終端抵抗とは ~その1』からの続きです...

さて、次に、終端抵抗を回路としての面からながめてみることとします。

終端抵抗はどこに配置するのでしょうか?

最もオーソドックスな終端方法は、図1 (a) のように、信号源(ドライバ)の出力抵抗 R1 を線路の特性インピーダンス Zo に合わせる方法と、同図 (b) のように遠端、すなわちレシーバに線路の特性インピーダンスに等しい抵抗 R2 = Zo を入れる方法です。さらに、同図 (c) のようにその両方を適用した両終端もあります。

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図1 終端抵抗の位置

ところで、1対1 伝送の場合は、系の 1個所だけインピーダンスの非整合が許容できます。図2 にそれぞれの場合、および非整合の場合の近端と中間点、遠端の波形をそれぞれ示します。

 
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図2 終端の位置による波形の違い

図2 (a) は、遠端のみ非整合、すなわち近端は整合(R1 = Zo)、遠端は非整合(R2 ≠ Zo)の状態ですが、遠端の波形には反射が生じません。一般的には R2 = ∞、すなわち開放のことが多いですが、この方式を「送端終端」といいます。この場合には、波形乱れのないのは遠端のみです。この方法は、消費電力の増加もない経済的な終端方式といえます。逆に、図2 (b) のように、近端が非整合(R1 ≠ Zo)、遠端が整合(R2 = Zo)の場合です。この場合も反射が生じません。この方式を「遠端(整合)終端」といいます。遠端整合終端は、線路上の全ての点で波形乱れがありませんが、先に述べたように振幅の減少と消費電力の増大が生じます。
図2 (c) は両終端ですが、当然遠端を整合終端しているので、線路上の全ての点で波形乱れがありません。図2 (d) は比較のために非整合の場合を示しますが、波形乱れがあることがわかります。基本は (a) の送端終端と (b) の遠端終端、および (c) の両終端ですが、実際の回路ではその変形があります。

ドライバ側を整合していない (b) の遠端終端と (c) の両終端との違いは何でしょう。遠端だけ終端すれば線路上どこの点でも波形乱れがないなら、ドライバ側を整合する意味はあまりないように思われます。原理的にはそのとおりですが、実際には遠端の整合も、例えば容量などが存在するので、完全には整合できていません。わずかな反射が生じて、それがドライバ側に戻り、また反射して遠端に届く、その繰り返しを避けるために、ドライバ側も整合します。そうすることによって、ドライバ側に戻った反射波形がさらに反射することを避けることができます。これが遠端終端と両終端との大きな違いです。また、両終端することによって、クロストークも小さく抑えることができます。わずかな反射でもジッタの要因になるのを避けるために、ギガビット伝送では両終端がよく用いられます。

遠端終端の場合に、終端抵抗を接続する電圧、すなわち終端電圧は多くの場合、振幅の半分に選ぶことが多いようです。電源に接続しても、グラウンドに接続してもいいのですが、振幅の半分を中心に信号が変化するほうが考えやすいのでこのようにしています。この終端電圧を作成するために、例えば、3端子レギュレータなどで電圧を作成すると不具合が生じる場合があります。なぜかは各自考えてください。最後に正解を載せておきます。

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図3 テブナン終端
終端のために電圧を別に用意したくない場合には、図3 のように、電源とグラウンドとの間に 2本の抵抗を接続してその中間点を用いることがよく行われます。この回路は、電気回路の最初に習ったテブナン(Thevnin)の定理(脚注1)で図3 のように変形されて、等価抵抗と等価電圧とで表されます。したがって、このような終端方式をテブナン終端といいます。
テブナン終端は、電源からグラウンドに常時、無駄な電流が流れるので、終端抵抗の数が多い場合には、終端用の電源を用いるほうが有利です。テブナン終端の場合には、無駄な電流による消費電力もきちんと考えておく必要があります。
電源電圧が 3.3 V の場合のテブナン終端では、1本の抵抗の消費電力は 100 mW 近くになるので、ディレーティング(脚注2)を考慮すると、1/4 W の抵抗が必要となるので注意が必要です。

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図4 ブリッジ終端

前回、シリアル化が進んできたと述べました。シリアル伝送は多くの場合、2本で信号を送る差動(Differential)伝送です。平衡(Balance)伝送ともいいます。差動/平衡ではない 1本の伝送送る方式をシングル(Single または Single-End)伝送または不平衡(Unbalance)伝送といいます。

シングルも差動も終端についてはほとんど同じですが、差動の場合には、図4 のように 2本の線路間に終端抵抗を接続する、ブリッジ終端という方式があります。電源に接続する終端方式に比べて、無駄な電流が流れない特徴があります。

 

脚注1
テブナンの定理は、鳳・テブナンの定理とも言われます。「鳳」は鳳秀太郎のことで、与謝野晶子の実兄です。ついでですが、政治家の与謝野馨は、与謝野晶子の孫にあたります。(あまり関係ないですが...)

 

脚注2:ディレーティング(Derating)定格電力の軽減
抵抗やトランジスタは使用方法によって消費電力が異なります。 それぞれ最大定格が規定してあり、例えば抵抗の場合には、0402 では 1/32 W などです。信頼度の高い設計をするには、この最大定格の例えば 50 % などで使用することが推奨されます。また、温度による低減も考慮する必要があります。

 

正解
終端抵抗から電圧源には双方向の電流が流れます。一般に 3端子レギュレータはソース型、すなわち、レギュレータから電流を流し出すだけの機能しかありません。したがって、レギュレータに流れ込む向きの電流に対してはレギュレータは機能しなくなります。このため、終端用の電圧レギュレータは、双方向(Sink-Source)の機能を有するものを用います。

 

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