現地で見た製造業DXは、すでに「検討」ではなく「実装」の世界だった——。
「Hannover Messe 2026」で最も強く語られていたのは、“AIがどこまでできるか”ではありませんでした。『Think Tech Forward』という今年のテーマが示していたのは、技術を前に押し出すことそのものではなく、課題に向けて前進し続ける姿勢だったように思います。Agentic AIが前提となる時代でも、最終的な判断と責任は人が担う——この“Human in the Loop”こそが、現地で繰り返し示された現実解でした。
ここ数年のHannover Messeを振り返ると、製造業DXの議論は毎年少しずつ重心を移しています。2024年はサステナビリティと標準、2025年はITとOTをまたぐ実装、そして2026年は、AIをいかに現実の業務として運用し続けるかという段階に入った年です。本稿では、そうした流れの中で、なぜMendixが2026年の議論の中心にいたのかを、現地のメッセージに基づいて整理します。
ハノーバーメッセ2026、製造業DXの【今】
思想から実装、そして運用へ——3年間で変わったDXの重心
まず全体像として、ここ3年間の変化を簡単に整理しておきます。
2024年は「持続可能な製造」とカーボンフットプリント削減がメイントピックでした。バッテリーパスポートに象徴されるように、欧州(特にドイツ)が主導するデジュールスタンダード戦略が強く打ち出され、生成AIも登場してはいましたが、ユースケースより技術紹介や将来像の提示が中心でした。全体としては、方向性や思想を示す年だったと言えます。
2025年になるとテーマは「産業の変革」に移り、AIの実用化とエッジデバイスの進化が前面に出てきました。AI/データが実装フェーズに入り、エッジ側でのアプリ実装やデータ連携が進んだことで、ITとOTの連携が一気に加速します。OT側から見たデータ/AI活用の具体性が増す一方で、IT側から見たOT現場の課題や実態の解像度も大きく高まりました。
同時にこの年は、センシングデータを扱う難しさも改めて明確になりました。機差やノイズといった環境要因、取り付け位置による共振、取り付け方法の違い、メタデータとの連携など、IT視点では見えにくかった「データ取得そのものの課題」が強く認識され、バーチャルセンシングへの注目が高まったのも象徴的です。2024年と比較すると、明確に現実世界での実装に焦点が移った年でした。
その流れを受けたうえで迎えた2026年は、一言で言えばAgentic AI一色といっても過言ではありません。
見えてきたのは「AI一色」だが、決して単純ではない現実
2026年の会場では、Agentic AI、デジタルツイン、ローコード開発が至るところで語られていました。ただし、会場を歩いて強く感じたのは、「AIが進んだから分かりやすくなった」わけではないという点です。生成AIやエージェントの展示は非常に多く、正直なところ表面的なメッセージは似通って見える場面も少なくありませんでした。
「どこで差別化するのか?」 「それは本当に現場で使えるのか?」
こうした問いが、明確な答えを伴わないまま、静かに会場全体に漂っていたのが実情です。DXは確実に前進している一方で、“簡単になった”という感覚はほとんどありませんでした。
Siemensが示した“一気通貫”と、その裏側
SiemensがHall 27で打ち出していたのは、設計から製造、運用までを一気通貫でつなぐデジタル化の世界観です。IT、OT、データ、AIを分断せずに扱うことが前提となり、DXはもはや特別な取り組みではなく、製造業のインフラとして語られていました。
一方で、その裏側には、膨大で分断されたデータ、相関関係の整理、ドメインをまたぐ意思決定といった、非常に難易度の高い課題が残っていることも、ブース説明の端々から感じ取れます。
フィジカルAI・ロボットへの冷静な視線
CESで注目されていたフィジカルAI/ヒューマノイドも、Hannoverでは各社展示されていましたが、目新しさは限定的でした。ヒューマノイドの実用化は「まだ遠い」と受け止める声が多く、デジタル側の生成AIと比べると、活用イメージを描きにくいという印象が強く残ります。
特に実証を始めている企業からは、人間の作業をそのまま置き換える形で比較すると失望が生まれやすい一方で、本質的な課題はロボットとの協業を前提としたワークフローやロードマップを描く力がまだ成熟していない点にある、という意見が多く聞かれました。
なぜMendixが製造業DXのど真ん中にいるのか
こうした3年間の流れと、2026年の空気感を踏まえると、なぜMendixがこれほど存在感を放っていたのかが見えてきます。その最大の理由は、Agentic AIの時代が来ても「人が最終的に関与する(Human in the Loop)」ことを前提に設計されていた点です。
Mendixは、AIにすべてを委ねる世界観ではなく、AIが判断や提案を行い、人が検証し、承認し、最終的な責任を持つ構造を明確に示していました。エージェントには信頼度(Confidence Level)が設定され、閾値に満たない場合は自動実行されず、人に戻される。その人の判断が、次の学習に反映されていく。こうした設計思想が、製造現場のリアルに即したものとして高く評価されていました。
Agentic AIが「記録・提案」から「実行」へと進化するにつれ、人によるガバナンスの重要性はさらに高まります。AIが自律的にタスクを遂行する場合——設備の操作や発注といった物理的な影響を伴う場面では特に——その結果に対する最終的な判断と責任は、人が担わなければなりません。MendixのHuman in the Loopの設計思想は、こうしたガバナンスの要請に正面から応えるものです。
