今回は、ジッタの要因をバスタブ曲線を用いて解説していきます。

アイ開口とジッタ

図1 に示すように、損失線路の波形を基本周期(UI:Unit Interval)で重ねたものがアイパターンでした。図1(a) はランダムパターンに対する時間応答で、図1(b) がアイパターンです。

この中心の部分をアイ開口といい、広いほど大きなマージンが得られます。アイ開口は転送速度が速くなるほど、また、線路損失が大きくなるほど狭くなります。アイ開口を狭くする原因は、図1(b) に赤く分布を示したアイの時間軸の「ぶれ」すなわち、ジッタです。

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図1 時間応答(PRBS)とアイパターン

図2 に、クロスポイント部分を拡大して、ジッタの分布を示します。クロスポイントの左右に分布のピークが存在します。

ジッタの原因の 1つは、伝送する信号の符号、すなわち "1" または "0" の信号の組み合わせです。これを「符号間干渉」といいます。着目するタイミングの符号だけではなく、時間的に隣接する信号の符号による干渉を受けるからです。

この「隣接」は、単に隣り合う符号だけではなく、数ビット離れた符号の影響も受けます。『高速シリアル信号の波形』の図4 では、50 ns 経過後もレベルが一定値に飽和しないことからも想像できます。

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図2 クロスポイント部の拡大

ジッタの要因

理論的に求めたアイパターンと、実際の回路で測定した場合とでは後者のほうがアイ開口は狭く、すなわち、ジッタが大きくなります。その原因は符号間干渉だけではなく、周りの回路から受けるノイズや、熱雑音などに基因するランダムなノイズ成分が加わるからです。

図1 のように、理論的に求めたアイ開口は確定的に再現性よく求めることができるので、デターミニスティック・ジッタ(DJ:Deterministic Jitter)と呼びます。これに対して、ランダムなノイズ成分に基因するジッタはランダム・ジッタ(RJ:Random Jitter)といいます。ランダムなノイズは正規分布すると言われています。

正規分布は図3(a) に示すような分布で、その確率密度はよく 3σ(ギリシャ文字小文字のシグマ)なら99.7 % に収まるというような言い方をする分布です。σ が大きいと分布の広がりが大きく、σ が小さいと分布の広がりが狭く急峻な分布をします。

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図3 (a) 正規分布

図3(a) は分布の中心の確率密度で正規化しており、5σ あたりではほとんどゼロのように見えます。
ところが、図3(b) のように、縦軸を対数目盛りで書き直すと、5σ で 4 かける 10 のマイナス 4乗、10σ でも 2 かける 10 のマイナス 22乗と、ゼロには近づくがゼロではありません。

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図3 (b) 正規分布 (対数目盛り)

符号誤り率(BER)

実際のジッタは、図4 に示すように、DJ に RJ が重なります。両者の和をトータル・ジッタ(TJ:Total Jitter)といいます。

図4(a) は、50 ps の DJ に対して、σ = 10 ps の RJ が加わった例です。計算上は、3.125 Gbps の場合に 10年以上(10 のマイナス 18乗)の符号誤り率(BER:Bit Error Rate)を確保できています。

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図4 (a) DJ+RJ (σ=10ps)

図4(b) は同じ DJ = 50 ps に対して、σ = 15 ps の RJ の場合で、10 のマイナス 12乗付近でアイ開口がなくなります。この BER の逆数は 13日となり、確率的には 13日に 1回符号誤りが生じる割合です。アイパターンでアイ開口が広い場合でも、分布の大きな RJ が加わると BER は大きくなるので、符号誤りについて重要な回路の場合には両者を考慮した設計が必要です。
なお、図4 の曲線を、洋式の風呂の形に似ているのでバスタブ曲線といいます。

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図4 (b) DJ+RJ (σ=15ps)

DJ と RJ との分離と縦続接続

設計の際には各回路要素の DJ の単純和と RJ の実効値の和(自乗和の平均)を取って TJ を求めることがよく行われます。実際の回路では、設計の際に予測できないジッタも含まれるので、測定器でジッタを実測し、それらの要因を分析して BER を求めます。

図5(a) に DJ = 30 ps と RJ の σ = 10 ps と DJ = 40 ps と RJ の σ = 12 ps の 2つの分布を示します。この 2つの分布はアイが完全に開いています。

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図5 (a) 2つのジッタ分布

図5(b) にはこの 2つの回路を縦続に接続した場合の例を示します。2つの回路を縦続接続した場合には、DJ = 30 + 40 = 70 ps、RJ の σ = √(10^2 + 12^2) = 15.6 ps となり、開口部が狭くなっていることがわかります。

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図5 (b) 2つの分布の縦続接続

あわせて、この分布を直線目盛りでも示しましたが、対数目盛りと比較すると、アイの見た目とすそ野が実は無限に広がっている様子を比較して理解できると思います。

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