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リニアレギュレーターの基礎 (1) ~ 出力電圧の設定と誤差 ~

この記事では、リニアレギュレーターや LDO の基礎的な内容について解説していきます。今回は、アナログ・デバイセズ社の ADP1715 のデータシートを参考に、一般的なリニアレギュレーターや LDO の出力電圧の設定と誤差について解説していきます。

 

※ この記事は、データシートのほかに Practical Power Solutions(英文) の Section1 の前半にある内容を含めた記事となります。

CMOS リニアレギュレーター ADP1715

ADP1715 は、入力電圧範囲が 2.5 ~ 5.5V で出力電流が 500mA 可能な COMS リニアレギュレーターです。CMOS リニアレギュレーターと言っているのは、内部のパワー素子として図1 の赤丸部分に CMOS を使っているからです。

 

CMOS を使った場合のメリットとしては、ドロップアウト電圧(入力電圧と出力電圧の差)を小さい電圧にすることができる点や GND に流れるバイアス(自己消費)電流を小さくした製品を開発しお客様に提供できる点にあります。

 

CMOS を使った際の小さなドロップアウト電圧やバイアス電流と言うメリットについては、次回以降の記事で詳しく解説したいと思います。

図1:ADP1715ブロック図
図1:ADP1715ブロック図

出力電圧設定

レギュレーターの電圧設定は、2つの分圧抵抗で設定する場合が一般的です。他には、全ての抵抗が内蔵していて固定出力タイプの製品、一つの抵抗のみ外付けて設定や内部のレジスタで設定する製品などがあります。

 

ADP1715 は、抵抗が内蔵していて出力固定の製品と 2つの外付け抵抗で出力調整ができる製品があります。

 

出力設定抵抗が内蔵が良いのか、外付けを選択すべきなのかは、出力電圧誤差の説明をした後に解説します。

図2:出力固定と出力調整タイプ
図2:出力固定と出力調整タイプ

出力電圧設定方法

図2 の出力調整タイプの分圧抵抗 R1 と R2 により、出力電圧設定をおこないます。

 

データシートに「ADJ ピンへの最大バイアス電流は 100nA であるため、バイアス電流による誤差を 0.5% 未満に抑えるには、R2 に 60kΩ 未満の値を使用すること。」と記載がありますので、R2 に 60kΩ 未満の抵抗値を選択します。

 

このように、データシートに選定する抵抗値の値についてコメントがあることがあるので注意が必要です。また、注意が無い場合でも、抵抗値はデータシートやアプリケーションノートの参照回路の値と同じ桁数の抵抗値を選ぶことを推奨しています。

 

計算式は、次の通りです。

式1:出力電圧計算式
式1:出力電圧計算式

この式の 0.8V は、内部リファレンス電圧の値です。 R2 は、デモボードの値を参考にして 4.99KΩ とします。出力電圧 VOUT = 3.3V を得る場合に、分圧抵抗 R1 を求めると次の計算結果になります。 ばらつき 1% 誤差の抵抗を選択する場合、E96 系列から選択するので、実際には R1 として 15.4KΩ または 15.8KΩ を選択します。

式2:抵抗 R1 算出
式2:抵抗 R1 算出

出力電圧誤差について

出力電圧誤差は、以下の内容の合計で決まります。

 1. 分圧抵抗のばらつき

 2. リファレンス電圧ばらつき

 3. ラインレギュレーション

 4. ロードレギュレーション

 

実際にシステム内で使う場合の、周辺温度や入出力電圧条件、負荷電流の条件から上記のばらつきがどれくらいになるか見積もることが可能です。 見積もった出力電圧の精度によって、負荷のマイコンや FPGA 用の電源として使用可能か判断することが可能となります。

1. 分圧抵抗のばらつき

使用する分圧抵抗 R1 および R2 のばらつきによっても、出力電圧の誤差が発生します。E96 系列の抵抗を使った場合、±1% 誤差となります。

 

出力電圧設定が 3.333V (R1=15.8KΩ、R2=4.99KΩ) の時に、出力電圧の誤差がどれくらいになるか計算してみます。使用する 2つの分圧抵抗の誤差が ±1% の場合、R1 が +1% で R2 が -1% の時が最大の誤差となるので式1を使用して出力電圧を計算すると、出力電圧は 3.384V となり設定電圧 3.333V に対して約 1.5% の誤差となります。
 
抵抗値のばらつきが ±1% なので、直感で出力電圧は最大 2% の誤差と考える方がいますが、実際に計算してみると 2% の誤差でないことがわかります。実際に計算して確認することが、重要であることがわかります。

2. リファレンス電圧ばらつき

リファレンス電圧については、メーカーや製品によってフィードバック電圧など色々な言い方をしているのでデータシートで確認をしてください。 今回の ADP1715 のデータシート上では、「ADJUSTABLE OUTPUT VOLTAGE」と言う表記になっています(表1)。負荷電流と温度範囲を考慮すると、最大 3% のばらつきを持っていることになります。

表1:リファレンスで夏のばらつき
表1:リファレンスで夏のばらつき

3. ラインレギュレーション

ラインレギュレーションは、入力電圧が変動した時の出力電圧のばらつきを規定しています。 電気的特性の表からの抜粋(表2)を参考にすると、±1.5%/V のばらつきを持ちます。

表2:ラインレギュレーション
表2:ラインレギュレーション

 ADP1715 のデータシートには、3.3V 出力設定時のラインレギュレーションが掲載されているので(図3)、こちらのデータを参考にばらつきを推定することも可能です。入力電圧の変動が大きいアプリケーションでは、実際に同じようなデータを評価ボードなどで出力電圧のばらつきを確認しておくことも重要です。

図3:3.3V 出力設定時のラインレギュレーション
図3:3.3V 出力設定時のラインレギュレーション

4. ロードレギュレーション

ロードレギュレーションは、負荷電流が変動した時の出力電圧のばらつきを規定しています。 電気的特性の表からの抜粋(表3)を参考にすると、±0.004%/mA のばらつきを持ちます。

表3:ロードレギュレーション
表3:ロードレギュレーション

 ADP1715 のデータシートには、3.3V 出力設定時のロードレギュレーションが掲載されているので(図4)、こちらのデータを参考にばらつきを推定することも可能です。負荷電流の変動が大きいアプリケーションでは、実際に同じようなデータを評価ボードなどで出力電圧のばらつきを確認しておくことも重要です。

図4:3.3V 出力設定のロードレギュレーション
図4:3.3V 出力設定のロードレギュレーション

図4 のロードレギュレーションの特性から、負荷電流が大きくなることで出力電圧が低下することがわかります。このような特性を持つことから、出力電圧を調整したい場合が発生することがあります。

 

また、温度や経年劣化まで考慮して出力電圧を調整して設定したい場合も出てきます。このような時に、出力電圧を設定する分圧抵抗が内蔵しているタイプとなると調整できないため、設計している回路で出力調整が必要となることが想定される場合は、分圧抵抗は外付けの製品を選択しておいた方が安全です。

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