設備の故障を未然に防ぐため、モーターやポンプ、ファン、ギアボックスなどの状態を常時監視する「状態基準保全 (Condition-Based Monitoring:CbM)」への注目が高まっています。状態基準保全では、温度や音、電流などさまざまな情報が利用されますが、中でも回転機器の状態を把握するうえで重要なのが「振動」です。
アナログ・デバイセズも、振動センシングを回転機器の潜在的な問題を監視・検出するための重要な測定手段と位置付けています。
状態基準保全向けソリューションの性能は、振動センサーで決まる | アナログ・デバイセズ
今回は、最大16kHzの広帯域を実現した3軸MEMS加速度センサー「ADXL383」を紹介します。
同シリーズのADXL382との違いや、なぜ故障予知に広帯域の加速度センサーが必要なのかについても解説します。
故障予知用の加速度センサーに「広帯域」が求められる理由
回転機器に異常が発生すると、正常時とは異なる振動が発生します。
例えば、ベアリングの損傷、軸のミスアライメント、アンバランス、機械的な緩みなどは、それぞれ異なる振動スペクトルとして現れます。そのため、加速度センサーで振動を取得し、周波数成分を解析することで、機械の状態や異常の兆候を把握することができます。
ここで重要になるセンサー性能の1つが「帯域」です。
ベアリングの初期故障は高周波成分として現れる
ベアリングに亀裂や傷などの欠陥が発生すると、転動体がその欠陥箇所を通過するたびに衝撃が発生します。
故障の初期段階では、この衝撃により比較的小振幅かつ高周波の振動成分が発生します。アナログ・デバイセズの技術資料では、ベアリング故障の初期兆候として5kHzを超える高周波成分が現れる場合があることが示されています。
最適な予防メンテナンス・センサーの選択 | Analog Devices
故障が進行すると低周波側の振動も大きくなり、より一般的な加速度センサーでも検出しやすくなりますが、その段階では既に故障が目前に迫っている可能性があります。
さらに、ベアリング欠陥によって発生するインパルスは高周波成分を含み、初期故障の兆候は数kHzから10kHz~20kHzを超える領域まで及ぶ場合があります。
つまり、故障そのものを検出するだけでなく、より早い段階で異常の兆候を捉えるためには、低ノイズかつ広帯域な加速度センサーが重要になります。
ギアの異常検知でも広帯域が重要
ギアの状態監視でも広帯域の振動測定が重要です。正常なギアでも、歯がかみ合うことで「ギア噛み合い周波数 (Gear Mesh Frequency)」と呼ばれる振動が発生します。ギア噛み合い周波数は、次の関係で表されます。
ギア噛み合い周波数 = シャフトの回転周波数 × ギアの歯数
そのため、シャフトの回転速度自体はそれほど高くなくても、歯数によって観測対象となる周波数は数kHzまで高くなる場合があります。さらに、歯のクラックなど局所的な故障が発生すると、短時間の衝撃によって低振幅かつ広帯域な振動が発生します。
アナログ・デバイセズも、ギア故障の検出では歯数が周波数領域で倍率として作用するため、広い測定帯域が非常に重要であると説明しています。
このように、ベアリングやギアなどの状態をより詳細に監視するためには、単に振動の大きさを測るだけでなく、高い周波数まで振動情報を取得できることが重要になります。
最大16kHzの広帯域3軸加速度センサー「ADXL383」
ここまで紹介したように、ベアリングやギアなどの状態をより詳細に監視するためには、高い周波数まで振動情報を取得できることが重要です。
そこで今回紹介するのが、アナログ・デバイセズの3軸MEMS加速度センサー「ADXL383」です。
ADXL383は、±15g、±30g、±60gの測定レンジに対応したデジタル出力の3軸MEMS加速度センサーです。最大の特徴は、高性能(HP)モードにおいて最大16kHzの広帯域に対応していることです。
また、高性能モードで520μA、超低消費電力モードで33μAの低消費電力を実現しています。SPI、I²Cに加えて、I²S、TDM、PDMといったオーディオ系のデータ出力インターフェースにも対応しています。
ADXL383の主なアプリケーション例として、状態基準保全、構造物モニタリング、地震イメージング、ロボティクス、オーディオ/アクティブ・ノイズ・キャンセレーション (ANC) などがあります。
ADXL382とADXL383を比較 - 何が変わった?
