終端抵抗については、わかっているようでわかっていないことがいくつかあると思います。今回はまずその基本から説明します。

終端抵抗とは、ひと言でいえば反射を回避するために入れる抵抗です。測定器では終端抵抗を入れることが常識で、あの 50 Ω のケーブルが接続された両端には正確な 50 Ω の終端抵抗が入っています。この抵抗のおかげで、思ったとおりの信号を送ることができます。

ボード上の一般の信号は、ほとんど CMOS IC で作られています。出力抵抗は 10 ~ 40 Ω 程度で、レシーバ側は開放です。当然、両端には終端抵抗は接続されていません。図1 に示すように、その波形は反射により乱れていますが、"0" と "1" とを送る場合には、例えば 3.3 V の信号の場合、1 V 以下は "0" で、2 V 以上は "1" と判別できれば多少の波形乱れは許容できます。これが、いわゆるノイズマージンの考え方です。

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図1 CMOSドライバの遠端の波形

信号が高速になり、波形乱れを許容できなくなると、忠実に信号を送る必要が出てきます。その例が、メモリやギガビット伝送で、線路の特性インピーダンスに等しい抵抗で終端します。インピーダンスを合わせる(整合する)という意味で整合終端といいます。

それでは、一般の CMOS の信号を、図2 のように、レシーバ側で終端するとどうなるでしょうか。同図に示すように反射は回避できますが、ドライバの出力抵抗の値にもよりますが、一般的に信号振幅が小さくなります。これは、ドライバの出力抵抗と終端抵抗とによって分圧されるためです。このため、整合終端が用いられる代表ともいえるバス接続された回路では振幅を確保するために、大きな駆動能力を持ったドライバが用いられていました。今でも、バスドライバ = 大きな駆動能力というイメージがあるのはこのときの名残りです。さらに、整合終端のもう 1つの欠点は消費電力の増加を招くことです。3.3 V の CMOS ドライバの出力抵抗が 5 Ω で 50 Ω の両終端、すなわち、ドライバ側にもレシーバ側にも終端抵抗が接続された場合の終端による消費電力の増加分は 100 mW 程度です。 64 ビットバスの場合には 6 W を超えてしまいます。

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図2 遠端終端した例

すなわち、以上を整理すると、終端抵抗による終端は以下の性質を持ちます。

  1. 線路の片端または両端を線路の特性インピーダンスに等しい抵抗で終端すると波形乱れを回避できる。
  2. 終端抵抗を接続することにより、振幅が減少する。
  3. 終端抵抗を接続することにより、消費電力が増加する。


したがって、一般信号を終端することはほとんどなく、波形乱れを確実に抑制したい場合だけに限定して適用されていました。特に、メモリなどはバス幅が広い、すなわち、信号の本数が多いので、消費電力の増加が大きいので、終端の必要性はありましたが、あきらめて、反射が収束するまでタイミングを待って対処していました。

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図3 CMOS入力と差動シングル入力

1990 年代前半に、バスに関して大きな革命が起きました。信号振幅を従来の 3.3 V の 1/4 程度に抑える回路が提案されました。当然、従来のレシーバ回路では "0" と "1" とを判別できないので、新たに図3 のような差動シングル入力が用いられました。従来の CMOS の入力回路のおよそ 1 V の不確定領域をミリボルトオーダまで狭くすることによって実現できました。その例は、Intel の Pentium のバスに用いられた GTL (Gunning Transceiver Logic)、Rambus 社の Direct Rambus、あるいは、SDRAM の SSTL などです。振幅を小さくすると、消費電力も小さく抑えることができ、それに応じて、電源電圧も低く設定できるので、消費電力は飛躍的に小さくなって、現在に至っています。

また、ビット幅の広いパラレルのバスから、シリアル化することによって信号の本数を減らす方向に向かいました。PCI から PCI-Express、ATA から SATA などです。信号振幅が低いことと、本数か少なくなったため、消費電力の増加はほとんど問題なくなりました。

終端抵抗とは ~その2』では、終端抵抗を回路としての面からながめてみることとします。

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