前回の LTspiceを使ってみよう-トラブルが多い電源の立ち上がりをLTspiceで確認 では、レギュレーターの立ち上がり時の出力にオーバーシュートや大きな突入電流の有無についての確認方法を紹介しました。DC/DCコンバーターの評価項目には、次の4つの項目が挙げられます。

  1. 出力リップル電圧
  2. 変換効率
  3. 電源起動時の挙動(出力オーバーシュート、突入電流有無の確認)
  4. その他(スイッチノードの波形、出力の過渡応答性等)

 

今回は、LTspice を使用した「4. その他(スイッチノードの波形、出力の過渡応答性)」の確認方法について紹介します。

もしLTspiceを今から始められる方でしたら、以下の一覧から「基本編」を見ることをお勧めします。 

LTspiceを使ってみようシリーズ 一覧はこちら


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スイッチ(SW)ノードの波形について

SWピンの波形確認は、レギュレーターが正常動作しているか確認するための、非常に重要なチェック項目となります。
 
前回記事でも例として使用した、LT8640を用いた回路にて確認していきます。
仕様は、入力電圧 Vin=12V,  出力電圧 Vout=5V, 負荷電流 Iout=1A, スイッチング周波数 fsw=2MHzとします。

SWノードの波形確認

それでは、以下の手順でシミュレーションと波形確認をおこなっていきます。


1. 回路図のSWノード(赤枠部)をクリックすると、SWノードの波形確認ができます。

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SWノードの波形確認

2. 波形確認ができたら、次は1周期の時間について確認します。


スイッチングレギュレーターの1周期は、スイッチング周波数の逆数で求められます。
スイッチング周波数は、2MHz設定なので1周期は500nsです。

LTspiceで確認する場合は、測定したい箇所をマウスホールドすると左下に測定値が表示されます。
左下の値を確認すると、測定値は499.24nsとなり、約500nsで正常動作といえます。

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1周期の確認

Duty Cycleについて

スイッチング周波数(周期)が設定通りになっているか確認すること以外に、Duty Cycle(デューティーサイクル)の確認も重要です。

 

スイッチングレギュレーターは、スイッチ素子(パワーFET)をON/OFFして所望の出力を得ています。このスイッチングの1周期におけるON/OFF時間の比率をDuty cycleと言います。 入出力の電圧仕様から、次の計算式で降圧型レギュレーターのDuty Cycleについて計算できます。

Duty Cycle [%] = Vout / Vin

今回の仕様 である入力電圧 Vin=12V,  出力電圧 Vout=5Vにおいて、Duty cycleを計算すると約41.6%(=5V / 12V)となります。
LTspiceのシミュレーション波形から、計算結果と同じDuty Cycleとなっているか確認します。

Duty Cycleの確認

3. 次はON時間の確認です。こちらも1周期(T)のON時間(Ton)をマウスホールドすることで同様に確認します。


左下の測定値を確認すると、ON時間は211.07nsであることがわかります。
Duty cycle[%]は (Ton / T) ×100 で求めることが可能です。

(211.07ns / 499.24ns) ×100 = 42.3[%]

入出力電圧比から求めた41.6%とほぼ同等なので、正常動作であると判断できます。

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ON時間の確認

このように、SWノードの波形を確認しDuty Cycleを算出ことが可能です。

Duty Cycle以外に、「minimum on time」や「minimum off time」という規定があります。これらを確認するために、SWノードの波形確認は電源の評価項目として非常に重要です。

入力電圧を変動させた場合のSW波形の確認

出力電圧を5V固定とし、入力電圧が8Vと24Vの2つの条件とし、それぞれのSW波形を確認します。

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入力電圧 Vin=8Vの場合
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入力電圧 Vin=24Vの場合

