DC/DCコンバーターのスイッチング周波数は、高くすべきか低く抑えるべきか悩んだことはありませんか?

少し前は300500KHzが主流でしたが、最近は12MHzのスイッチング周波数の製品が一般的になってきて、なかには4MHz以上の製品まであります。

 

高い周波数のDC/DCコンバーターの場合、使用するインダクタサイズを小さくすることが可能であり、電源回路の小型化が実現できます。これは小型のポータブル製品では、必須の機能になります。ただし、スイッチング周波数を高くすると、効率が低下するデメリットがあることもよく知られていることと思います。

 

この記事では、理想的な回路と実際の回路のシミュレーションについて簡単に説明し、スイッチング波形を確認しPCB レイアウトの影響を確認します。

今回は、第1回目ということで理想のシミュレーションモデルを用いて、レギュレーターのスイッチング周波数が高いときに小型の部品を使えることを確認してみたいと思います。

インダクターと出力コンデンサーの定数設定

ここでは、理想的な回路をLTspiceを用いて作成して動作を確認していきます。

1のような、回路を用いて入力電圧6(V)、出力電圧12(V)、負荷電流10(A)の昇圧コンバーターを構成します。

 

この理想的な回路を用いてスイッチング周波数を2MHz400KHzとしたときに、使用するインダクターと出力コンデンサーの定数を算出して、どれくらい値が変わるか比較します。その後、算出した定数で回路を動かしたときに同じ特性が得られるか確認します。

図1: 昇圧コンバーター回路
図1: 昇圧コンバーター回路

インダクターの選定

インダクターの値を計算します。インダクターの計算にはDuty比が必要になるので式1のように計算します。

  Vo : 出力電圧

VIN : 入力電圧

 VD : ダイオードの順方向電圧

式1:Dutyの計算式
式1:Dutyの計算式

スイッチング周波数2MHzのインダクター(L1)400KHzのインダクター(L2)を計算します。

ΔILは、負荷電流の40%として計算します。

 

2MHzの場合、インダクタンス値が約1/5になっているので、インダクターの巻き数が少なくなります。

その結果、インダクターの外形が小さい部品を選定できることがわかります。

これがスイッチング周波数を高くするメリットになります。

式2:インダクタンスの計算
式2:インダクタンスの計算

出力コンデンサーの選定

出力コンデンサーの値を計算します。出力コンデンサーは、許容できる出力リップルの値で決定します。計算には、次の式を使うことができます。

式3:出力リップル電圧の計算式
式3:出力リップル電圧の計算式

式3のESRは、出力コンデンサーのESRを表しています。

今回は、理想状態の昇圧コンバーターの回路シミュレーションをおこないますので、簡易的にESRはゼロとして式を展開すると、式4のようになり出力コンデンサーの容量を求める式となります。

 

スイッチング周波数2MHzの出力コンデンサー(Cout1)400KHzの出力コンデンサー(Cout2)を計算しました。

結果、Cout1=18μF、Cout2=92μFとなりスイッチング周波数が高い方がコンデンサー容量が小さくて良い結果となります。

それでは、これらの計算して算出したインダクターと出力コンデンサーで所望の出力電圧が得られるかシミュレーションで確認してみます。

式4:出力コンデンサー容量計算式
式4:出力コンデンサー容量計算式

LTspiceによる動作確認

LTspiceを使って、図1の理想的な昇圧コンバーター回路に算出したインダクターと出力コンデンサーを使用して検証します。

スイッチング周波数2MHzと400KHzで12Vの出力が得られリップル電圧も同等であるか確認します。

LTspiceをインストールされている方は、下記LTspice回路ファイルをダウンロードしてご確認ください。

図2:スイッチング周波数 2MHzと4MHzの昇圧レギュレーター回路
図2:スイッチング周波数 2MHzと4MHzの昇圧レギュレーター回路

図3が出力電圧のシミュレーション結果です。

赤色(Vout1)がスイッチング周波数2MHzの結果で、出力電圧12Vでリップルが約149mV
青色(Vout2)がスイッチング周波数400KHzの結果で、出力電圧11.95Vでリップルが約145mV

この結果から、選定したインダクターと出力コンデンサーについて問題ないと言え、高いスイッチング周波数のレギュレーターの場合、周辺で使用するインダクターやコンデンサーなどは小さい部品を選定できることがわかりました。

図3:出力電圧波形
図3:出力電圧波形

ただし、注意すべき点があります。

図4の各種電流波形を確認します。青色のインダクター電流はスルーレートが低く入力コンデンサーによるフィルタリングが容易であることがわかります。しかし、赤色のスイッチに流れる電流や緑色の出力コンデンサーに流れる電流はスルーレートが早いPWMの電流波形であることがわかります。

この様にスルーレートが早い電流が流れる部分のPCBレイアウトは、十分注意して設計する必要があります。

今回はシミュレーションのため、2MHzも400KHzも同様のスルーレートのシミュレーションモデルとしています。しかし、実際のデバイスでは400KHzよりも2MHzの方がスルーレートが早くなることが推測できると思います。

図4:各種電流波形
図4:各種電流波形

まとめ

スイッチング周波数が高くなると、レギュレーターで使用するインタクターやコンデンサーの大きさを小さくすることが可能なことを理解いただけたと思います。

ただし、スイッチング周波数が高くなるとスイッチング損失の増加、高いスイッチノードのスルーレート、高い電流スルーレートなどの困難な課題が発生します。また、適切な MOSFETを見つけることも困難です。MOSFETは、伝導損失を最小限に抑えるのに十分な低オン抵抗であり、高速スイッチングを可能にするのに早い必要があります。PCBのコンポーネントの配置と配線は、PCBの寄生インダクタンスを考慮する必要があり、敏感なノードはノイズが伝搬しないようにする必要があります。

次回の記事では、実際のレギュレーターのシミュレーションモデルを用いてPCBレイアウトの寄生インダクタンスがスルーレートが早い電流波形に与える影響を確認してPCBレイアウト設計の注意点を確認したいと思います。

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