信号の送り方は、図1 に示すように、

  1. 従来からの CMOS の信号のまま送る方法
  2. メモリバスのように、小振幅で整合終端する方法
  3. 複数の信号を 1本または数本にまとめて送る方法


に大別されます。

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図1 信号の送り方

ここでは、「3. 複数の信号を 1本または数本にまとめて送る方法」の伝送方法について述べます。

信号の転送速度は年ごとに高速化しています。パソコンが電話線やインターネット回線を介してやりとりするデータをみると、1990 年前後の 1200 bps のモデムに始まったといえるでしょう。その前に 300 bps の時代もありましたが、個人のパソコンでは 1200 bps がスタートで、それからその倍の 2400 bps、さらには 4800 bps と高速化が進みました。この頃は電話線からモデム(変調復調装置)を介していました。現在では、56000 bps まで高速化されていますが、3400 Hz の音声回線ではこれが限界で、現在では ADSL や光回線により、個人でも 1 Gbps を用いているのは珍しくありません。20 年で 6桁高速化されたことになりますから、信号の伝送方式も当然変わってきました。

高速化するためには、図2 (a) のように信号本数を増やすか、図2 (b) のように 1本当たりの転送速度を上げる 2つの方法があります。

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図2 高速化の手段

信号の本数を増やすことに伴う、以下の欠点があります。

  • スキューの増加
  • 消費電力の増加
  • 物理的に大きくなる


スキュー(Skew)とは、複数の信号間の時間のズレのことをいいます。ドライバの遅延時間のバラツキや配線の遅延時間のバラツキなどが主な要因です。転送速度が遅いとき、例えば 100 Mbps ではデータ周期が 10 ns なので、100 ps 程度のバラツキは無視できましたが、1 Gbps では周期が 1 ns となって、スキューが 100 ps は無視するには大きすぎます。

高速伝送では、反射を回避するために一般的には整合終端します。終端により消費電力が増大するので、信号本数が多いと全体の消費電力が増加します。信号本数が多いと物理的に大きくなることは説明するまでもありません。これらの欠点を克服する方法として、複数の並列に送る信号を 1本にまとめる方法がシリアル伝送です。身近な例として、USB(Universal Serial Bus)や SATA(Serial ATA)、PCI-Express、Ethernet などがあります。

これらのシリアル伝送に共通するのは、前述した整合伝送のほかに、小振幅化です。CMOS 信号の 3.3 V に対して 400 mV 以下に低減することが可能になりました。それでは、なぜ小振幅化が可能になったのでしょう?それは、1つの信号を 1本の信号線で送るシングル伝送から、2本用いる差動伝送にしたからです。レシーバは 図3 (a) のように差動入力になりました。

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図3 CMOS 入力と差動入力

図3 (b) は従来の CMOS 入力ですが、CMOS 入力は不感帯がフル振幅の 30 ~ 70 % ほど存在します。これでは小振幅化はできませんが、差動入力では不感帯はミリボルト(mV)のオーダなので、さらに小振幅化することが可能です。さらに、差動伝送は文字通り 2本の信号の差をとるので、2本に共通に加わったノイズ(コモンモードノイズ)は引き算されるので、雑音に強い利点をもつ伝送方式です。 『差動インピーダンスとは』も参照ください。

このように、伝送方式の変更と半導体の進歩とによって 10年で 1桁程度の高速化が可能となりました。この結果、高速化による新たな課題、すなわち、線路損失が顕在化してきました。これについては 『線路損失と波形』で詳しく述べているので参照ください。

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