「DXを進めないといけない。しかし、システム化までたどり着けない」
事業部門には様々なアイデアがあり、業務効率化や新サービス開発などをどんどん進めたい。進めないといけない。しかし、システムとして形になるまで時間がかかりすぎる。こういった悩みを抱えている方もいるのではないでしょうか。
実はマクニカ自身も、従来のシステム開発では企画からリリースまで1年以上かかっていました。
マクニカでは、この「システム化にたどり着けない」壁を乗り越えることに成功しました。その鍵は、「アジリティ」でした。
アジリティ(Agility)とは、「敏捷性」や「機敏さ」などを表す英語ですが、DX文脈では「時代の変化に合わせて、素早く、修正しながら新しい価値を生み出す力」といえます。
このアジリティは、一朝一夕では獲得できません。しかし、マクニカでは自社での経験を通して、アジリティを獲得できればITが事業部門の利益を生み出す源泉になることがわかりました。
本記事では、マクニカが自社の経験から得た、アジリティを獲得するための仕組みをご紹介します。(なお、マクニカ・イノベーション戦略事業本部 刀禰の講演を再構成したものです。)
なぜ事業部門は待たされるのか。ボトルネックの一つは「連携の仕組み」
DXの成否に影響する事業部門とIT部門の連携
IPAの「DX動向2026」によると、経営者・IT部門・業務部門の協調について、「十分にできている」「まあまあできている」と回答した企業は、2025年度で48.9%でした。さらにDX成果の有無別に見ると、協調できている割合は、成果が出ている企業では72.9%だったのに対し、成果が出ていない企業では37.1%にとどまっています。(出典:IPA「DX動向2026」)
海外調査でも、別の角度から、技術投資の成果と事業側の関与との関係が示されています。KPMGの「Global tech report 2026」では、技術・プロセスの成熟度が高く、デジタル技術投資で200%以上のROIを報告している上位約5%の企業を「High performers」と定義しています。High performersのうち「技術プログラムを支える十分な事業側のスポンサーシップを確保できていない」と回答した割合は13%だったのに対し、その他の企業では60%でした。(出典:KPMG「Global tech report 2026」)
こうした調査結果からも、DXや技術投資の成果を生み出すうえで、ITだけでなく事業側をうまく巻き込むことの重要性がうかがえます。
マクニカも製造業DXの支援で多くの企業に伴走するなかで、この「事業とITの連携」の問題を数多く見てきました。
事業部門は、業務の知識と利益を生み出す力を持っています。どの業務にどれだけ困っていて、何に価値があるのか判断できる。一方IT部門は、技術の知識と作る力、全体最適の視点を持っています。全社のガバナンスや統制を維持しながら、全体最適のシステムを作ることができる。
DXは、この2つが組み合わさって初めて形になります。裏返せば、連携の問題とは、この2つが組み合わさっていないことです。
組み合わせが起きない3つの背景
では、なぜ事業とITの組み合わせが起きにくいのでしょうか。マクニカが自社での実践や企業支援を通じて見てきた背景は、大きく3つあります。
前提として、IT部門はすぐには動くことができません。基幹システムの保守など、止まったら困る業務を日々抱えているからです。つまり、待っていても組み合わせは起きません。
そのうえで、組み合わせを妨げる背景は3つあります。
1つ目は、事業部門がDX推進やシステム開発について、気軽に相談できる機会や窓口が少なく、きっかけから作れないことです。
2つ目は、事業とITが企画から開発まで一緒にできる場が少ないことです。そもそも一緒にプロジェクトを推進できる機会がない。
3つ目は、共同でプロジェクトを推進できる人財やノウハウが不足していることです。前例がなく、実務で経験を積む場も少ないため、できる人が育ちにくい。最適な進め方や体制のノウハウも社内にない。
つまり、連携できる仕組みがないまま、それでもDXは進めなければなりません。さらに、期限もある。そこで事業部門は、自部門だけでも着手しやすく、課題解決に直接つながって見えるツール選定から始めるケースがあります。
