車載用DC/DCコンバーターのループ特性調整の重要性と注意点

車載用Primary DC/DCコンバーターにおけるループ特性について

DC/DCコンバーターを使用スペック条件内で安定動作を得るために、ループ特性すなわち内部エラーアンプの位相マージンやGain余裕は重要な要素の1つに挙げられます。本記事では12Vの車載用鉛バッテリー(以下+Bと記載)を電力源とする、Primary side DC/DCの位相マージン調整に関する注意点を解説します。

位相マージンやGain余裕を求める概念・計算式・調整方法等については割愛しますが、これらは回路に使用する周辺部品や使用スペックに依存するため、バラつきの大きい要素がある場合には、それに合わせた調整が必要となります。特に+Bでは要求される電圧レンジが広く、直接続するDC/DCコンバーターには周辺部品との絡みで、入念な調整が必要とされる点も難しい所の1つと言えます。

この記事では、次の2つの電力源を用いてシミュレーション比較をおこないました。

・ACアダプター(12V出力)を電力源とするアプリケーション
例えばACアダプター(12VDC出力)を電力源とするアプリケーションの場合、おおよそ±10%の入力電圧のバラつきを考慮して設計するケースが多いと思います。

・+Bを電力源とするアプリケーション
バラつきは更に大きくなり、9Vin16Vinを初期設計として考慮するケースが多いです。更に、Cold-Cranking要素を考慮する必要性もあり、9Vinよりも低い電圧値 (IC端電圧で5Vなどで安定動作が要求されることが想定されます。

LTPowerCADによるシミュレーション

位相マージン、Gain余裕をLTpowerCADでシミュレーションを実施してみます。

定数 ⇒ LTC7803 : 12Vin/3.3Vout、 Iout=20A、 Fsw=500KHz、Ith: R3=10KΩ、C8=560pFC4=22pF

図1 : シミュレーションを実施したLTC7803の回路図
図1 : シミュレーションを実施したLTC7803の回路図

ACアダプター(12V出力)を電力源とするアプリケーションの結果

図2 : ACアダプター(12Vin±10%)想定のボード線図
図2 : ACアダプター(12Vin±10%)想定のボード線図

Vin

10.8V

12.0V

13.2V

Bandwidth

39.81 [KHz]

39.81 [KHz]

39.81 [KHz]

Phase Margin

70.87 [deg]

72.01 [deg]

72.96 [deg]

Gain

(-)15.2 [dB]

(-)14.98 [dB]

(-)14.61 [dB]

表1 : ACアダプター(12Vin±10%)想定のシミュレーション結果

+Bを電力源とするアプリケーションの結果

+B想定 with Cold-Crank (5Vin~16V)
図3 : +B想定 with Cold-Crank (5Vin~16V)のボード線図

Vin

5.0V

12.0V

16.0V

Bandwidth

35.48 [KHz]

39.81 [KHz]

39.81 [KH]

Phase Margin

59.59 [deg]

72.01 [deg]

74.66 [deg]

Gain

(-)17.48 [dB]

(-)14.98 [dB]

(-)13.91 [dB]

表2 : +B想定 with Cold-Crank (5Vin~16V)のシミュレーション結果

シミュレーション結果から判明した差異

上記シミュレーション結果の通り、+B5V想定時では特性に明らかな差異が生じており、広入力レンジによる影響と考えられます。今回の結果では一般的な観点で悪い数値ではないと考えられますが、本シミュレーションでは周囲温度をTa=25℃設定でおこなっていますので、実機で温度振りの試験をして更に差異が生じた際は、調整が必要な可能性もゼロではありません。

車載系アプリケーションではTa=-40℃~85℃が基本的な温度環境であり、設置個所によってはTa=-40℃~125℃が必須といった過酷なものになります。

ループ特性の調整方法

R3:
クロスオーバー周波数「Fc」の調整:FcGain0dB時の周波数
抵抗値減少→Fc小、抵抗値増加→Fc
位相マージンと負荷への応答性はトレードオフ傾向となります。
Fcを小さくして位相マージンの確保難易度を下げる代わりに応答性を低下させるか、あるいは逆のパターンにするかはお客様のアプリケーションに合わせて調整ください。

C8: 利得調整
容量値減少→利得小、容量値増加→利得大
利得大ではセトリング時間は増加傾向になるものの負荷応答のOver/Undershoot電圧をあまり変えずにFcを小さくすることが可能です。
利得小ではOver/Undershoot電圧が小さくなりセトリング時間も減少しますが、Fcが大きくなる傾向との関係上、位相マージンが低下傾向になります。

C4: 高域ポールの形成(ノイズ除去用)
主として高周波帯のノイズ除去に効果が見込めます。

Cff: 位相進みの調整(今回は0pF設定)
高域位相を進めて負荷応答特性を改善します。位相マージンとの兼ね合いで調整。

また、本記事の題目からは少々外れますが周辺部品との絡みでの観点で、インダクター定数の選択を挙げます。インダクターのリップル電流は出力電圧やスイッチング周波数が固定されている場合、入力電圧のレンジに大きく依存します。

+BMin/Maxに振り切れた場合、リップル電流の振れ幅も非常に大きなものとなる点に注意して定数を選択する必要があります。かつインダクター定数を変更した場合には再度、位相マージン・Gain余裕が最適になるように、R3, C8, C4Cff定数も再調整が必要です。

これらを想定した上で安定動作を得るために最適なループ特性の調整が求められます。

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