IGBTモジュール vs フルSiCパワーモジュール

大電流を扱うパワーモジュールにはSiのIGBTとFRD(ファースト リカバリ ダイオード)を組み合わせたIGBTモジュールが広く用いられていますが、ローム社では世界に先駆けて、SiC-MOSFETとSiC-SBDを搭載したフルSiCパワーモジュールの販売を開始しています。

フルSiCパワーモジュールは、SiのIGBTモジュールと比較して、

1. スイッチング損失を大幅に低減できる
2. スイッチング周波数が高いほど全体損失の低減が顕著になる

といった2つの大きなメリットがあります。

特に、IGBTのテイル電流とFRDのリカバリ電流に起因して生じていた大きなスイッチング損失は、フルSiCモジュールによって大幅に削減されるようになりました。

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2つのメリット

では、SiのIGBTモジュールと比較してフルSiCモジュールを使うと、どのくらいのメリットがあるか具体的に紹介します。

1.スイッチング損失を大幅に低減できる

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図は1200V/300Aのローム社製フルSiCパワーモジュール (BSM300D12P2E001) と、同等のIGBTを比較したものです。

データシート規格値による比較ですが、スイッチング損失に影響を与える3つのパラメータを示しています。

  • Eon:スイッチングオン時の損失(逆回復損失含む)
  • Eoff:スイッチオフ時の損失
  • Err:リカバリ損失(ボディダイオードの逆回復損失)


図から分かるように、Eon、Eoffともに大幅に小さく、Errに至ってはIrrがほとんど流れないのでごくわずかであることが分かります。

結果、合計でスイッチング損失が77%低減されていることが分かります。

2.スイッチング周波数が高いほど全体損失の低減が顕著になる

フルSiCモジュールは、IGBTモジュールに比べて、高速なスイッチングが可能です。図はPWMインバータを想定した損失シミュレーションスイッチング周波数が5kHzと30kHz時のスイッチング損失と導通損失の合計を示しています。

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IGBTとフルSiCの損失比較

IGBTモジュールとの比較において、5kHzでは全体損失を約22%低減できています。橙色の部分がスイッチング損失を示しており、低減された損失のほとんどはスイッチング損失です。

30kHzの条件では、まずIGBTのスイッチング損失が大幅に増加しています。これは、IGBTの高速スイッチングに対する課題であることはよく知られています。フルSiCパワーモジュールのスイッチング損失も増加していますが、その割合はIGBTモジュールの比ではありません。結果として、30kHzの条件では合計損失を約60%低減可能であることがわかります。

結果、高効率化を図りながら小型化が可能になる

スイッチング損失が低減することで、効率が向上し発熱が下がります。これによって、冷却器を簡素にすることが可能です。例えば、ヒートシンクの小型化、水冷や強制空冷を自然空冷にすることができます。これらは、システム全体の小型化とコスト削減につながります。

高速スイッチングによる動作周波数の高周波化は、リアクトルやコンデンサといった周辺部品の小型化に寄与します。これは、通常のスイッチング電源回路と同じです。また、SiC-SBDは短パルス逆回復現象が発生しないので、短パルス時の異常サージ電圧を気にすることなくPWM制御ができます。

インバータや電源の高効率化を図りながら小型化が可能になる点は、フルSiCパワーモジュールの大きなメリットです。

更にスイッチング損失を低減、第三世代SiCトレンチMOSFET

ローム社では、業界に先駆けてトレンチ構造のSiC-MOSFETを量産しました。SiCパワーモジュールも既にこのトレンチ構造MOSFETを採用しており、従来のSiCパワーモジュールに対しても、さらにスイッチング損失を低減しています。
図は、1200V/180A、同等製品のスイッチング損失を比較したものを示してみます。

  • IGBTモジュール
  • 第二世代DMOS構造SiC-MOSFETを使ったフルSiCパワーモジュールBSM180D12P2C101
  • 第三世代トレンチ構造MOSFETを使用したBSM180D12P3C007


スイッチング損失はデータシートの規格値ベースで比較した結果です。

IGBTに対して第二世代ではスイッチング損失を約60%低減、そして第三世代は第二世代から約42%の低減を実現しており、IGBTに対しては約77%のスイッチング損失低減が図られています。

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スイッチング損失比較

アプリケーション例

  • 産業機器のパワーインバータ
  • 太陽光発電のパワーコンディショナー
  • モータドライブ
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アプリケーション例

最後に

フルSiCパワーモジュールは、IGBTモジュールに対して大幅にスイッチング損失を低減できスイッチング周波数が高くなるほど、IGBTモジュールとの損失差はさらに大きくなります。フルSiCパワーモジュールは損失も大幅に低減しつつ高速スイッチングを可能にします。

フルSiCパワーモジュールは今後も大容量化に向けて更に進化し続けます。


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