『電源の精度って何?(前編)』では、一例として EN5311 の出力精度が Cyclone® V FPGA のコア電源 1.1V±30mV に収まるかどうか確認しました。結果的には駄目でしたが、EN53 シリーズは ±5% の電源ラインで使用できることがわかりました。
今回は EN53 シリーズでは実現できなかった ±30mV 精度向けの Enpirion® のラインナップの紹介と、実際にそれらがコアやトランシーバ電源としての要求精度を満たすかどうか確認していきます。
何を使えばいいの?
Enpirion® EN63 シリーズであれば、±30mV の精度を満たすことが出来ます。EN63 シリーズは EN6310 1A 品/EN6337 3A 品 /EN6362 6A 品 /EN6360 8A 品 / EN63A0 12A 品から選択することが可能です。これらのデバイスは Cyclone® V FPGA/Arria® V FPGA/Arria® 10 FPGA で既に実績があります。
今回は、EN6337 を例に詳細を見ていきます。

上図は Cyclone® V FPGA のピン接続ガイドライン の抜粋です。各電源ラインに必要な電圧は Voltage Level (V) 欄に記載されています。さらにそこに必要な精度は、Supply Tolerance 欄に書かれています。まずは Cyclone® V FPGA の VCC(コア電源)の要求精度が 1.1V±30mV なので、それを順を追って以下にポイントを追記していきたいと思います。まずは、1.1V で精度が ±30mV でしたね。
他のデバイスのピン接続ガイドラインはこちら
デバイス・ピン接続ガイドライン

FPGA の要求精度がわかったので、次に電源 IC の出力がこの規定値内に収まるかどうか確認します。
電源 IC の精度ってどうやって確認するの?
EN6337 のデータシートを確認してみると、以下の表が記載されています。
NOTE: VIN=6.6V, Minimum and Maximum values are over operating ambient temperature range unless otherwise noted. Typical values are at TA = 25°C.
PARAMETER | SYMBOL | TEST CONDITIONS | MIN | TYP | MAX | UNITS |
Feedback Pin Voltage | Vfb | Vin = 5V, ILOAD = 0, Ta = 25℃ | 0.7425 | 0.75 | 0.7575 | V |
VFB Pin Voltage (Load and Temperature) |
Vfb | 0A ≤ Iload ≤ 3A Starting Date Code: X501 or higher |
0.739 | 0.75 | 0.761 | V |
Feedback Pin Voltage (Line, Load, Temperature) |
Vfb | 2.5V ≤ Vin ≤ 6.6V 0A ≤ Iload ≤ 3A |
0.735 | 0.75 | 0.765 | V |
EN6337 は Vfb mode のみのサポートで、Test Condition 別にデバイスの精度について記載されています。その違いは以下になります。
±1.0% 精度の場合 : Vin = 5V/ Ta = 25° / Iload = 0A
±1.5% 精度の場合 : Vin = 6.6V/ -40° < Ta < 80° / 0A < Iload < 3A / date code X501 以降
± 2.0% 精度の場合 : 2.5V < Vin < 6.6 /-40° < Ta < 80° / 0A < Iload < 3A
Ta はデバイスの周囲温度で、Iload は出力電流です。見るとわかる通り、±1% 精度の場合は、Test Condition がかなり限定的です。実機での動作を考えると Test Condition が -40℃ < Ta < 80℃ / 0A < Iload < 3A の場合で検討した方が現実的です。±1.5% 精度の場合は条件がありますが、温度範囲/出力電流範囲も現実的です。入力電圧とデート・コードの制限がありますが、これが厳しい場合は、±2% 精度で検討してください。以上を注意したうえで、精度の検討をお願いします。
他にも検討しなければならない要素がありますが、最も手ごろな ±2% 精度で検討した場合のイメージを図示すると以下のようになります。