もちろん、ツール選定から着手することが悪いことではありません。しかし、単独でツールを入れても、業務の知識と作る力の組み合わせは起きません。それどころか、部分最適でのツールの導入が進み、IT部門が管理しないといけないツールが増え、IT部門のリソースがさらに逼迫してしまいます。さらに、アジリティが会社の中に根付きません。
このように、ツールを導入するだけでは、事業の知識とITの作る力が組み合わさる仕組みまでは生まれません。
そこでマクニカは、「組み合わせが起きる仕組み」を、組織の中に作ることにしました。
アジリティは体制で手に入る。マクニカが作った4つの仕組み
マクニカが作った仕組みは、大きく分けると4つです。
それぞれ詳しくご紹介します。なお、④テーマ選定・効果測定については、次章で解説します。
アジリティの仕組み①:チーム体制
プロダクトオーナーは事業部門から
まず1つ目の仕組み、チーム体制からです。マクニカのチームは、事業部門とIT部門の共同プロジェクトの形をとります。
ただの共同プロジェクトと違うのは、中心に置く役割と担当です。チームには「何を作るか・何に価値があるか」を決めるプロダクトオーナーという役割を常設し、業務の知識を持つ事業部門の人が担います。
なぜ、プロダクトオーナーが事業部門なのか。業務を一番分かっているのは事業部門です。システムについての重要な判断材料(どの業務が困っていて、何に価値があるのか)は、業務をやっている本人の頭の中にあります。さらに、改善したいモチベーションも高い。つまり、業務の解像度が高い人が、プロダクトにおける重要なジャッジを行いながら、意欲高くプロジェクトを推進できる、という状態を生み出せます。
マクニカでも以前はIT部門がプロダクトオーナーをやっていました。しかし、事業部門に変えたところ、うまく回るプロジェクトが増えました。
チーム編成と育成でプロダクトオーナーを支援する
では、事業部門の人にITの判断まで担えるのか。マクニカでは、2つのアプローチをとっています。
まず1つ目はIT部門によるフォローです。プロジェクト内にスクラムマスターという役割を配置。スクラムマスターは、アジャイル開発のコツを知り、開発者の生産性を高めるコーチ役で、経験のあるIT部門が担います。そして開発する人は、内製ならIT部門から出します。外部のパートナーと組む道もあります。
これにより、プロジェクトをうまく推進できる形で、業務の知識と作る力の2つを組み合わせます。
ここで気になるのは、IT部門の負担かもしれません。体制を変えても、IT部門が既存の業務で手一杯である事実は変わらないからです。マクニカでは、ローコードや生成AIなどを活用し、IT部門の開発生産性を高めることにしました。
そして2つ目は、プロダクトオーナー本人への育成です。
まずは、プロダクトオーナーが何をする役なのかを学ぶ。その後、ITやスクラム(アジャイル開発の型)の知識を学び、プロジェクトで実践する。この積み重ねで育成していきます。
この2つのアプローチにより、IT部門と協力しながら、プロダクトオーナーが判断・推進できるようになっていきます。
アジリティの仕組み②:アジャイル開発
2週間ごとに直し、3ヶ月でリリース
では、次にこのプロジェクトをどのように進めていくのか。これが2つ目の仕組みである、アジャイル開発です。
アジャイル開発とはシステムやソフトウェア開発において、短期間で開発と改善を繰り返しながら、ソフトウェアの価値を継続的に高めていく開発手法です。
このプロジェクトでは、まずプロダクトオーナーが作りたいものの姿(プロダクトビジョン)を言葉にすることから始まります。それを、欲しい機能の優先順位付きリスト(プロダクトバックログ)に分解する。開発者がアジャイルで開発を進め、2週間に1回、動くものを見せます。
2週間ごとに動くものが見えると、「こういうものもあればいいよね」というアイデアが次々に湧きます。それ自体は良いことですが、MVP(必要最小限の機能に絞った初版)のリリースは約3ヶ月に1回が基準。足すほど遅れます。だからプロダクトオーナーは、「今回のリリースに入れるか」「そもそも価値があるか」をジャッジし続けます。
