問題1

突然ですが、図1 の波形から何がわかるか、どんな情報を含んでいるか考えてみてください。
ヒントは 回答1 の上にあります。

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図1 どこの波形?

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回答1

まずは、どこのどんな波形か?ですが、1対1 伝送の遠端の波形であることはわかります。オーバシュートとその跳ね返りがあるのでドライバの駆動能力が大きい、そこまでわかるとこのコラムをよく読んでいただいている方でしょう。

オーバシュートは波形暴れの代表といえる現象で、フル振幅以上に信号が振れることをいいます。オーバシュートに含まれている定量的なデータは、振幅とパルス幅です。これらから何がわかるでしょうか。パルス幅は線路の往復時間を表します。ボードを伝わる信号の単位長当たりの遅延時間は、6 ~ 7 ns(脚注1)なので、例えばオーバシュートのパルス幅が 1 ns だったとすると、線路の長さは 7 cm 程度であることがわかります。

オーバシュートの振幅は、ドライバの駆動能力が大きければ振幅も大きくなることはご存じのとおりです。「ドライバの駆動能力が大きい」というのは漠然とした表現です。「あの人は力が強い」というのと同じで、一般的な人の中で強いというのと、相撲取りの中で強いのとは強さが違います。

ドライバの駆動能力も相対的なものです。例えば、ボードの特性インピーダンスが 30 Ω なら、12 mA ドライバでも最適駆動能力といえますが、70 Ω の特性インピーダンスなら、その半分の 6 mA ドライバでもやや駆動能力が大きいといえます。『特性インピーダンスとドライバの駆動能力』で駆動能力について詳しく述べていますが、出力抵抗から駆動能力の電流値を求めることができます。

それでは、オーバシュートがフル振幅の 30 % だったとすると、駆動能力はどのように表現できるのでしょうか。オーバシュート量 a は、線路の特性インピーダンスを Zo、ドライバの出力抵抗を R1とすると、
(Zo - R1) ÷ (Zo + R1) で表されるので、
R1 = (1 - a) ÷ (1 + a) × Zo
と求まります。
ダンピング抵抗ってどのように決めるの?』を参照ください。オーバシュート量 a = 0.3 だと R1 は Zo の0.7/1.3 倍なので、Zo = 50 Ω のときには R1 = 27 Ω、すなわち、駆動能力は 10 mA 程度ということがわかります。
特性インピーダンス Zo をドライバの出力抵抗 R1で割った x = Zo ÷ R1 は、特性インピーダンスを考慮した駆動能力で、『ダンピング抵抗ってどのように決めるの?』に出てきたパラメータです。

問題2

さて、別の例ですが、図2 は何の波形でしょうか?
ヒントは 回答2 の上にあります。

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図2 どこの波形?

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回答2

これは、1対1 伝送の近端の波形です。特殊な例もありますが、一般的には、オーバシュートがあるのが遠端、立ち上がりに段があるのが近端です。遠端よりも理解しやすいと思います。

最初の段は、ドライバの出力抵抗と線路の特性インピーダンスとの分圧された振幅なので、ドライバの駆動能力が大きい、すなわち、出力抵抗が小さいほど段は大きくなります。たとえば、フル振幅の 65 % とすると、Zo ÷ (R1 + Zo) = 0.65 から R1 = 0.7 ÷ 1.3 × Zo で上述の遠端の例と同じです。
最初の立ち上がりから次に立ち上がるまでの部分の時間が線路の往復時間に等しいことは、すでにおわかりと思います。

ところで、近端の波形の最初の段とオーバシュートの最大値とは倍・半分の関係にあることはご存じだと思います。遠端の波形が測定できない場合には、近端の波形から推測することができます。上の例だと、近端の最初の段が 65 % なら遠端の最初の振幅は 130 % なので、オーバシュート量は 30 % ということがわかります。そして、『もっと簡単に決めるダンピング抵抗の値』で述べたように、オーバシュートとその跳ね返りとは自乗の関係があるので、跳ね返り量は 9 % ということがわかります。

以上のように、波形の各部をながめると、その振幅や時間がそれぞれ意味を持っていることがわかります。漠然とながめるのではなく、波形が語っていることに耳を傾けてみてください。

余談ですが...

最近はオシロスコープのプローブの容量が小さくなったのであまり関係ないかもしれませんが、プローブの容量は波形に影響を与えます。

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図3 遠端の容量による遠端の波形の変化

図3 は遠端の容量を 0 ~ 5 pF まで変化させたときの遠端の波形をプロットしました。かなりの影響を受けていることがわかります。

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図4 近端の容量による近端の波形の変化

図4 は同じく、近端の容量を変化させたときの近端の波形の変化です。容量の影響をあまり受けていないことがわかります。この近端の波形から遠端を推測しますが、近端の波形が変化してないので、遠端も変化しないことが予測できます。

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図5 近端の容量による遠端の波形の変化

図5 はこのときの遠端の波形の変化です。図3 と比べると違いがよくわかります。
なぜ近端と遠端とで容量に対する影響が違うか?近端はドライバの出力抵抗と線路の特性インピーダンスの並列のインピーダンスと容量とによる時定数が影響します。遠端は開放ですから、線路の特性インピーダンスのみです。

上の例では、線路の特性インピーダンスが 50 Ω、ドライバの出力抵抗が 27 Ω ですから、近端の並列のインピーダンスは 18 Ω ですが、遠端は 50 Ω で 3倍ほど時定数が異なるため、このように違いが生じるわけです。

脚注1
材質や断面寸法によっても変わりますが、FR-4 の一般的なボードの場合、表面層は 6.5 ns/m、中間層は 7.2 ns/m 程度です。

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