基板の断面寸法をあまり真剣に考えないで決めていると、実装密度が下がり、高コストの基板になってしまいます。設計した後でコストダウンを考えるよりも、最初に時間をかけて低コスト設計を心がけることが重要です。今回は何を目標にして、どのような手順で基板の断面寸法を決めるかについて述べます。

目的とするパラメータ

基板設計の際に目的とするパラメータは、特性インピーダンスとクロストーク係数の 2つだけです。なお、差動パターンの場合には差動インピーダンスが目的とするパラメータになりますが、これはクロストーク係数から求めます。伝搬遅延時間はほぼ材質で決まるので、通常は、目的とするパラメータとは考えません。

(1) 特性インピーダンス Z0

何も制約がない場合は、50 Ω に選びます。その理由は、2つ考えられます。1つは普通に設計すると、50 Ω 付近が寸法的に作りやすいということです。もう 1つの理由は測定系が 50 Ω なので、これに合わせると測定器と直結できるためです。50 Ω はほぼ業界標準になっているので、設計を分担する場合やサブユニットとして外部から一部分を購入して使用する場合にも、50 Ω に統一した方が都合がよいと思います。外部との接続がなく自分だけで閉じている場合には、50 Ω 付近で作りやすい値に選べばよいでしょう。

ボードの特性インピーダンスの決め方』も参照してください。

(2) クロストーク係数 ξ(ギリシャ文字小文字のクサイ)

これは、ノイズマージンをクロストークにどの程度割り当てるかというノイズバジェットの問題なので、いちがいに、この程度が望ましいとは言えません。ξ を小さく選ぶと、実装密度が下がります。
図1 は、近端クロストークをクロストーク係数に対して示したものです。パラメータの x は線路の特性インピーダンスをドライバの出力抵抗で割ったもので、特性インピーダンスを加味したドライバの駆動能力を意味します。オーバシュートが 10 % のときに x = 1.22、オーバシュートが 20 % のときに x = 1.5 になります。通常は、x は 1.1 ~ 1.5 の間になるようにダンピング抵抗を決めています。
図1 でこの x の範囲で、クロストークはクロストーク係数 ξ の 1/2 程度となります。
したがって、クロストークを 5 % に抑えるためにはクロストーク係数 ξ を 0.1 に、10 % に抑えるためにはクロストーク係数 ξ を 0.2 に選びます。

ダンピング抵抗の値ってどのように決めるの?』も参照してください。

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図1 クロストーク係数と近端クロストーク

基板寸法とパラメータ

特性インピース Z0 とクロストーク係数 ξ は、基板のパラメータを解析するソフトに必要な基板寸法を与えることにより、容易に求めることができます。



図2 は、表面層と中間層の基板の寸法図です。Z0 と ξ は主に、パターン幅 W と線間ギャップ G、それとグラウンド面からの距離 h で決まります。その他に、パターン厚 t と樹脂の誘電率 ε(ギリシャ文字小文字のイプシロン)、表面層の場合にはパターンの上に施すソルダレジストの厚さもある程度影響します。



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図2 断面寸法

表1 は、それぞれのパラメータが特性にどのように影響するかのおよその傾向を示したものです。例えば、パターン幅 W を広くすると特性インピーダンス Z0 は低くなり、GND からの距離 h を大きく選ぶと Z0 は高くなります。

表1 パラメータが特性に及ぼす影響
  特性インピーダンス Z0 クロストーク係数ξ
パターン幅 W 矢印_下  
パターン間隙 G   矢印_下
Gndからの距離 h 矢印_上 矢印_上
パターン厚 t 矢印_下 矢印_上
誘電率 ε 矢印_下  
レジスト厚 SR 矢印_下 矢印_上

基板寸法決定の手順

  1. 基板パラメータの目標値は、上記「目的とする基板パラメータ」で述べたように、基板パラメータの目標値を、例えば、Z0 = 50 Ω、ξ = 0.15 のように決めます。
  2. 基板メーカからコストアップにならない範囲で、最小のパターン幅 W を提示してもらいます。メーカの実力にもよりますが、0.1 mm 以下なら嬉しいですね。
  3. 目標の特性インピーダンスになるように h を決めます。表面層は比較的簡単に決められますが、中間層は h1 と h2 とを、層構成を考えながら決める必要があります。ただし、h は層間のプリプレグの厚みで決まるので、自由に連続には選べません。
  4. 目的のクロストーク係数になるように、線間ギャップ G を決めます。
  5. 差動信号の場合には、2本線路のディファレンシャルモードの特性インピーダンス ZD の 2倍が差動インピーダンス Zdiff になるように G を決めます。Z0 = 50 Ω、Zdiff = 85 Ω (ZD = 42.5 Ω) の場合、ξ = (Z0^2 - ZD^2) ÷ (Z0^2 + ZD^2) = 0.16 となります。

基板パラメータ解析ソフトの例

GreenExpress V2、GreenExpress Professional ※ Windward 社が閉店したため、解析ツール GreenExpress V2 を入手することができません。
HyperLynx

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