(2024年12月末時点)
- ウェブサイト
- https://www.kracie.co.jp/
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