ADXL383の特徴をよりわかりやすくするため、同じADXL38xファミリーのADXL382とおもな仕様を比較します。
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項目 |
ADXL382 |
ADXL383 |
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軸数 |
3軸 |
3軸 |
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測定レンジ |
±15g / ±30g / ±60g |
±15g / ±30g / ±60g |
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内蔵ADC |
16ビット |
16ビット |
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最大帯域 |
8kHz |
16kHz |
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中帯域ノイズ密度 XY |
44μg/√Hz |
44μg/√Hz |
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中帯域ノイズ密度 Z |
55μg/√Hz |
55μg/√Hz |
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高性能モード消費電流 |
520μA |
520μA |
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超低消費電力モード消費電流 |
33μA |
33μA |
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SPI / I²C |
対応 |
対応 |
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I²S / TDM / PDM |
対応 |
対応 |
ADXL382とADXL383は、測定レンジや内蔵ADCの分解能、消費電流、各種デジタルインターフェースなど、多くの基本仕様が共通しています。
一方で、大きく異なるのが最大帯域です。ADXL382の最大帯域が8kHzであるのに対し、ADXL383では最大16kHzまで拡張されています。
先ほど紹介したように、ベアリングやギアなどの初期故障では高周波側に異常の兆候が現れる場合があります。そのため、ADXL383ではADXL382よりも高い周波数領域まで振動情報を取得でき、状態監視で解析可能な周波数範囲を広げることができます。
なお、帯域が8kHzから16kHzになったからといって、「故障検出性能が2倍になる」という意味ではありません。実際の故障検出性能は、対象機器の振動特性やセンサーの取り付け方法、ノイズ、解析手法などさまざまな条件に依存します。
ADXL383の大きなメリットは、これまで測定帯域外だった8kHz以上の振動情報も観測対象にできるようになったことにあります。
ADXL383はどうやって16kHzの広帯域を実現している?
ADXL383のもう1つの特徴が、デジタル信号処理を利用して広い周波数帯域を実現している点です。
デジタルEQによってセンサーの周波数特性を補正
MEMS加速度センサーには機械的な共振特性があるため、センサー素子そのものの周波数応答は完全に平坦ではありません。
ADXL383では、高性能 (HP) モードにおいて4次のデジタル・イコライザー (EQ) フィルターを使用できます。
このEQフィルターによってセンサーの周波数応答を補正し、測定帯域を最大16kHzまで拡張しています。EQフィルターは32kHzの出力データレート (ODR) 向けに最適化されています。
つまりADXL383では、MEMSセンサーから得られた信号にデジタル補正を加えることで、より高い周波数まで利用可能な周波数特性を実現しています。
ADXL383のデータシートでは、デジタル補正を使用した場合、15kHz未満の周波数範囲における相対的な平坦性として1.6dB(XY軸)、1.9dB(Z軸)とされています。
デジタルEQ適用前の周波数応答
デジタルEQ適用後の周波数応答
広帯域化とノイズのトレードオフ
一方で、「帯域が広ければ広いほどよい」というわけではありません。
ADXL383のデータシートでは、HPモードで信号帯域を16kHzまで拡張すると、高周波側のノイズ成分も信号帯域に含まれるため、帯域上端に近づくにつれてノイズ密度が増加することが示されています。ADXL383のノイズ密度は8kHz付近では44μg/√Hz(XY軸)、55μg/√Hz(Z軸)ですが、フル16kHz帯域では171μg/√Hz(XY軸)、208μg/√Hz(Z軸)となります。
