大規模商業施設をはじめ、駅・空港など、不特定多数の人々が出入りする施設では、事故、事件を未然に防止することが、極めて重要です。
そのためには、「物体検出」の装置・システムは大きな役割を担っています。
安全と利便性を両立させるために、検知・探知能力の向上とスループットのスピードアップが、常に求められています。

大規模商業施設とは、どのような施設か?

大規模商業施設とはどのような施設を指していて、どのような特長があるのでしょうか。

大規模商業施設と言えば、かつては、スーパーなどの大型小売店舗が中心でしたが、1998年に「大規模小売店舗立地法」が施行されて以来、郊外型のショッピングセンターの出店ラッシュがつづき、巨大なショッピングセンターが誕生してきました。
特に「モール型ショッピングセンター」と呼ばれる、たくさんの専門店舗や映画館などの娯楽施設、飲食店舗を備えた複合型大規模施設が人気を集めています。

こうした大型施設では、イベント・スペースや広大な駐車場が設けられており、老若男女、多くのお客さまが自由に出入りできる施設であることから、防犯や安全性確保の意味からも、数多くの「物体検出」装置・システムが導入されています。

また、多くの乗客が利用するターミナル駅や空港なども、防犯やセキュリティという観点からは大型商業施設と同じような性格を持っており、精度の高い「物体検出」装置・システムが求められています。

駅・空港・大規模商業施設における「物体検出」の目的

駅や空港、大規模商業施設における「物体検出」装置・システムの開発にあたっては、まず、そうした施設が、どのような目的を持って「物体検出」の装置・システムを導入しているのかを理解しておく必要があります。

「物体検出」装置・システムは、施設での事故や事件を未然に防ぐために、爆発物や刃物・銃器などの危険物を「検知」することが、導入の主な目的となります。
また、国や都市の玄関口となる空港では、覚せい剤などの非合法薬物、金塊やワシントン条約により禁止されている動物などの密輸品の「検知」も重要です。

具体的には、衣服に隠れた危険物であっても高精細に可視化することができる「ミリ波レーダー」、「X線手荷物検査」、「爆発物探知システム」、「ゲート型金属探知器」、「ボディースキャナー」、「インテリジェント・ビデオ解析システム」、「ドローン検知システム」などのソリューションが活用されています。

駅や空港、大規模商業施設には、公共的な空間としての役割も強く、その防犯対策の強化は、地域全体の安全管理につながることにもなります。

ミリ波レーダーの開発で解決すべき課題

「ミリ波レーダー」は、ミリ波を照射することによって、衣服に隠れた危険物であっても高精細に可視化することができる、高性能な電波イメージング装置です。

ミリ波帯(波長が1〜10mm=周波数30〜300GHz)の電波を使っているため、「ミリ波レーダー」と呼ばれています。大変、高精度な検知機能を持っており、76 ~ 81GHzで動作するミリ波システム(対応する波長は約4mm)には、最小で0.1mm単位の動きを検出する能力があります。

ただ、検知の精度を上げるためには、膨大な数のアンテナの設置とデータ量の処理が必要となります。

これからは、いかにアンテナやセンサーの設置数を減らし、メモリ容量を削減していけるかが課題となってきます。そうすることによって、装置・システムのコスト削減や小型化を実現することができ、検知のスループットも向上させることができるからです。

今後は、カメラとミリ波レーダーを一体化したマルチ機能の装置・システムも求められると予測されています。

爆発物探知システムで解決すべき課題

「爆発物探知システム」は、手製爆弾に用いられる有機過酸化物の高蒸気圧成分を探知できる装置です。

日用品から爆薬を合成して、手製爆弾を作る方法が広く知られるようになり、ロンドンでは、手製爆弾による爆破テロが起きています。
日本でも、多くの人が行き来する駅・空港・大型商業施設では、不可欠なシステムとなりつつあります。しかし、現在の「爆発物探知システム」では、検査に時間がかかるのが課題となっています。

このため、爆発物を高スループットで検出できるシステムの開発が各社で進められています。
従来の質量分析計を高度化するだけではなく、人体や手荷物から発生する化学物質を質量分析計に導入する吸気システムとの組み合わせで、スループットを高めるシステムが開発されています。

また、利便性を高めるためにウォークスルー・タイプの導入も進んでいます。そこでは、人が歩く速度で、爆発物を探知できるシステムが求められています。

ボディースキャナーで解決すべき課題

「ボディースキャナー」には、今日では、主としてミリ波が使われています。
ミリ波は物質によって異なる反射の仕方をするため、反射波を分析すれば、対象物が何なのかがわかります。このため、服の下に何か物体を隠しもっているかを検知するだけでなく、その物体の組成を判別することも可能です。

「ボディースキャナー」の活用目的は、私たちの日常生活を妨げることなく、かつ誤報を起こさず、日常生活に潜む脅威を早期発見することにあります。そのためには、迅速かつ目立たない方法で不審物の確認を行う必要があります。

そこで、今日では、2枚の壁の間を歩くだけでセキュリティ・チェックが完了する、新しいタイプの「ボディースキャナー」も登場しています。

さらに、顔認証などの生体認証を組み込んで、立ち入り禁止の人物や指名手配犯などのリストと照会できるシステムも開発されており、「ボディースキャナー」は自然な動きの中で、「物体検出」だけでなく侵入検知まで含めた総合的なセキュリティ・チェックのできるシステムへと進化しています。

この流れをしっかりと把握したうえで、製品開発を進めていくことが肝心です。

既存の装置の高度化で解決すべき課題

「物体検出」装置・システムには、X線に代わってミリ波が導入されつつありますが、現場では、手軽に素早く金属探知などができる装置として、まだまだX線を活用した装置・システムが活躍しています。

ただ、X線の画像は普段、私たちが目にしている物の見え方とは大きく異なります。特殊な色味で、しかも透過的に対象物が映し出されるため、同じものでも多種多様な見え方があり、内容物を判別するのは慣れた人間にとっても難しい作業です。

AIのディープラーニングには「物体検出」と呼ばれる手法があり、画像の中から特定の物体の種類と位置を推定することができます。X線画像の色味の特性を踏まえた加工を施した上で、多種多様な見え方を考慮した画像を学習させることで、X線画像においても高い精度で物体を検出できるようになります。

この例のように、大規模商業施設、駅・空港などの「物体検出」装置・システムの開発にあたっても、AIの活用を意識していく必要があります。

まとめ

大規模商業施設や駅・空港の安全管理は、単に当該施設だけでなく、立地する地域の安全確保とも大きく関わっています。

大規模施設の事故・事件を未然に防ぐために、「物体検出」装置・システムには重大な役割が期待されています。
また、不特定多数の人々が行き交う大規模施設では、検知の速さと確実性という、相反する機能が求められています。装置・システムの小型化とコスト低減も必須となります。

駅・空港・大規模商業施設の「物体検出」装置・システムの開発は、今後とも、チャレンジしがいのある、有望な領域といえます。

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