インダクター、コンデンサーは電子回路を作るうえでなくてはならない部品です。その動作の基本的な役割を解説します。
今回の内容は、Part9"インダクターの温度特性"になります。
他の記事もご覧になりたい方はまとめページがありますので、そちらをご覧ください。
概要
インダクターは使用温度によって特性が変化します。
直流抵抗、インダクタンス及び飽和特性が主に変化する特性ですが、使用されているコア材によって変化量が変わってきますが、それぞれの条件において変化する特性と注意点について説明します。
直流抵抗の温度変化
ほとんどのインダクターには銅線が使用されており、(1)式のように電気抵抗率と線径及び長さによって直流抵抗値が決まってきますが、データシートに記載されているのは常温の値で銅の温度係数によって温度変化が起こります。

ρ:抵抗率
S:断面積
ℓ:長さ
温度変化による抵抗値は(2)式で計算することができます。

RT:温度がTに変化した時の抵抗値
Rt:温度がtの時の抵抗値
αt:抵抗温度係数
抵抗温度係数を0.00393 @20℃として100℃で使用した場合の影響について考えます。
(3)式のように直流抵抗は約31%上昇します。

この変化によって、損失と発熱が増加することに注意が必要です。
検証のためにWurth Elektronik社のRedEXPERTを使用して1.8A定格のインダクターの温度上昇値を比較シミュレーションした結果を図1に示します。温度上昇値も約1.3倍程度になっていることが確認できます。

図1:使用温度変化によるインダクターの温度上昇比較
インダクタンスの変化
インダクタンスは(4)式のように鉄心の性能(形状、材質等)と、巻数の二乗で得ることができます。

AL値:鉄心の性能(透磁率、断面積、磁路長)により決まる値
N:巻数
温度変化が起こると透磁率が変化するため、それに伴ってインダクタンスも変化します。ただしインダクターに使用されているコア材によって変化量が大きく変わり、フェライトを使用したインダクターでは変化が大きくなります。
図2はフェライトコアの透磁率と温度の特性例です。
温度の上昇と共に透磁率が上昇し、キュリー温度に近づくと減少しキュリー温度に達すると0になります。
この特性例のものでは常温を基準値とすると-40℃~105℃の範囲では約±40%インダクタンスが変化することになります。

図2:フェライトコア透磁率-温度特性例
インダクターでフェライトコアと同様に使用頻度の高い金属系コアではこの変化は小さいためそれほど考慮する必要はありません。
飽和特性の変化
コア材の飽和特性についてはこちらもフェライト系では高温になると飽和磁束密度(Bs)が低下するため特性が悪くなってきます。
これはより注意する必要があることは、同じ電流であっても高温時にはインダクタンスが低下してしまうことです。
図3はフェライトコアを使用したWurth Elektronik社の74477810の電気的特性です。
図3の特性でIsatは2.2Aで|⊿L/L|<10%と規定されていますので、2.2A時に9μHに低下することがわかります。
しかし、これは常温での規定であり、高温環境下では飽和磁束密度が低下するため高温になるとインダクタンスの低下が大きくなります。
図4はこのインダクターの20℃と100℃における直流重畳特性の比較です。

図4:74477810の温度条件による直流重畳特性の変化
20℃では2.2A時に9μHのインダクタンスが100℃では6μH程度に低下していることがわかります。
金属系コアは温度変化が少ないため、それほど温度条件による変化を考慮する必要はありません。
図5は金属系コアを使用した場合の温度条件による変化です。

図5:金属系コアの温度条件による直流重畳特性の変化
Wurth Elektronik社 HPより
まとめ
インダクターは使用温度によって特性が変化します。
高温時は直流抵抗による発熱が大きくなり、フェライトコアを使用したものはインダクタンス値や直流重畳特性の変化が起こるため、使用するアプリケーションにおける温度条件を考慮して選択する必要があります。
シミュレーションツールのご案内
お問い合わせ
本記事に関してご質問などありましたら、以下より問い合わせください。
すぐに購入を希望の方はこちら
ウルトエレクトロニクス メーカー情報Topへ
ウルトエレクトロニクスメーカー情報Topページへ戻りたい方は、以下をクリックください。