会社ごとに3層、4層といった表現の違いはありつつも、Agentic AIを運用していくためには、アプリケーション層、データハブ層(AIファブリック層)、データソース層が有機的につながったアーキテクチャが必要になる——この点は、各社に共通したメッセージでした。
Siemensのような製造ドメインの総合ベンダー、MicrosoftやAWSといったプラットフォーマー、SAPやSalesforceなどのSaaSベンダーに至るまで、「一社だけでデータソースを完結できない」という前提が共有され、データハブ層の重要性が強調されていました。
その意味で、今年のHannover Messeは、Agentic AIをいかに使いこなすかを巡る「データハブ争奪戦」の様相を呈していたとも言えます。
そして、そのデータハブ層を支える技術として、Knowledge Graph/Graph DBが強く注目を集めていたことは、Mendixの議論とも自然につながっていました。
マクニカのブース出展で見えたこと
マクニカが日本パートナーとしてMendixブースに出展した背景には、「日本の製造現場のリアルを、グローバルな文脈に持ち込む」という明確な意図がありました。展示では、単なるアプリ開発ではなく、「業務をどう成立させ、どう実行するか」まで踏み込んだ現実解が提示されていました。その中核にあったのが、マクニカとマクニカのパートナーであるOrangeleafによるAIエージェント「Dxter」のデモです。
Dxterは、TeamcenterやSAPといった複数の基幹システムを横断的に接続し、問題認識から分析、部品選定、ベンダー抽出、RFQ作成、メール送信、作業指示生成までの一連の業務プロセスを統合的に実行します。従来、こうした業務は人手による分断されたプロセスであり、複数の引き継ぎや判断を経て数時間〜数週間を要するものでした。それに対しDxterでは、必要な情報を自動的に収集・整理し、意思決定に必要なドキュメントを生成しながら、最終的な実行までを一気通貫で進めます。結果として、プロセス全体が数分単位に圧縮されるという「実行そのものの自動化」が示されました。
さらに重要なのは、この仕組みが単なる自動化デモではなく、「人とAIの役割設計」まで含んでいる点です。Dxterは完全自律モードだけでなく、人がレビューしながら進めるハイブリッドモードも備えており、「どこまでAIに任せるか/どこを人が担うか」という現実的な運用設計が前提となっています。これは、将来像ではなく『今すぐ導入可能な業務設計』であることを強く示しています。
このデモを受けて、来場者から多く寄せられたのは、「どのデータをどうつないでいるのか」「現場は誰がどう関与するのか」といった極めて実装・運用志向の問いでした。これは日本に限らず海外参加者でも共通しており、データ統合と人の関与設計こそがグローバルでの本質的な関心であることが確認されました。
また、日本のユースケースとして提示された背景も、この文脈を強化するものでした。日本の製造現場では、①ベテランの退職による暗黙知の喪失、②人材不足、③事業成長による業務増加という複合課題が存在しています。これに対し、AIエージェントを「デジタルワーカー」として組織に組み込み、人と協働する『ハイブリッド・ワークフォース』を構築するアプローチが示されました。
Mendixはこの実現基盤として、①Secure(安全な実行環境)、②Open(生成AIの選択自由度)、③Connect(ERPやレガシーを含むシステム連携)を提供し、単なるアプリ開発にとどまらず、業務全体を統合的に成立させる役割を担います。
こうした展示を通じて、マクニカとOrangeleafの取り組みは、ツールや技術の紹介にとどまらず、現場の課題と向き合いながら業務全体をどのように支えるかという視点で構成されていることが示されていました。製造現場のリアルな課題理解と、グローバルな最新技術(Mendix・Agentic AI)を接続し、「構想」と「実行」を一体で提示できていたことが、今回のブースの本質でした。
日本の製造業DX担当者へ ― 現地から持ち帰った問い
Hannover Messe 2026を通じて改めて感じたのは、日本と欧州におけるDX推進のスタンスの違いです。欧州では、IT部門は「作る人」ではなく、「つなぐ人・支える人」として位置づけられ、現場が主体となって改善を回し続ける前提が広く共有されています。
その結果、要件をすべて固めてから動くのではなく、まず動かし、使いながら直していく——「作りながら決める」DXが現実的な選択肢として機能しています。これは技術レベルの違いというより、役割分担や意思決定の構造の違いと言えるかもしれません。
日本の製造業DX担当者にとって重要なのは、最新技術をどう導入するか以上に、
- どこまでを人が判断し、どこからをAIに任せるのか
- 現場はどの段階で関与し続けるのか
といった運用を前提とした問いを、早い段階から持てるかどうかです。Agentic AIやHuman in the Loopは目的ではなく、そうした問いに向き合う中で選ばれていく手段に過ぎません。
Hannover Messe 2026の会場で共有されていたのは、「どう進めるべきか」を各社が模索し続けているという現実そのものです。ここで見えた流れや問いが、皆さん自身の状況を考える際の一つの参考になれば幸いです。
おわりに
製造業のDXは、「どこから手をつければいいかわからない」から「どう運用し続けるか」の時代へと移行しています。マクニカは、Mendixを通じて日本の製造業の現場に根ざした実装を支援するパートナーとして、皆さんのDXを「実装フェーズ」へと一緒に進めていきます。
Mendixの活用方法、デモ体験、導入相談など、お気軽にマクニカまでお問い合わせください。