5G新機能 | AGV / IIoT 向けTNSとは

はじめに

2020年3月から本格的に商用利用が開始された5Gサービスですが、産業分野での更なる活用に向けた低遅延・高信頼性通信に関する今後の対応にも注目が集まっています。その中でも特に「 TSN 」というネットワーク技術の5Gへの適用が期待されています。

TSNとは何か、どのような機能で低遅延・高信頼性通信を実現可能となるのか? 本記事では、TSNの機能概要をご紹介します。

産業向け用途イメージ画像

TSN (Time Sensitive Networking) とは

TSNは、通信デバイス間のリアルタイム通信をおこなううえで、時間同期や通信信号のゆらぎを低減する技術です。IEEE 802における一連の規格を指します。スマートファクトリー内の通信インフラにおいて、遅延制約・無線化の要求は高まることが見込まれております。

5GへのTSN適用により、これまで実装が困難とされていたセンサー / アクチュエーター / 制御装置など、独立した機器同士の低遅延な時刻同期 (ex. 複数のロボットを協調させ、組み立て工程を自動化) を実現可能となることが今後期待されております。またTSNの無線実装により、さらに自由度の高い設備構築も望めます。イーサネットのTSN関連規格をべースとして、TSNの5G連携が3GPP Rel. 16以降で順次おこなわれる予定です。

今回はIndustry 4.0の実現に向け、TSNのなかでも注目されている下記4つの規格についてご説明します。

【TSN over 5G 注目規格】                         
・IEEE 802.1AS-2011 (時刻同期のプロトコルを規定)
・IEEE 802.1Qbv-2016 (フレームの時分割スケジューリングを実現)
・IEEE 802.1CB-2017   (URLLCのためのフレーム作成と除去)
・IEEE 802.1Qci-2017   (ストリーム毎のフィルタリングとポリンシング)

図 1 TSN イメージ画

図 1 TSN イメージ画

高精度の時刻同期: IEEE 802.1AS-2011 (gPTP)

IEEE 802.1AS-2011とは、gPTP (Generalized Precision Time Protocol) とも呼称される、PTP (Precision Time Protocol) のversionの一種です。

gPTPの前に、PTPについて少しご説明します。PTPとは、ネットワーク内部で使用するデバイスの時刻同期を高精度でおこなうプロトコルの一種です。時刻同期プロトコル・ソースの精度と使用媒体例の比較を表1に示します。PTPは、NTPと比べて時刻同期の精度が高くマイクロ秒単位です。

さらにPTP v2は、精度向上を目的として定義され、GPSと同等の時刻同期精度を有しております。GPSは導入コストが比較的高く、周囲の建物の影響を受けて実際の精度が出ないという懸念点もありますので、PTPは時刻同期機能として、さまざまなケースで活用されていくことが見込まれます。

TSNに採用されているgPTPは、PTPv2の規格に準じて定義されたものです。よって、TSN over 5Gを活用する場面では、gPTPにより高い時刻同期精度の実現が可能となります。

表 1 時刻同期プロトコル・ソースの精度比較

時刻同期

精度

媒体例

NTP

<1~10ms

LAN環境

PTP v1 (IEEE 1588-2002)

<10~100us

LAN環境

PTP v2 (IEEE 1588-2008)

<1us

LAN環境

gPTP (IEEE 802.1AS-2011)

< 1us

LAN環境

GPS

<1us

GPS衛星

時分割データスケジューリング: IEEE 802.1Qbv-2016

基地局を介するデータ通信には、即時性高いデータ (ex. 音声通話など) と、比較的即時性が高くないデータ (ex. メール文など) が混在しております。

そこでIEEE 802.1Qbv は、リアルタイムと非リアルタイムのデータが混在する状況下においても、周期的なリアルタイムデータの伝送遅延を保証することが目的です。リアルタイムと非リアルタイムのトラフィック (※) をサイクリック周期で時分割スケジューリングすることで、すべてのノードや伝送路での高精度な時刻同期を実現します。規格内容の概略図を図2に示します。即時性の高いトラフィックは時刻をキャッチアップしたノードから規定時間で出力され、即座に高優先枠で転送されますが、比較的即時性の高くないトラフィックは、低優先枠の時間まで待ってから出力される仕組みとなっております。

※ トラフィック:インターネットやLANなどのコンピューターなどの通信回線において、一定時間内にネットワーク上で転送されるデータ量のこと

図 1 IEEE 802.1Qbv 概略図

図 2 IEEE 802.1Qbv-2016 概略図

冗長化によるデータロス防止: IEEE 802.1CB-2017

IEEE 802.1CB-2017は、複数の伝送路からフレームを複製して転送することで一方の伝送路で障害が生じても、他の伝送路を通じて目的のノードへ伝送がおこなえるため、重要なフレームロスを防止することが可能となる規格です。(図 3)

複製されたフレームをどちらも受信した場合は、1つ目に受信したものより後のものは重複として破棄されます。この機能によりパケットのロスを防ぎ、より高信頼性の通信を実現可能となることが期待されております。

図 3 IEEE 802.1QCB-2017 概略図

通信の安全性と帯域幅の確保: IEEE 802.1Qci-2017

IEEE 802.1Qci-2017は、通信の安全性向上と帯域幅の過剰使用の防止を目的とし、入力側からのフレームのフィルタリングとポリンシングをレートや帯域幅に応じておこないます。他のネットワークからの悪意のある送信を検出し抑制をおこなうことも規格に含まれており、送信側の予約フレームと一致するかどうかを各フレームで確認し、一致しなければフレームを破棄する機能となっております。

おわりに

今回はTSNの機能概要について紹介しました。各モジュールベンダーより3GPPのRel. 16に対応した5Gモジュールも発表されはじめていますが、あわせて、今後のTSN対応の動きについても注目していきたいと思います。

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