この「価値のジャッジ」こそ、プロダクトオーナーの最も重要な仕事です。価値の有無を判断し、実装するものに優先順位を付けていきます。
また、2週間に1回のレビューは、事業部門と開発者が要件を擦り合わせ続ける場でもあります。業務を分かっているプロダクトオーナーが2週間ごとに方向を直せることで、導入したのに現場で使われないシステムが生まれることも防げます。
業務を知る本人が2週間ごとに方向を直し、約3ヶ月で形にする。この繰り返しのなかで、アジリティがチームに育っていきます。
アジリティの仕組み③:CoE組織
窓口と案件を一つに束ね、ノウハウを蓄積する
3つ目の仕組みが、CoE組織です。
こうした共同プロジェクトには、続けるうえでの落とし穴があります。プロジェクトが終わると、メンバーはそれぞれの部門へ帰っていきます。すると、せっかく積み上げた経験もノウハウも、一緒に散らばってしまう。これでは、次のプロジェクトにつながりません。
こういった課題に有効なのが、CoE組織です。マクニカのCoEではまず、全部門の相談やアイデアをひとつの窓口で受け止めます。とにかく、ここに持ち込んでくれれば良い、というイメージです。
また、案件を一つに集めることで、得られたノウハウも一か所に蓄積できます。あるプロジェクトで得たノウハウを、別のプロジェクトでも活用できる基盤となります。
CoE組織でDX人財育成も担う
さらに、先のプロダクトオーナー本人への育成もこのCoE組織で行います。アイデアを持ち込んだ事業部門の人自身がプロダクトオーナーとしてプロジェクトを推進しながら、実践で学ぶ。そして、CoEがその育成を支える。その後プロジェクトを終えて部門へ戻った人は、今度は部門を引っ張る側に回る。こうした人の循環で、ITについて価値判断のできるプロダクトオーナー、つまりDX人財が増えてきます。
つまり、CoE組織によりプロジェクトを実施すればするほど、ノウハウとDX人財が組織に溜まっていきます。この積み重ねにより、アジリティが1プロジェクト単位ではなく、組織の力に変わっていきます。
この体制の土台には、シーメンス社やMendix社(ローコード開発プラットフォームの提供元)が体系化したDXのベストプラクティスがあります。マクニカはそれを、自社の実践やクライアント支援を通じて日本企業に合う形に最適化して運用しています。
実際、マクニカでは、CoE組織に約1年で70を超えるアイデアが集まり、11のシステムやサービスをリリースし、業務時間を44,000時間削減できました。
なお、マクニカが実践したCoE組織のつくり方は、こちらの記事で詳しく解説しています。
アジリティの仕組み④:テーマ選定と効果測定。最初のテーマは「効果大×開発コスト小」
テーマはどう選ぶのか
最後の仕組みが、テーマ選定と効果測定です。
多くの企業がすでに、やりたいことのアイデアをお持ちだと思います。差がつくのはその後、どのアイデアから着手するのかというテーマ選定、つまり優先順位付けです。
マクニカはテーマを、効果 × システム開発コスト(規模感・開発工数など)の4象限で切ります。効果(業務の削減時間など)は、事業部門で見積もれます。そこに、システム開発コストの軸を加えるのがポイントです。プライオリティ1は、左上の「効果が大・開発コストが小」に入るもの。事業部門にとっての価値が大きく、開発コストが小さいからです。
注意点としては、効果も開発コストも大きい右上です。確かに、取れ高としては一番大きい領域になります。しかし開発コストが大きいぶん投資はかさみ、成果が出るまでの期間も延びます。投資する経営層から見ると、回収の遅いプロジェクトは「まだ成果が出ない」と映ってしまいます。
だから「効果・開発コスト大」ではなく、まずは「効果が大・開発コストが小」から着手することが重要。ホームランではなく、確実な最初の一勝を素早く取りにいく、ということです。
ただし開発コストの見立ては、事業部門だけでは難しい。そのため、IT部門と連携しながら検討していく必要があります。この連携の場になるのが、3つ目の仕組みであるCoE組織の窓口です。
