ボードの断面図

ボードの寸法を決めるときに、縦、横、厚みは当然決めていると思います。縦と横とは装置のサイズによって決まるので、よほど余裕のある装置以外は寸法を指定します。厚みは、業界標準の 1.6 mm にするか、軽薄短小の装置なら、できるだけ薄く決めていることでしょう。

ボードの断面方向の寸法、すなわち、断面図については最初から検討せずに、でき上がりをチラッと見るだけで、あまり意味を考えない場合もあるのではないでしょうか。

ポードの断面寸法をじっくりと検討すると、いままで 6層板だったものが 4層板で実現できる場合もあります。今回は、この断面図をじっくり眺めることから始めます。

図1 はボードの断面図と関連するパラメータです。自由には選択できないパラメータもありますが、それぞれについて考えてみましょう。

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図1 寸法条件

A. 板厚

一般的なボードの板厚は、1.6 mm が業界標準です。この標準から外れると、挿入部品のリードの長さによってはリードがはんだ面に出なかったり、逆に出すぎてリード切断の工程が必要になる場合もあります。ボード自体がカードエッジコネクタになるようなメモリモジュールなどでは、標準厚に決めることは必須条件です。当然ながら、携帯機器用のボードは標準の 1.6 mm よりもかなり薄く設定します。この他に、ボードの強度や反りも同時に考えておく必要があります。

B. 層間厚(プリプレグ厚)

各層を積層する場合に、接着し距離を保つために用いるのがプリプレグという材料です。ガラスからできたガーゼのような繊維に半硬化のエポキシ樹脂を含浸させたシートのことで、生八橋のようなものです。熱硬化性を持つので、積層して加熱・加圧することによって硬化します。厚みはガラス繊維の厚みにより一定に保たれますが、このガラス繊維の厚みが自由にかつ連続には選べないので、例えば 50 um を 2枚使用すると、100 um というように不連続にしか選べません。

C. 表面導体厚

一般に、ボードに用いる導体の厚みは 18 um か 35 um です。前者を 1/2 オンス銅箔、後者を 1オンス銅箔といいます。1 平方フィートの重さが 1 オンスという意味です。(脚注
なお、表面層は一般には 18 um 銅箔を使用していますが、スルーホールめっきが施されるので、仕上がりの導体厚は 40 um 程度になります。

D. パターンギャップ

クロストークの量を決定します。回路定数によっても変わるので一概には言えませんが、クロストークの尺度としてクロストーク係数 ξ(ξ:ギリシャ文字小文字のクサイ)を考えます。ξ は通常、0.1 ~ 0.3 程度です。

特性インピーダンス

スペシャリストコラムの 『ボードの特性インピーダンスの決め方』 で述べたように、ポードの特性インピーダンスは、通常 50 ~ 60 Ω に選んでいるようです。「ようです」というのは別にこの値でなくてもよく、30 ~ 40 Ωや 70 ~ 80 Ω という選択肢もあるでしょう。低く選べばダンピング抵抗が不要になるし、クロストークノイズも低減できます。ただし、線路を伝搬する波の振幅(電圧)は特性インピーダンスと伝搬する電流との積ですから、特性インピーダンスが低くなると電流が増加して、同時スイッチングノイズは増加します。高く選べばその逆に、同時スイッチングノイズは低減できますが、大きなダンピング抵抗が必要となり、クロストークノイズも増加します。その両方の妥協点として、また、作りやすさから 50 ~ 60 Ω が選ばれていると思います。

断面寸法を決めるパラメータ

ポードの断面寸法を決める際は、特性インピーダンスとクロストーク係数がキーのパラメータです。この値を最初に決めてから、パターン間隔やグラウンドからの距離を変えて最適な寸法を決定します。出来上がった寸法から、これらのパラメータを求めて設計を始めるのではなく、最初に決めておくことが重要です。

検討例

特性インピーダンス Zo を 50 Ω、クロストーク係数 ξ を 0.15 としたときの表面層を考えます。比誘電率 εr(ε:ギリシャ文字小文字のイプシロン)はボードメーカによって異なりますが、εr = 4.7 に選んでいるケースが多いようなので、この値を使います。変化できるパラメータは、パターン幅 W、パターン間距離(ギャップ)G、グラウンドからの距離 h、それに、パターン厚 t も対象となります。

