フィルタにパルス波形を通す場合の特性については以下に述べました。
ベッセルフィルターと他のフィルターの違い 1
ベッセルフィルターと他のフィルターの違い 2
フィルターは、周波数軸上の演算なので、時間応答を求めるには、周波数特性を求めて、フーリエ逆変換します。
フーリエ変換については、以下に述べているので参照してください。
ラプラス変換とフーリエ変換
エクセルによるFFT
エクセルによるFFT(その2)
パルス波形の応答は、
分布定数線路の縦続行列と波形解析
分布定数回路の周波数応答
図1に、分布定数回路の周波数応答の式を示します。

遠端の電圧V2を求めるには、縦続行列を使うのが便利です。
同図の式(1)が縦続行列を用いた遠端の電圧V2です。
縦続行列を式(2)に示します。参考文献(1)
通常のCMOSは、遠端が開放なので、R2=∞で、これを式(2)に代入すると、式(3)のように簡単な式になります。
図2の信号源V0の最も簡単なものは、図2に示す台形波です。

この台形波の周波数関数は、オーソドックスには、図2の式(4)のように、立ち上がり部、平坦部、立ち下がり部に分けてフーリエ変換することによって求めます。
右辺の第1項と第3項は、部分積分を用いて計算しますが、思ったより煩雑で、たぶんA4の計算用紙2枚程度の計算量となり、ちょっと煩雑です。
実は、ラプラス変換とフーリエ変換とは積分の形が似ています。ラプラス変換は、その都度積分をするのではなく、公式を用いるので、比較的簡単に計算できます。ラプラス変換した後、s=jωとおいて、積分区間で割れば、フーリエ変換が得られます。
フーリエ変換とラプラス変換とは、本質的には違います。
数学的に解説すると、いろいろ面倒なことが出てきますが、回路屋という立場だと、両者は親戚みたいなものだと言っても問題ないと思います。
数学の専門家の方からは叱られそうですが。
図2の台形波のラプラス変換は、図3の式(5)に示すように、1行で表されるほど簡単に求められます。

この式(5)は、ランプ波形(1/s^2)の時間遅れの加減算です。
ラプラス変換の結果に、式(6)のように、s=jωとおいて、積分区間Tで割ると簡単に周波数関数を求めることができます。当然、式(4)と式(6)とは同じです。
分布定数回路の時間(ステップ)応答
図1のV0を、図3のF(ω)とすると、遠端の電圧V2は、図4の式(7)となります。

式(7)はωの関数であり、フーリエ逆変換することによって、時間関数v2(t)が得られます。
以上は、周波数解析して、フーリエ逆変換することによって時間応答を求めるものです。次に、

図5の式(8)は、反射の繰り返しにより遠端の電圧を求める基本式です。参考文献(2)
CMOS伝送の場合は、R2=∞なので、r2=1となり、式(9)のように、やや簡単になります。
図6は、図5の式(9)のv0(t)が振幅1のステップ波形の場合を示します。

R1=22Ω、Z0=50Ωとして、線路の遅延時間τを1nsとします。
τ(1ns)遅れて、最初の2Z0/(R1+Z0)の振幅が現れ、さらに2τ、すなわち、3τ遅れて近端の反射係数r1(=-0.389)を掛けた振幅、次に5τ、7τ、...(2n+1)τとそれぞれτの奇数倍遅れた波形となります。
図7は、図6のτの奇数倍遅れた波形を加え合わせたものです。これが遠端の電圧V2となります。

以上のステップ応答は、反射の仕組みを理解するのに役立ちますが、実際の波形は傾きを持ちます。
ランプ波形による重ね合わせ
ステップ応答ではなくて、有限の傾きを持った波形(ランプ波形)で同様に解析します。
図8は、図6と同様のランプ波形です。