DCDCコンバータが出力電圧を設定する時の場合は後述しますが、フィードバックに配置する抵抗Ra / Rbの値で決定します。導出は以下の式で行います。
[式1] Vout = 0.75 * ( 1 + Ra/Rb)
Raは 200kΩ 固定なので1.1V を作るためには Rbを 428.5714kΩ にしなければなりません。この値の抵抗は現実的には存在しませんので、シンプルに 430kΩに変更してみます。するとVout は1.0988Vとなります。
また、電源として要求されている±30mVも値が変わっています。FPGA としてはmin1.07V – max1.13V の間に入力電圧が収まっていれば問題ありません。よって、DCDC コンバータの出力電圧が1.0988Vとなるのであれば、min/max の余裕分も、それぞれ変動(+側:31.2mV/-側:28.8mV)します。イメージは下図になります。

フィードバック抵抗も精度に関係あるの?
もちろん、フィードバック抵抗の精度も関係します。イメージとしては下図の赤枠で囲んだ部分が Ra / Rb です。今回は、Ra = 200kΩ / Rb= 430kΩ としています。

Ra / Rb の精度も検討しなければならない理由について説明します。データシートを確認すると Vout は以下のように定義されています。
[式1] Vout = 0.75 * ( 1 + Ra/Rb)
Ra , Rb がそれぞれ ±0.1% 精度だった場合、前述の式はどうなるでしょうか?+0.1% と -0.1% でそれぞれ考えるので、Vout Max / Vout Min の 2 式が必要になります。
[式2] Vout MAX = 0.75 * { 1 + (Ra*1.001)/(Rb*0.999) }
[式3] Vout MIN = 0.75 * { 1 + (Ra*0.999)/(Rb*1.001) }
Ra / Rb の精度が Vout に十二分に関わることがわかりました。ちなみに、式中にある 0.75 は Vfb のことを指します。先ほどの表にあるように Vfb が ±2% の精度なので、トータルの精度は以下の式で算出できます。
[式4] Vout MAX = 0.75 * 1.02*{ 1 + (Ra*1.001)/(Rb*0.999) }
[式5] Vout MIN = 0.75 * 0.98*{ 1 + (Ra*0.999)/(Rb*1.001) }
以上から、Vfb mode の場合は精度としてフィードバック抵抗と Vfb を検討すれよいかがわかりました。イメージを以下にまとめておきます。

なお、フィードバック抵抗分の電圧をどうやって求めたか補足します。求め方としてはVfb の精度と抵抗の精度を考慮した [式4] と [式5] から抵抗の精度を考慮していない(Vfb の精度のみを考慮した電圧)[式6] と [式7] を減算すれば算出できます。
[式6] Vout MAX = 0.75 * 1.02*( 1 +Ra/Rb )
[式7] Vout MIN = 0.75 * 0.98*( 1 +Ra/Rb )
Vout_MAX 側のフィードバック抵抗分の電圧は [式4] – [式6] 、Vout_MIN 側のフィードバック抵抗分の電圧は [式7] – [式5] で、値を求めることができます。
他に何を考慮すればいいの?
リップルについても考えておく必要があります。これはデータシートに記載されているものを参考にしてください。

リップルを考慮すると、最終的には以下のようなイメージになります。

EN6337 は FPGA が要求する±30mV の制度に対応することがわかりました。結構ギリギリなのでは?っと思った方も多いと思います。実際は電源ピン直近にキャパシタ(コンデンサ)を配置しますので、リップルは軽減されます。よって、精度としてはもう少し余裕があります。現に、弊社でもこの EN63 シリーズで Cyclone® V FPGA / Arria® V FPGA / Arria® 10 FPGA 等の電源として実績があるので、安心して使用できると思います。
いかがでしたか?
FPGA に必要な電源精度はピン接続ガイドラインから確認ができることがわかり、精度別に EN53** / EN63** が対応していることがわかりました。また、その根拠も確認できたと思います。
以上を参考に、FPGA の電源設計時に電源精度がFPGA の要求精度を満足していることを確認して、デバイス選定をしてください。
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