容量反射

分布定数回路と静電容量との相性

分布定数回路と静電容量(キャパシタ)とは相性がよくありません。
「何かノイズが出たので、キャパシタにより取り除く」という話しをよく聞きます。
決してこのようなことをしないでください。

分布定数回路の反射の対策は、「いかにインピーダンスを整合させるか」に尽きます。
その代表がダンピング抵抗です。

本コラムでは、ダンピング抵抗は何度も掲載したので、ご理解いただいていると思います。
キャパシタは、信号が変化した瞬間は、ほぼゼロの低い抵抗で、定常状態では、無限大、すなわち、開放に漸近します。

反射係数

特性インピーダスZ1の線路から、Z2の線路(または部品)へ信号が進む場合の反射係数rは、
r=(Z2-Z1)/(Z2+Z1)
です。以下を参照ください。
豆知識:反射係数

Z2が開放のときには、上式に、Z2=∞を代入して、r=1となります。
Z2が短絡のときは、Z2=0を代入して、r=-1となります。
Z2がキャパシタのときには、信号が変化した瞬間は、ほぼ短絡なので、r=-1になり、定常状態では、r=1となります。

ステップ波形による解析

Z2がキャパシタCのとき、ラプラス変換したZ2は、
Z2=1/sC
です。

したがって、反射係数は、線路の特性インピーダスをZ0として、
r=(1/sC-Z0)/(1/sC+Z0)=-(s-1/CZ0)/(s+1/CZ0)
となります。

この接続点に、ステップ信号 1/s が到着すると、反射波形は、
V(s)=r/s=1/s-2/(s+1/CZ0)
となります。

ラプラス逆変換して、v(t)は、
v(t)=1-2exp(-t/CZ0)
となります。

式

文中の式は、見づらいので、式だけまとめて記載しました。

図1. 容量反射(ステップ応答)
図1. 容量反射(ステップ応答)

図1に、このステップ応答の反射波形を示します。
容量反射の影響を誇張するために、C=5pFとしました。

この反射波が線路の反対側に伝わります。

実際の回路

図2. 実際の回路
図2. 実際の回路

図2は容量反射を解析する実際の回路です。容量反射の影響を顕著に示すため、容量は大きめに5pFとします。
信号源の立ち上がり時間は、0.1nsとしました。ほぼステップ応答です。
近端の容量C1と遠端の容量C2の有無をそれぞれ変化させて波形を解析しました。

図3. 近端の波形
図3. 近端の波形

図3は、近端の波形を示します。

左上の、C1/C2=0p/0pFは、当然ながら容量反射はありません。

右上の、C1/C2=5pF/0pFは、C1による波形のなまりと、遠端におけるオープン反射が近端に到着して容量反射して遠端でオープン反射して戻ったものです。4τ、すなわち、2往復で容量反射が観測されます。

左下の、C1/C2=0pF/5pFは、図1のステップ応答波形の反射波形と同じ形をしています。遠端での容量反射が近端に到着したものです。

右下の、C1/C2=5pF/5pFは、近端と遠端の容量反射を重ねたものです。

図4. 遠端の波形
図4. 遠端の波形

図4は遠端の波形です。

左上の、C1/C2=0p/0pFは、当然ながら容量反射はありません。

右上の、C1/C2=5pF/0pFは、遠端におけるオープン反射が近端に到着して容量反射して遠端でオープン反射して戻ったものです。

左下の、C1/C2=0pF/5pFは、遠端における、C2による波形なまりだけです。
遠端における容量反射は、近端が整合されているため、遠端に戻りません。

右下の、C1/C2=5pF/5pFは、近端と遠端の容量反射を重ねたものです。

図5. 近端, 遠端の波形 C変化
図5. 近端, 遠端の波形 C変化

図5は、これらの波形を重ねて表示しました。
図3および図4の各波形に対して、波形のなまりを比べてください。

図3~図5の波形は、前述のように、容量反射の影響を顕著に示すために、Cを5pFと大きく選びました。
Cが小さくなると、容量反射の影響も小さくなります。
この容量反射は、それほど振幅の変化が大きいわけでもないので、これ自体で誤動作はしそうにありません。
容量反射に限りませんが、このようなノイズは、タイミングマージンを削ることがあります。
これを検証するために、容量反射が最も大きく表れる、C1/C2=5pF/0pFのときの遠端波形について考えます。図4の右上の場合です。
容量反射が表れるのは、立ち上がりから2ns、すなわち、線路の往復分2τ後です。

図6. パルス幅を変えたときの遠端波形
図6. パルス幅を変えたときの遠端波形

図6は、パルス幅を変化させたときの遠端の波形を重ねて示します。パルス幅を定義するときの0.5の振幅のタイミングを丸印(〇)で示します。
このときのパルス幅は、等間隔の0.2nsキザミですが、0.5の振幅のタイミングは均等ではありません。
同図のTW=2.5ns付近は、パルス幅が増加しているように見えます。

図7. パルス幅の増加
図7. パルス幅の増加

図7は、このパルス幅TWの増減(この場合は増加のみ)をTWに対してプロットしたものです。
TW=2.3ns付近で、パルス幅が0.12ns程度増加しています。
ここでは、パルス幅の増減で評価しましたが、実際には、タイミングマージンを削ることになります。
振幅軸のノイズが、タイミングマージンとなって表れることに注意が必要です。

参考文献
碓井有三 :ボード設計者のための分布定数回路のすべて(第3版)自費出版, pp.57-58, 2016

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