分布定数線路の周波数特性

本コラムでは、分布定数回路を伝わる信号は、ほとんどの場合、パルス応答、すなわち、過渡現象として取り扱っています。

分布定数回路だけでなく、一般的に、回路に対する信号の応答は、時間応答と周波数応答の二つがあります。
両者は、フーリエ変換によって行き来が可能です。

今回は、分布定数回路を周波数軸でながめてみます。2回に分けて述べます。
以下も参照ください。
ラプラス変換とフーリエ変換

分布定数回路の応答を求めるには、縦続行列を用いるのが便利です。
縦続行列については以下を参照ください。
縦続行列
分布定数線路の縦続行列と波形解析

縦続行列

図1は、上のコラムで述べた縦続行列です。

同図の式(1)のように、入力電圧・電流を、出力電圧・電流で表すので、次段に別の線路を接続すると、次段の入力電圧・電流が、前段の出力電圧・電流となるので、縦続接続のふるまいを表すのに適しています。式(2)は、線路の縦続行列の各成分を式で表したもので、角周波数ωと線路の伝搬遅延時間τの関数です。

図1. 縦続行列
図1. 縦続行列

近端/遠端の電圧/電流

図2(a)が線路と入出力の抵抗などの回路図です。近端の抵抗はR1、遠端の抵抗はR2、線路は、特性インピーダンスZ0、片道の伝搬遅延時間はτです。図2(b)は、回路図を縦続行列で書き直したものです。

式(3)および式(4)は、入力側の電圧V1と電流I1および出力側の電圧V2とI2の関係を示します。

図2. 近端と遠端の電圧
図2. 近端と遠端の電圧

式(5)は、式(1)に、式(3)および式(4)を代入したものです。
式(6)および式(7)は、式(5)を整理して、V1とV2を未知数とする連立方程式式としたものです。
式(8)は、式(6)および式(7)を書き換えたものです。
式(8)をV1とV2について解いて、式(9)および式(10)を得ました。
これらに、式(2)を代入すると、V1とV2の周波数特性を得ます。

実際に式を変形して整理すると、近端の波形V1および遠端の波形V2の波形歪みのない条件などを求めることができます。興味のある方は、参考文献をご覧ください。

図3. V1, V2を求める
図3. V1, V2を求める

図4に、式(10)のV2/Vinの周波数特性を、R1をパラメータにして示します。入力電圧に対する出力電圧なので、伝達関数です。R1が小さくなると、周波数特性のピーク値が大きくなります。R1が小さいということは、ドライバの駆動能力が大きいことを示します。R1=11Ωは駆動能力24mA程度、22Ωは12mA、33Ωは8mAに相当します。ピークの周波数は、およそ250MHzです。この周波数については次に述べます。

図4. 遠端の周波数特性
図4. 遠端の周波数特性

図5は、図2(a)の入力に矩形波を加えたときのV2の時間応答を示します。図4と図5とを比べると、周波数応答と時間応答が何となく対応していることが分かります。この反射波形の、パルス幅は、2nsです。線路の片道の時間が1nsなので、1往復分です。この波形に、正弦波を当てはめると、周期が4nsとなって、周波数は250MHzとなります。周波数応答から時間を応答を求めるのは、高速フーリエ逆変換(iFFT)を用います。

以下を参照ください。

エクセルによるFFT
エクセルによるFFT(その2)

図5. 時間応答
図5. 時間応答

図6は、線長を変えた場合の周波数応答を示します。τ=1nsは、およそ15cmです。
ピークの周波数は、1/(4τ)です。

図6. 線長を変えた場合
図6. 線長を変えた場合

図7の式(11)は、式(10)において、R2=∞、すなわち遠端開放の通常のCMOS伝送の場合の伝達関数を示します。式(12)はその絶対値で、通常のCMOS伝送の場合、R1<Z0なので、式(13)に示すように、cosωτ=0のときに最大値Z0/R1となり、式(14)に示すように、cosωτ=±1のときに最小値1(0dB)となります。

式(15)は、ピークをとるときの周波数です。
ω=2πfなので、最初のピークは、1/(4τ)となります。

図7. 周波数特性の式
図7. 周波数特性の式

図8に、図6の線長を変えた場合の時間応答を示します。反射波の振動の周期が、周波数特性のピークに一致します。例えば、τ=2nsの場合、図6のピークは、1/8ns=125MHzで、振動の周期は、8nsとなります。τ=0.5nsの場合、1/2ns=500MHz、周期は、2nsです。

このように、周波数応答と時間応答とは、一定の関係があり、周波数応答は、そのままエクセルで絶対値を計算して、常用対数を20倍してデシベルを得ます。時間応答は、高速フーリエ逆変換(iFFT)で簡単に求めることができます。

参考文献
碓井有三 :ボード設計者のための分布定数回路のすべて(第3版)自費出版, pp.146-169, 2016

図8. 線長を変えた場合の時間応答
図8. 線長を変えた場合の時間応答

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