上記結果より、入力電圧Vinが小さくなるとON時間は長くなり、Vinが大きくなるとON時間は短くなることがわかりました。

これについては、Duty Cycleの計算式がVout / Vin であることからご理解いただけると思います。

他にも出力Voutの設定を変更するなど、他の条件を変えながらシミュレーションをおこなってみると、電源の色々な動作について学んでいただけると思います。

出力過渡応答性について

出力過渡応答性とは、急激な負荷変動に対するレギュレーターの出力電圧の応答特性のことを指します。
つまり、レギュレーターの電圧が負荷によって降下または上昇した時に、設定値に戻るまでの時間や波形のことです。

レギュレーターの電圧変動が大きいと、後段回路に影響を与えますし(例えばFPGAコア電源等は高精度が要求されます)、設定値に戻るまでの時間が遅ければ、システム全体にも影響を及ぼしかねません。

過渡応答性の確認は、電源評価の中でも非常に重要なスペックになってきます。
ここでは、LTspiceを用いて確認する方法を紹介します。

出力過渡応答性の確認

SWノードの波形確認の際と同様に、ここでもLT8640を用いた回路で説明します。
仕様は、Vin=12V, Vout=5V, fsw=2MHzとします。

出力過渡応答の確認時、負荷は抵抗器でも電流源でもシミュレーションが可能です。
電流負荷のパルス機能を用いた方がシミュレーションが簡単なので、ここでは電流源を用いた方法を紹介します。

それでは、下記手順でシミュレーションをおこなっていきます。


1. Rloadを電流源に変更します。画面上部のツールバーより"component"を選択。

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負荷を電流源に変更 1

2. Select Component Symbol が表示される。 "load2"と入力。

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負荷を電流源に変更 2

OKボタンで負荷のあった位置に挿入します。

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負荷を電流源に変更 3

3. 電流源の上で右クリックします。Current Source - I1 が表示されるので、"Advanced"を選択します。

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電流源の設定 1

Independent Current Source - I1 が表示されるので、PULSEを選択し、I1[A]-Ton[s] 項目に下記の値を入力してください。

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電流源の設定 2

4. 最後にシミュレーションの実行時間を変更します。


上記で設定したパルス電流は1.5msで現れるので、「.tran 1m startup」のままではパルス電流が現れる前にシミュレーションが終了してしまいます。

変更方法は、「.tran 1m startup」のコマンド上で右クリック、Edit Simulation Command上でStop timeを"2.5m"に変更します。
※ここで、m(ミリ)を忘れずに入れるようにしてください。

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シミュレーション実行時間の変更

5. 上記手順がすべて完了したら、Runボタンを押しシミュレーションを実行します。


シミュレーション終了後、OUT端子と電流源を左クリックします。

2つの波形を確認できたら、過渡応答部分をズームし、Autorangeをクリックします。
※Autorangeボタンについては、過去記事を参照ください。

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出力過渡応答シミュレーションの実行

Autorangeで拡大後、最大, 最小値を読み取り、p-p値を算出します。

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Autorangeで過渡応答部分を拡大

アプリケーションやシステムによって精度の要求は異なるかと思います。 マウスホールド操作やカーソル追加(attached cursors)を使い、正確な値を確認してみてください。

出力過渡応答特性は、一般的に位相補償回路や出力コンデンサーに依存します。それらの定数によって結果が異なることのに注意が必要で、十分検討してからレギュレーターの回路を決定することをお勧めします。

本記事で紹介したようにシミュレーションで簡単に確認することができるので、回路条件を変更しながら、システム毎に最適な出力過渡応答性を得ることが重要です。

最後に

過去2回分の記事と合わせて、DC/DCコンバーターの評価項目について4つ紹介しました。
降圧コンバーターのLT8640を例に、各機能を紹介させて頂きました。 これらは、昇圧や昇降圧のレギュレーターにも応用できます。

また、ツールバー(GUIボタン)やコマンド操作については、その他アンプやフィルター回路などでも同様に使えます。
色々な回路のシミュレーションに応用して使ってみてください。

また、初心者向けのLTspiceセミナーも定期的に実施しています。LTspiceの基本操作を習得できますので、ご参加をお待ちしています。

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