DC/DCコンバーターの回路設計において、位相補償回路の調整は難しいと感じている方が多いのではないでしょうか? 調整が上手くできれば、レギュレーター出力に接続している負荷の変動に対して、レギュレーターが発振したり出力電圧の大きな変動を抑制できます。
しかし位相補償回路の調整が失敗し位相余裕が無くなると、レギュレーターの出力に大きなリンギングが発生したり最悪の場合発振します(参考:位相余裕測定サービス)。
レギュレーターの出力の発振と負荷変動による出力の変動を抑えることはトレードオフの関係にあります。今回は、すこし厄介な位相補償回路の調整にて、位相余裕を任意の条件(70°,60°,50°台)にしたときに負荷応答特性にどれくらい影響を与えるかを検証してみました。
評価環境
今回は、アナログ・デバイセズ社の42V耐圧 同期整流型MOSFET内蔵 降圧DCDCである、LT8643Sの評価基板(DC2658A)を使って測定しました。
評価ボード設定
オリジナルの評価ボードからの変更点は、フィードバック抵抗R7の上に信号の注入抵抗100Ωを追加した以外の変更はありません。
評価条件 : 入力電圧 8V / 12V / 16V (3条件)、 出力電圧5V、 負荷電流 1A / 3A / 6A (3条件) スイッチング周波数2MHz設定

測定環境
・安定化電源 KIKUSUI PAN35-20Eを使用。 評価ボードのVINーGND間に接続
・電子負荷 KIKUSUI PLZ164WSを使用。 VOUT-GND間に接続
・オシロスコープ Tektronix 6シリーズを使用。 出力コンデンサーC6の両端でリップルを観測
- パワーレールプローブ TPR1000を使用。
- アクセサリー 1.3m, SMA(Ma) - MMCX (Ma) , 50Ωケーブル
- アクセサリー MMCXコネクター(Wurth Elektoronik 66012002111503)
位相余裕と負荷応答特性の検証
評価ボード特性確認
評価ボードの初期状態にて特性確認を実施しました。位相余裕度は、48.4~58.1°、負荷応答特性を確認すると、電圧変動は±87mV(クロスオーバー周波数94.7KHz)でした。リップル電圧は、1.9mVp-pと非常に小さな値となっています。
電源回路としては、非常に良い特性です。この状態から、位相余裕を変化させたときに負荷応答特性がどの様に変化するか検証したいと思います。

最適な位相余裕に調整した場合
位相補償回路をR4=6.3KΩ、C5=1.36nFにして、最適な位相余裕の状態に定数変更した結果が、図3となります。
位相余裕度は、74.1~82°、負荷応答特性を確認すると、電圧変動は±100mV(クロスオーバー周波数71.8KHz)でした。

位相余裕を小さくして負荷応答特性を向上させる
位相余裕と負荷応答特性は、トレードオフの関係にあります。 FPGAやCPUの要求で負荷応答特性の改善が必要な場面では、多少位相余裕を犠牲にしてもクロスオーバー周波数を大きくして、負荷応答特性を向上させる必要があります。
ここでは、位相余裕が小さくなるように位相補償回路の定数変更をおこない、負荷応答特性が向上するか確認してみました。

結果は、図4の様に位相余裕を少なくするとクロスオーバー周波数が高くなり、負荷応答特性も向上することが分かります。
クロスオーバー周波数を向上させることで、出力5Vに対して±70mV(±1.4%)まで電圧変化を抑えることができました。
これにより、負荷応答特性を改善したい場合は、位相余裕を犠牲にしてクロスオーバー周波数を向上させることが重要であることをご理解いただけたと思います。ただし、位相余裕は45°以上確保しておくことが必要であることに注意して調整してください。
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