分布定数回路に接続される回路素子の影響』で、コネクタやビアの等価回路は π 型や T 型で表すことができると述べました。(π:ギリシャ文字小文字のパイ)

この等価回路の周波数特性とステップ応答について考えます。

π 型等価回路

図1 の π 型回路を解くと、同図の式のようになります。同式の分母は、s に関しての 1次式と 2次式の積で表されます。

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図1 CLC回路

この式を、図2 に示すように変形します。

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図2 式の変形(図1 の式から)

これらは、それぞれ 1次および 2次の低域通過型のフィルタ(LPF:Low Pass Filter)であり、それぞれのカットオフ周波数 ω1 と ω2、さらに、2次 LPF については、急峻度Qを求めます(ω:ギリシャ文字小文字のオメガ)。2次式は Q によって、カットオフ周波数近辺の特性が決定されます。ここで、√(L/C) = R とおくと、ω1 = ω2、Q = 1 となります。

T 型等価回路

π 型と同様に、図3 の T 型回路を解くと同図の式のようになり、図4 のように変形します。同様に、√(L/C) = R とおくと、ω1 = ω2、Q = 1 となります。

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図3 LCL回路
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図4 式の変形(図3 の式から)

LPF の型

これらの LPF は、1次と 2次の組み合わせなので、3次の LPF です。一般に、フィルタは 1次と 2次の組み合わせで構成されます。3次は 1次+2次、4次は 2次+2次、5次は 1次+2次+2次のように組み合わせます。(複数の)2次フィルタの Q は、減衰特性によって決まります。上述のように、1次と 2次のカットオフ周波数が等しくて、2次フィルタの Q = 1 のときの 3次フィルタは、パターワース(Butterworth)特性といいます。

フィルタは、通過域の特性と遮断域の特性によりいくつかに分類(脚注1)されます。バターワース特性の特徴は通過域が平坦で、遮断特性もある程度急峻なので多く用いられますが、パルス波形に対してはやや波形歪みが生じます。

周波数特性とステップ応答

図5 に、このフィルタの周波数特性を示します。なお、定数は『分布定数回路に接続される回路素子の影響』と同様に、C = 0.2 pF、L = 0.5 nH とします。カットオフ周波数は、図2 および 図4 に示した式で求められ、この場合は 31.8 GHz となります。バターワース特性の場合、カットオフ周波数における振幅は -3dB です。カットオフ周波数より高い周波数は、一定の割合で振幅が低下します。この傾斜は、フィルタの次数ごとに -6 dB/oct(脚注2)なので、3次の場合は -18 dB/oct になります。

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図5 周波数特性

図6 に、この回路に立ち上がりの速いステップ波形を加えたときの応答を示します。立ち上がりが極めて速い場合には、わずかなオーバシュートが生じます。これがパターワース特性の特徴です。『分布定数回路に接続される回路素子の影響』にも述べたように、ほとんどの用途の場合に、このオーバシュートが問題になることはないと思いますが、潜在的にこのような性質を持っていることを知っておくと、信号の立ち上がり時間が極めて速くなったときにその影響を予測できると思います。

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図6 ステップ応答

脚注1
理想の LPF は、



  • 通過域(カットオフ周波数 fc より低い周波数)は周波数特性がフラットで損失がない
  • 阻止域(fc より高い周波数)は完全に遮断

 

という特性ですが、実際には理想特性に近い特性を得るためにいくつかの方法が確立しています。代表的なものは、以下の 3つです。



(1) バターワース(Butterworth)特性



  • ワグナー(Wagner)特性とも呼ばれる。
  • 通過域は極力平坦。最も有名。性能に目立った欠点がないので広く使われる。
  • パルス波形の過渡応答はわずかにリンギングが生じる。

 

(2) ベッセル(Bessel)特性



  • トムソン(Thomson)特性とも呼ばれる。
  • パルス波形の歪みを最小にする。減衰特性は緩い。

 

(3) チェビシェフ(Chebyshev または Tchebyscheff)特性



  • 遮断特性を最も急峻にする。通過域はリプルが存在する。
  • パルス波形の過渡応答はリンギングが生じる。

 

この他に、エリプティック(連立チェビシェフ)、ガウシャン、などの特性があります。



脚注2
dB(デシベル)は、振幅比を対数で表したものです。B(Bel:ベル)は Graham Bell の名前にちなんだもので、電力の比を対数で表したものです。2倍が 0.3 B、5倍が 0.7 B のように値が小さいので、dB(デシ・ベル)が多く用いられます。デシは 1/10 の単位で、デシ・リットルのデシです。したがって、d が小文字で、B が大文字です。なお、電力は電圧の 2乗なので、デシベルは電圧比の対数に 20 を掛けます。oct は音楽のオクターブ(Octave)に由来し、2倍の周波数(8度音程)の意味です。-18 dB/oct とは、周波数が倍になると振幅が -18 dB になることを意味します。-6 dB が 1/2 なので、-18 dB は 1/8 です。

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