反射抑制方法

反射抑制の方法を問われれば、ほとんどの人がダンピング抵抗と答えます。ダンピング抵抗はそれほど一般的ですが、その抵抗値をいい加減に決めている方が多いのも事実です。本コラムの読者の方々は、そんなことはなく、『ダンピング抵抗の値ってどのように決めるの』および『もっと簡単に決めるダンピング抵抗の値』に述べているように、きちんと決めていると思います。

ただし、ダンピング抵抗が一般的になったのは、それほどの昔からではありません。

TTL と CMOS

現在は、ほとんどの IC が CMOS ですが、CMOS の前は、TTL がその中心でした。CMOS は Complementary(相補型)MOS の略で、p チャネル MOS と n チャネル MOS が相補的に働き、出力特性はほぼ線型で近似出来るので、出力に抵抗を付加することによって、出力の駆動能力を容易に変えることが出来ます。この付加する抵抗をダンピング抵抗と呼びます。

TTL IC は、パイポーラプロセスで、図1 に示すように、出力特性が非線型で、しかもハイとローとの特性が大きく異なるので、ハイとローの両者の特性を同時に補正するようなダンピング抵抗は存在しません。

Article header 125557 sc49 fig1  1
図1 TTLの入出力の静特性

TTL の波形解析

図2 は、遠端開放のTTL の波形をバージェロン解析したもので、図3 はその時間応答です。

Article header 125557 sc49 fig2  1
図2 TTL のBergeron 解析(遠端開放)

TTL 時代は、プリント配線板の特性インピーダンスは、通常、80 Ω 程度でした。これは、立ち上がりの振幅を確保するためで、50 Ω の場合には、最初の立ち上がりの電圧が低くなるからです。

Article header 125557 sc49 fig3  1
図3 TTLの時間応答

図3 の立ち下がりの遠端波形は、-2.6 V 程度の負のオーバシュート(脚注1)と、その跳ね返りが 0.7 V 程度生じます。このように、立ち上がりと立ち下がりとで波形の対称性が悪く、今にしてみると、CMOS に比べて使いづらい素子でした。

クランプダイオード

遠端開放の波形は、上述のように、特に立ち下がりの負のオーバシュートとその跳ね返りに問題があります。ただ、実際には、TTL の負荷が接続され、TTL の入力には、図4 に示すようなクランプダイオードが入っているのでそれほど大きな負のオーバシュートとはなりません。

Article header 125557 sc49 fig4  1
図4 クランプダイオード

図5 は、クランプ・ダイオードが存在するときのバージェロン解析したもので、図6 はその時間応答です。負のオーバシュートが少なくなり、跳ね返りもなくなりました。

Article header 125557 sc49 fig5  1
図5 クランプダイオードが存在するときのBergeron解析
Article header 125557 sc49 fig6  1
図6 クランプダイオードが存在するときの時間応答

クランプダイオードは、最遠端に配置する必要がありますが、図7(a) の BGA パッケージのように、最遠端への配置が難しい場合には、図7(b) のように、レシーバ入力から赤線で示すような延長配線を加えて、最遠端を新たに作り出してクランプダイオードを配置します。これは、『終端抵抗について~その3』の 図6 と同じ手法です。

Article header 125557 sc49 fig7  1
図7 クランプダイオードの延長配線

なお、TTL の第二世代とでもいうべき、ショットキー TTL(例えば、74S シリーズ)には、クランプダイオードにもショットキーバリアダイオード(SBD : Schottky Barrier Diode)(脚注2)を用いているので、PN 接合のクランプダイオードよりもよい効果が得られます。

CMOS への適用

クランプダイオードは、TTL 時代には、反射抑制の特効薬でしたが、CMOS でも、例えば、外部から購入したユニットのように、ダンピング抵抗を追加出来ない場合や、サイズの大きなパッケージで、ドライバの直近にダンピング抵抗を配置出来ない場合には効果的です。どうしても解決出来ない場合などに、反射対策の一つとして試してみて下さい。

静電気防止用ダイオードとの違い

ibis には、[Power Clamp] や [GND Clamp] という項目がありますが、これらは主に静電気対策用のダイオードで、ナノ秒(ns)のオーダでは動作しないので、クランプ・ダイオードとしての機能はありません。

脚注1
立ち下がり波形の、定常振幅より下に突き出した部分をアンダーシュート(undershoot)ということもありますが、アンダーシュートは、英語の本来の意味では、目標に到達出来ないことをいうので、ここでは、あえて負のオーバシュートといいます。



脚注2
金属と半導体との接合によるダイオードで、一般的な PN 接合のダイオードに比べて、順方向電圧が低く、スイッチング速度が速い特徴があります。ショットキー TTL は、トランジスタの飽和を防ぐために、SBD を用い、クランプ・ダイオードも SBD も用いています。SBD は、ロジック以外にも、その高速性を生かして、スイッチング電源にも用いられています。

碓井有三のスペシャリストコラムとは?

基礎の基礎といったレベルから入って、いまさら聞けないようなテーマや初心者向けのテーマ、さらには少し高級なレベルまでを含め、できる限り分かりやすく噛み砕いて述べている連載コラムです。

もしかしたら、他にも気になるテーマがあるかも知れませんよ!