図9は、図7と同様に、図8のτの奇数倍遅れの波形を加え合わせたものです。

少し実際の波形に近づきました。
ステップ波形+ベッセルフィルターの波形
次に、本稿の目的である、ステップ波形をベッセルフィルターに通して得られた波形を信号源とします。
以下を参照ください。
ベッセルフィルターと他のフィルターの違い その2
この稿の図11は、ベッセルフィルターにステップ波形をを通したときの波形です。
同図は7次低域通過型フィルターLPF(LPF : Low-Pass Filter)ですが、次数が3でもほぼ滑らかな立ち上がり部が得られます。
フィルターの次数の違いによる立ち上がり部の波形については、同じく図12(a)~(c)を参照ください。
これらは、遮断(カット・オフ)周波数fcを1に正規化しています。
図10の式(10)は3次ベッセルフィルターの伝達関数F(s)です。

このフィルターに、ステップ波形を加えたときの、0%-100%の立ち上がり時間trとfcとの積は、3次ベッセルLPFの場合、式(11)に示すように、fc×tr=0.3897となるので、tr=0.5nsとするなら、fc=0.3897/0.5ns=779MHzとなり、3次ベッセルの場合は、f0=fc/1.756=444MHzとなります。
LPFを通すと、遅延が生じます。
ベッセルフィルターの遅延は、ほぼ群遅延で、1/ω0です。
3次ベッセルの場合、1/ω0は、式(12)に示すように、0.385nsです。
7次ベッセルの伝達関数は式(13)です。
3次と同様に、fcとf0を式(14)に示します。
群遅延は、式(15)に示すように1/ω0=0.216nsとなります。
これらの遅延は、ベッセルを通した際に生じるので、時刻 t=0で立ち上がるようにするには、この遅延分を考慮する必要があります。
時間応答(ラプラス逆変換)
ベッセルLPFのステップ応答は、伝達関数にステップ波形の1/sを掛けてラプスラ逆変換をします。
図11の式(16)は、ベッセル3次LPFにステップ波形を加えたものです。

同式の右辺は、分母を1次式と2次式の積に因数分解したもので、この右辺の分子の因子の係数は、式(17)のようになります。
式(16)のラプラス逆変換を求めるには、式(18)のように部分分数展開します。
同式の右辺の第3項の分子は、単に、Cs+Dでもよいのですが、ラプラス逆変換しやすいように同式のようにCとDに係数を掛けておきます。参考文献(3)
式(18)の未知の係数、A~Dは、同式の分母を払って、sに関する恒等式に変換して、sのべき乗ごとの係数を右辺と左辺で比較します。
右辺は、定数項のみなので、左辺のsのべき乗の係数は全て0(ゼロ)となります。
式(20)は、これらを連立方程式としたもので、これを解いて、A~Dを求め、ラプラス変換します。
図12の式(21)、(22)は、式(18)の右辺第3項のラプラス逆変換で、コサインとサインに変換されます。いずれも指数の減衰項を含みます。参考文献(3)

式(23)は、ラプラス逆変換した結果です。
図13(a)は、式(23)の立ち上がり部を示したものです。

立ち上がりの20%と80%の点を直線で結んだランプ波形を同時に示します。
これらは、3次ベッセルLPFの場合ですが、例えば、7次LPFに関しても、やや煩雑ですが、同様に求めることができます。
式(16)に対応する7次は、分母が1次と2次×3に因数分解できます。
式(20)と同様に、連立方程式を立てて、未知の係数を求めます。
その結果を図13(b)に示します。3次に比べて、20%-80%の部分が直線に近いことが分かります。

図13(b)の波形を元に、反射波形を計算して、図6や図8と同様に、図14のように、各タイミングの波形を求めます。

図15は、図14の波形を時間軸で重ねたもので、実際の反射波形に近い波形を得ることができました。

これは、IBISのWaveformデータを用いた解析手法と同様です。
以下を参照ください。
IBIS モデルを用いた反射の解析~その2
参考文献
(1)碓井有三 : "ボード設計者のための分布定数回路のすべて 第3版"自費出版、2016 (http://radioy.a.la9.jp/book/book.htm)、pp.156-158
(2)同書、pp.20-43
(3)同書、p.232
碓井有三のスペシャリストコラムとは?
基礎の基礎といったレベルから入って、いまさら聞けないようなテーマや初心者向けのテーマ、さらには少し高級なレベルまでを含め、できる限り分かりやすく噛み砕いて述べている連載コラムです。
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