表面層の場合に、パターンの上を覆うソルダレジストの厚みもわずかながら特性に影響を与えますが、ボードメーカで標準の仕様があるので、ここでは考慮しません。ここでは、パターンの上を 10 um 覆うようなソルダレジストを想定します。このパラメータのうち、h は前述のようにプリプレグ厚で決まるので、自由に連続には選べません。

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図2 グラウンドからの距離とパターン幅

まず、第一段階として、1本線路のパターン幅 W とグラウンドからの距離 h とを決めます。図2 は、t = 40 um として h を変化させたときの W と G とを求めたものです。パターンの断面はエッチングの影響により、上底がやや小さな台形になりますが、ここでは簡単のために矩形とします。 矩形の場合には Zo は 50 Ω で、上底が 116 um、下底が 126 um の場合には 50.6 Ω になるので、せいぜい 1 % 程度異なるだけです。この検討段階で精度を求めて計算しても、ボードメーカではその結果は参考程度にとどめて、製造プロセスによる補正を加えているので、細かい精度自体が無意味と考えてください。

表1 は検討結果をまとめて表示しています。

表1 検討例
  t (μm) W (μm) G (μm) h (μm) Z0(Ω) ξ area
40 126 155 100 50 0.15 1
100 162 100 55 0.87
100 131 80 49 0.68
295 245 200 50 3.69
9 75 75 50 49 0.125 0.28

areaは (W+G)2 W/G=126/155で正規化

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図3 断面の例

まず、①の例を図3 (a) に示します。通常のボードでは W ≧ 100 um に選ぶので、h を50 um の倍数から選ぶと、h = 100 um、W = 126 um となります。このときに、ξ = 0.15 とすると G = 155 um となります。W はできるだけ小さく選びたいので、②のように W = 100 um とすると Zo = 55 Ω になり、ξ = 0.15 のときに、G = 162 um となります。Zo が当初の設定値より 10 % 大きいのでそれを許容しなければなりませんが、ダンピング抵抗をやや大きくする解決策はあります。

③は Zo を大きくしない解決方法です。グラウンドからの距離 h を 50 um の倍数ではなく 40 um の倍数にできるならば、W = 100 um、G = 131 um、h = 80 um という解もあります。

④は、図3 (b) のように、1 mm のコア材を用いて板厚を 1.6 mm にするなら、h は 200 um というようにあまり考えずにパラメータを決めた例です。W は 295 um、G は 245 um となってしまいます。同図の area の列は、正規化したときの 1本の線路の占有面積を示します。②や③はやや改善されますが、何も考えずにパラメータを決めると、3.7 倍もの面積を必要とします。

実装密度の改善

表1 の ⅴ は、図3 (c) のように、t を 9 um に選んだ場合の例です。 パターン厚が薄くなればパターンの微細化および間隙の微小化も可能になるので、W/G = 75/75 um は実現できるかもしれません。このときの占有面積は、ⅰ の 28 % で、クロストーク係数 ξ も ⅰ よりも小さくなります。
t = 9 um の銅箔は、UTC (Ultra Thin Copper) といって実用化されています。表面層のパターンはめっきにより厚くなりますが、スルーホール部分だけにめっきを施す選択めっき、または全体に施されためっきをエッチングや研磨によって削り取れば、実現可能です。
パターンだけの実装密度が 3倍になれば、8層板が 6層板に、6層板が 4層板になって、パターン厚を薄くするコストを埋め合わせて、それ以上のコストダウンが図れるかもしれません。いちど検討してみる価値は十分にあると思います。
図3 の (a) ~ (c) を比較してみると実装密度の違いが明らかになると思いますので、是非一度、事前に十分に検討してください。

脚注

このオンスという単位は通常 28 g ですが、宝石や貴金属などはトロイオンスと言って 31 g です。銅の場合、どちらを使っているかというと、銅の比重の 8.95 と 1 フィートが 30.48 cm で求めると、t = 35 um のときに 29 g なので、常用オンス(28.3 g)なのか、トロイオンス(31 g)なのかははっきりとは断定できません。本来は SI 単位系を使うべきで、日本国内で 1オンス銅箔とか言わずに、35 um 銅箔(1オンス)というようにヤード・ポンド法を括弧書きで表すべきでしょう。いつもこの話題になると、アメリカだけのためにこのような変な単位を使わなければならないことを嘆かわしいと思っています。



銅に限らず、シートの厚みは重さで表すことが多いです。例えば、紙は 1平方メートルの原紙 1,000枚のときの重さで規定することが多く、オフィス用紙は一般的には 64 kg です。

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