マクニカではCoE組織が、全社員がいつでも・どこでも自分のアイデアの種を発信できるポータルサイトを整備しました。そこに、アイデアや困り事を登録します。その後、CoE組織がアイデアをROI、機能・非機能要件などの観点で解像度を上げていく支援を実施。ここで、開発コストなどを見積もり、着手するテーマの優先順位を付けていきます。
効果測定の2つの視点
テーマを選んだら、次は効果の測り方です。効果は、2つの視点で計測します。
1つ目は、「事業部門における効果」で、テーマに選んだ業務工数がどれだけ削減されるか、あるいは新サービスの収益などです。2つ目は、開発工数や管理工数の削減といった「IT部門におけるコスト削減効果」です。
例えば、マクニカでも、高額なサブスクリプション費用がかかっていた基幹システムとの連携が必要なシステムをMendixで内製でき、大きなコスト削減につながりました。
このように、今まで外注していた開発を内製へ切り替えることができたり、リリース期間の短縮や開発生産性の向上などによる効果も測定します。
つまり、事業部門側だけでなく、IT部門への効果も測定します。その後、削減の効果から、ライセンスやインフラの費用を差し引き、残った分を利益として計測します。こうすることで、ITがもたらした効果を全社視点で測定できます。
事業とITが連携し、アジリティを手に入れるための4つのステップ
最後に、アジリティ獲得に向け、最初の一巡を小さく回すための4つのステップをご紹介します。
- ステップ1:共通の目標を持つ
- ステップ2:テーマを選ぶ
- ステップ3:チームを組む
- ステップ4:小さく回して、作り切る
最初に決めるのは、目標です。マクニカは、事業部門とIT部門が共通の目標を持つことが非常に重要だと考えています。人は「なぜやるのか」が腹に落ちて、はじめて自分から動き出せるからです。
共通の目標がないまま走り出して、途中で止まってしまうプロジェクトは少なくありません。事業とITの連携不足を埋めるにも、目線を合わせる目標設定が第一歩です。
次に、テーマ選びです。先ほどの4象限を活用し、効果が大きくて、早く形になりそうなものから始めます。いきなりホームランは狙わず、確実に取れる最初の一勝に集中することが大切です。
テーマが決まれば、それを動かすチームづくりです。業務の知識と作る力を、ひとつのチームに集める。重要なのはプロダクトオーナーを事業部門から出すこと。これにより、強い推進力と適切な価値判断でプロジェクトを進められます。
最後は、作り方です。一度に作り込まず、短い間隔で「見せて、直す」を繰り返しながら、数ヶ月でひとつを作り切る。小さく作ってすぐ見せるから、方向のずれにその場で気づいて直せます。素早く作って、直しながら進める。
以上4つのステップを一巡することで、数ヶ月で実課題を解決するシステムをリリースできます。
この一連の流れこそが、アジリティが利益につながる理由になります。
効果が大きく開発コストの小さいテーマから素早く形にするから、回収も早い。方向を直しながら作るから、使われないものに投資しない。そして、削減の効果が費用を上回った分は、そのまま利益になる。だからITは、コストではなく、事業部門の利益を生み出す源泉になると考えています。
さらに最初のひとつのリリースが、投資する経営層への何よりの証明になります。ITは価値を生む、利益を生むということを、動くもので示せます。
このプロセスを何度も繰り返すことで、徐々にアジリティがある組織に生まれ変わります。
冒頭でもお伝えしたように、マクニカも以前、企画からリリースまで1年以上かかっていました。しかし今では、AIエージェントで見積業務を自動化するシステムをPoCで5日、MVPまで約4ヶ月でリリースできるようになりました。
なお、上記の事例の詳細は以下の記事でご紹介しています。
ここまでの道のりは長いものでした。しかしその中で得た失敗やノウハウを、マクニカは多くの企業様に共有し、アジリティの獲得に向けてご支援しています。
生成AIの進化が激しい今、システム化までもっと早めたいという方がいらっしゃいましたら、ご連絡いただけますと幸いです。
なお、マクニカでは実課題を解決するアプリケーションを、企画から実装まで数日で体感するワークショップも実施しています。「ここまで素早くできるのか」を実感したい方は、以下よりお問い合わせください。