高速シリアル信号の波形の評価

高速シリアル信号の波形』で述べたように、損失線路の高速シリアル信号の波形を評価する際には、出来るだけランダムな信号を用いる必要があります。

ランダム信号とは、文字どおり、0 と 1 の出現確率の信号です。このランダム信号を発生させるには、M系列(Maximum Length Sequence)を用います。これは理論的には難しいですが、数値演算的に実現するのは簡単で、シフトレジスタの途中の 1つまたは複数の段のデータの排他的論理和(XOR)をとってフィードバックすることにより実現出来ます。

疑似ランダム信号

このようにして得られた信号は、有限の周期を有します。その周期は、シフトレジスタの段数 n に対して、2^n-1 となります。

例えば、段数が 8段の場合は、2^8-1=255 の周期となります。理想的なランダム信号は周期を持ってないので、この周期をもったランダム信号を、疑似ランダム信号(PRBS : Pseudo Random Bit Sequence))といいます。(脚注1

PRBS 生成回路

簡単のために、図1(a) に示す 3段の場合の動作について述べます。1段目の出力と 3段目の出力の XOR を取り、1段目に入力します。初期値はオールゼロ以外で、例えば、100 を与えます。

Article header 124741 sc47 fig1a  1
図1(a) 3段のシフトレジスタ

このシフトレジスタの変化を 図1(b) に示します。8回目に元の状態に戻るので、周期は 7 であることが分かります。この最終段の出力、0011101 が得られました。

Article header 124741 sc47 fig1b  1
図1(b) シフトレジスタの変化

PRBS の性質

これが PRBS であるためには、以下である必要があります。

(1) 周波数スペクトルが平坦である
(2) 自己相関をとると先頭のみが大きな値をとる

周波数スペクトル

(1) については、この数列が周波数特性を持っていると、被測定回路の周波数特性との組み合わせで正しく特性が得られないので、平坦である必要があります。数列の周波数特性を求めるには、数列を時間関数とみて、フーリエ変換を行います。この場合は、時間関数が符号列なので、図2 のように級数の和として計算出来ます。なお、全体の周期が 7 なので、1/7~3/7 の 3つの周波数成分を考えます。(脚注2

Article header 124741 sc47 fig2  1
図2 フーリエ変換

この計算、例えば、exp(-jx) は、エクセルの複素数演算で、imexp(complex(0,-jx)) で求めることが出来、その和は、imsum 関数、その絶対値は、imabs 関数で求めることが出来ます。または、exp(-jx)=cos(x)-jsin(x) なので、実数部と虚数部を足し合わせて、実数部を Re、虚数部を Im とすると、絶対値は、√(Re^2+Im^2) で求めることが出来ます。

上の例では、いずれの周波数成分も、1.41 となり、平坦でした。仮に、この数列の、最後の 1 を 0 と置き換えると、周波数スペクトルは、1/7 の成分は、2.25、2/7 は 0.55、3/7 は 0.8 となって、平坦ではありません。

自己相関

(2) については、自己相関をとることによって、その信号の繰り返し周期性を求めることが出来ます。

Article header 124741 sc47 fig3a  1
図3(a) 自己相関関数

自己相関関数とは、図3(a) に示すように、自分自身と、τ だけ時間がずれた信号の積の和をとることによって、図3(b) に示すように、両者の一致が取れた τ で最大値をとり、他の τ では小さな値となります。(τ:ギリシャ文字小文字のタウ)

Article header 124741 sc47 fig3b  1
図3(b) 自己相関関数計算例

スペクトルと同様に、この数列の、最後の 1 を 0 と置き換えると、自己相関関数は、図3(c) に示すようになります。なお、図3(a) の自己相関関数の積分の中を、x(t)y(x+τ) とすると、2つの関数の相関、すなわち、相互相関がとれるので、両者の一致度を見つけることが出来ます。相互相関の応用例として、例えば、損失線路では、それぞれのタイミングの遅延は、データパターンによって異なるので、損失線路の送端と受端で相互相関をとると、両者の遅延時間を求めることが出来ます。

自己相関、相互相関は、フーリエ変換の 1つの応用として求めることが出来ます。このことについては、また別の機会に述べることとします。

Article header 124741 sc47 fig3c  1
図3(c) PRBSではない数列の自己相関関数

脚注1
Pseudo Random Bit (または Binary) Sequence (または Sequence)



脚注2
基本周波数は、周期を T とすると、1/T です。T=7 なので基本周波数は 1/7 で、高調波成分はその整数倍ですが、標本化定理により標本化周期が 1 に対して、1/2 の周波数までを考えるので、3/7 までとなります。フーリエ変換では、負の周波数も存在しますが、ここでは正の周波数のみを考えます。また、フーリエ変換は周期で割りますが、各スペクトルの比較のみなので、ここでは周期で割っていません。

碓井有三のスペシャリストコラムとは?

基礎の基礎といったレベルから入って、いまさら聞けないようなテーマや初心者向けのテーマ、さらには少し高級なレベルまでを含め、できる限り分かりやすく噛み砕いて述べている連載コラムです。

もしかしたら、他にも気になるテーマがあるかも知れませんよ!