そのため、実際のアプリケーションでは「とにかく16kHzまで使う」のではなく、観測したい故障周波数と必要なノイズ性能のバランスを考えることが重要です。
たとえば10kHz以下に必要な振動情報が集中している場合には、不要な高周波帯域を制限することでノイズを抑えるといった使い方も考えられます。ADXL383にはプログラマブルなLPF(ローパス・フィルター)およびHPF(ハイパス・フィルター)も内蔵されています。
ADXL383の帯域とノイズ密度の関係
実はオーディオ用途にも対応するADXL383
ここまで状態基準保全を中心に紹介してきましたが、ADXL383にはもう1つ興味深い特長があります。
ADXL383はSPIやI²Cだけでなく、I²S、TDM、PDMといったオーディオ系のデータ出力インターフェースに対応しています。
I²S、TDM、PDMは、デジタルオーディオ機器で広く使用されているデータインターフェースです。加速度センサーにこれらのインターフェースが搭載されていることに、少し違和感を覚える方もいるかもしれません。しかし、加速度センサーが測定しているのは物体の「機械的な振動」です。ADXL383のように十分な帯域と低ノイズ性能を備えた加速度センサーでは、機械設備の振動だけでなく、オーディオ帯域の機械振動を信号として取得することもできます。
さらに、I²S、TDM、PDMでデータを出力できるため、オーディオ信号処理に対応したMCUやDSP、SoCなどのデータパスへ取り込みやすく、取得した振動データをオーディオ信号と同様の信号処理系で扱うことができます。
アナログ・デバイセズはADXL383について、高振動環境下でもオーディオ信号や心音を高精度に測定できると説明しており、アプリケーション例としてオーディオやアクティブ・ノイズ・キャンセレーション (ANC) もあげています。
状態基準保全向けの広帯域加速度センサーとしてだけでなく、振動を利用したさまざまなセンシング用途に展開できる点もADXL383の特長と言えます。
アプリケーション例
ADXL383の16kHzという広帯域、3軸測定、低消費電力といった特長を活かし、次のようなアプリケーションへの適用が考えられます。
状態基準保全・予知保全
モーター、ベアリング、ギア、ポンプ、ファンなどの回転機器では、振動スペクトルを監視することで機械状態の変化を検出できます。
特に、より高い周波数まで観測する必要があるベアリングやギアなどの状態監視では、16kHzの広帯域が活かせます。
構造物モニタリング・ロボティクス
ADXL383は3軸で振動や加速度を取得できるため、設備や構造物の振動監視、ロボットの振動・衝撃センシングなどにも利用できます。
オーディオ・振動センシング
I²S、TDM、PDMに対応していることから、オーディオ信号やANC、心音など、一般的な加速度センサーとは少し異なる振動センシング用途にも利用できます。
評価ボードでADXL383をスピーディーに導入検討
さらに、ADXL383の検討をスムーズに進めるために、アナログ・デバイセズは評価ボード「EVAL-ADXL383」を用意しています。EVAL-ADXL383を活用して、最大16kHzの広帯域、低ノイズといったADXL383の特長を実機で素早く確認できます。ラインアップとして、SPIインターフェース評価向けの「EVAL-ADXL383-1Z」と、I²Cインターフェース評価向けの「EVAL-ADXL383-2Z」が用意されています。
まとめ
今回は、最大16kHzの広帯域に対応した3軸MEMS加速度センサー「ADXL383」について紹介しました。
状態基準保全では、機械が完全に故障してから異常を検出するのではなく、できるだけ早い段階で故障の兆候を捉えることが重要です。
ベアリングの初期故障やギアの異常では高周波成分が重要な情報となる場合があり、それらを取得するためには加速度センサーの帯域とノイズ性能が重要になります。
ADXL383は、ADXL382と共通する±15g/±30g/±60gの測定レンジや低消費電力、各種デジタル機能を備えながら、最大帯域を8kHzから16kHzへ拡張しています。さらにデジタルEQによる周波数特性補正や、SPI / I²Cに加えてI²S / TDM / PDMにも対応するなど、幅広い振動センシング用途に対応できる製品です。
機械の状態監視や予知保全において、より高い周波数まで振動を取得したい場合には、ADXL383は有力な選択肢の1つとなりますので、ぜひご検討ください。
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