こんな方におすすめの記事です

  • 溶解工程炉前作業の自動化を検討・導入されている方
  • 工場の防災に興味がある方
  • ノロの影響による品質改善を検討されている方

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はじめに

こんにちは。センサーソリューションクリエーターの浅見です。
マクニカでは赤外線カメラなどを利用したサーマル計測システムの提案を行っています。
鋳造溶解工程のノロ取り作業を自動化するために、ノロの可視化に取り組み、働き方改革を実現した例を共有します。

労災撲滅!炉前作業をご安全に

鋳造の溶解工程では溶解炉の前でする「炉前作業」があります。
炉前作業は体に影響のある粉塵が舞い、1000℃を超える溶けた金属のすぐそばで
測温、成分調整、サンプル採取、ノロ取りなどの作業を行う大変危険な作業です。
その中でも「ノロ取り」は、数十kgのノロを人力で除去する重労働。
ノロが取れていなければ鋳物の品質に対する影響も大きく、数百万~数千万円の損害につながるケースもあります。安全面においても粉塵の吸入による健康障害や労災につながる事故もあり、最悪の場合、溶解炉へ転落してしまう死亡事故も発生しています。

このノロ取り作業を安全に安定的に行いたいと悩んでいませんか?

安全にノロ取り作業を行うためには、ノロ除去装置を使い自動的にもしくは遠隔操作で除去することが考えられますが、安定してノロ除去するためにはノロの量・場所を把握するためにセンサーを活用することが重要なポイントです。

センサーを探してみよう

ノロの量・場所を把握するセンサーには何を使えば良いでしょうか?
一般的に考えられるのは入手性も良く比較的安価な可視カメラを使うことです。
私たちも実際に可視カメラで溶解炉のノロが見えるか試してみました。
その結果は図1の通りです。

図1:可視カメラ取得結果
図1:可視カメラ取得結果

左側と右側は同じ炉内の数秒差の写真を比較した写真です。左側はノロが見えていますが、右側は見えていません。つまり、タイミングによってノロが見える場合と見えない場合があります。

なぜこのようになってしまうのでしょうか。それは溶解炉からヒュームが出ているためです。
可視カメラでは溶解炉から出るヒュームに邪魔され溶湯上のノロが見えない場合があります。
目で見て、湯気の向こうが見えないのと同じです。

ノロはこうして見る!

残念ながら可視カメラでは安定してノロを可視化することができなさそうです。
そこでマクニカは赤外線カメラを使いました。
その結果は図2の通りです。わかりやすくするため、可視像と赤外像を並べて表示しますね。


図2:可視カメラと赤外線カメラ(ノロ検知カメラ)比較画像
図2:可視カメラと赤外線カメラ(ノロ検知カメラ)比較画像

 
 

可視カメラと赤外線カメラを同時に使用し画像を取得したものですが、赤外線カメラでは可視カメラで見えないノロが見えていることがわかります。

なぜ赤外線カメラではヒュームの影響を受けないのでしょうか。

赤外線カメラは物質の赤外線放射エネルギーをセンシングするセンサーです。
赤外線放射エネルギーがヒュームの間を通り抜けセンシングできるので、ノロを可視化できています。
しかし、「前に赤外線カメラを試してみたけど上手くいかなかった」という方もいるのではないでしょうか?

それは赤外線カメラのスペックの影響です。

高温の鉄の温度を測定するための赤外線カメラがあるのですが、それではヒュームの影響を受けてしまうのです。
赤外線カメラには測定波長のスペックがあり、ヒュームの影響を受けない波長帯の赤外線カメラを選ぶ必要があります。
ヒュームの影響を受けず溶解炉の中が見えたとしても、赤外線カメラは温度(赤外線放射エネルギー)をセンシングするカメラです。

「溶けた金属」と「ノロ」はほとんど同じ温度になるのでは? と思う方もいると思います。

実はその通りで、温度はほとんど同じです。
しかし、物体には放射率という赤外線エネルギーをどの程度放射するかという尺度があります。
溶けた金属は放射率が低く、ノロは固体で黒ずんでおり錆びた金属のような表面となっており放射率が高くなります。
(固体の金属でも磨かれたアルミのようなものだと放射率は低いです。黒ずんだり錆びたりした表面の金属だと放射率は高くなります)

そのため、温度に差が出て見えるのです。
温度バー付きの赤外像は図3に示します。

 


図3:赤外線画像

 

白い部分がノロで溶湯に比べ温度が高くなっているのがわかります。
注意点として、このソリューションでは溶湯の正確な温度を測定することを目的としてないため、表示されている温度は実際の溶湯温度とは異なう温度が表示されています。
実際は1400℃程度と想定されます。溶湯の温度を正確に測定したい場合は、合わせて放射温度計を使用してとることになります。

ノロを可視化できたら次にノロの量を数値化し、ノロ除去を完了して良いか判定していく必要があります。
その方法は次回のテックブログにてお伝えします。

この記事でわかったこと

  • 溶解工程炉前作業の自動化はノロを可視化するのがポイント
  • 可視カメラでは溶解炉から出るヒュームの影響でノロが見えない場合がある

  • 赤外線カメラはヒュームの影響を受けずにノロを可視化できる