ラプラス変換もフーリエ変換も言葉は聞いたことがあると思います。両者の関係や回路解析への応用について、何回かに分けて触れていきます。

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図1フーリエ変換とラプラス変換

図1 はラプラス変換とフーリエ変換の式です。ラプラス変換とフーリエ変換の積分の形は非常に似ています。前者は微分演算子の一つで、過渡現象を解く場合に用います。後者は、直交変換に属して、時間信号の周波数応答を求めるのに用います。シグナルインテグリティの分野では、過渡現象を解くことが多いので、ラプラス変換が向いています。

インダクタやキャパシタを含む回路の動作を解くには、微分方程式を解く必要があります。ラプラス変換は、時間微分の d/dt の代わりに、演算子の「s」をかけるだけです。同様に積分は「s」で割ります。したがって、微分方程式にラプラス変換を適用すると、算術方程式になります。ラプラス変換は、いくつかの(多くても 10個程度)の基本的な変換ルールを参照するだけで、過渡的な現象を解くことができます。ラプラス変換は、過渡現象を解くための不可欠な基本的なツールです。

フーリエ変換は、ある周期を想定すれば、図1 の積分を手計算することも可能です。また、後述のように、ラプラス変換を用いると、さらに簡単にできます。フーリエ逆変換の積分は、煩雑になります。ここで用いるのが、FFT (Fast Fourier Transform) です。エクセルには FFT が組み込まれています。

ラプラス変換とフーリエ変換の長所と短所

ラプラス変換の長所と短所

長所 : 変換の公式を用いれば、簡単に変換、逆変換ができる
短所 : 公式に当てはまらないと変換できない→公式に当てはめる工夫が必要

フーリエ変換の長所と短所

長所 : FFT を用いることにより簡単に数値計算ができる
短所 : 周期関数が必須→周期を設定すればよいので致命的ではない

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図2ラプラス変換の公式

図2 にラプラス変換の公式を示します。シグナルインテグリティでは、これだけで十分です。

ラプラス変換とフーリエ変換の連携

数学的には別のものですが、回路技術を解くにはそれほど厳密に考える必要はありません。両者は 図1 のように積分の形が似ているので、ラプラス変換の「s」を「jω」と置き換えるとフーリエ変換になると考えても問題ありません。

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図3パルス波形
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図4フーリエ変換

図3 のパルス波形のフーリエ変換を 図4 のように試みます。

まず、(1) の直接フーリエ変換を行うと、赤枠線で囲んだ積分が必要になります。これは、部分積分により可能ですが、かなり煩雑です。興味がある方は、計算の経過をご覧ください。

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パルス波形のフーリエ変換

一方、(2) のようにラプラス変換して、「s」を「jω」と置き換え、周期 T で割ると、図4 のように簡単にフーリエ変換できます。

最初の因子は、パルス幅 TW と周期Tとのデューティ比、第二因子は、パルス幅によるスペクトル、第三因子は、立ち上がりによるスペクトルで、最後の因子は、図3 のパルスの立ち上がりを時刻 0 に設定するための時間遅れ成分です。この最後の因子がない場合、時刻 0 は、図3 の t=tr と t=TW の中間点になります。この時間遅れは、図2 のラプラス変換の公式の f(t-a) と同じです。

今回は、パルス波形のフーリエ変換を例にあげましたが、このパルス波形は、回路の応答を求めるための信号源として用います。

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