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ここまで来たか 低ノイズ スイッチング・レギュレーター「Silent Switcher 3」

スイッチング・レギュレーターはノイズが大きいため、ノイズを嫌う回路では後段にLDOを加えるのが一般的です。しかし、LDO を追加すれば効率が低下し、設計の負担も増えてしまいます。「低ノイズのスイッチング・レギュレーターがあれば、LDO を置かなくて済むのに」と考えたことはありませんか?

実は、アナログ・デバイセズから、これまでにない超低ノイズのスイッチング・レギュレーター「Silent Switcher 3」が提供されています。この製品は、ノイズ対策として LDO を追加していた回路や、低ノイズかつ大電流が求められる回路に最適です。

ここでは、「Silent Switcher 3」の特長やメリット、ラインナップを紹介します。

スイッチング電源の課題

EMI ノイズの原因は、ホットループ上の急激な電流変化やスイッチング時のリンギング

一般的なスイッチング・レギュレーターでは、スイッチング動作時にホットループでリンギングが発生し、ノイズの原因となります。ノイズ低減のために、フィルターや機械式シールドを採用することも可能ですが、それによってコストの増加や基板面積の拡大につながるという課題があります。

 

またノイズに敏感な回路では、後段に LDO を追加してノイズを低減する手法が一般的ですが、IC の発熱、効率の低下、部品点数の増加などの課題があります。

 

こうした課題を解決できるのが、アナログ・デバイセズの低ノイズスイッチング・レギュレーター「Silent Switcher 3」です。低周波ノイズを大幅に削減し、ノイズに敏感な回路にも LDO なしで使用できます。

Silent Switcher とは?

Silent Switcher」とは、アナログ・デバイセズ独自の超低ノイズ DCDC コンバーターのアーキテクチャーです。「低 EMI」、「高効率」、「高いスイッチング周波数」をトレードオフなしで実現します。

Silent Switcher の基礎技術

第1世代である「Silent Switcher 1」には、以下の技術が採用されています。

・ボンディングワイヤーをフリップチップに変更し、リンギングを抑制

ボンディング・ワイヤーと銅ピラー
一般的な IC の配線は細く長いので寄生L成分が発生しリンギングの原因に。
Silent Switcher は配線を太く短くし、寄生L成分を最小限に!

一般的な IC の配線に使われるボンディングワイヤーは、細く長いため寄生インダクタンスが大きく、リンギングの原因となります。Silent Switcher 1 はボンディングワイヤーを使わず、フリップチップ接続を採用しています。太く短い銅ピラーによって、寄生インダクタンスを低減し、リンギングを抑制します。

・ホットループを 2つに分割し、磁界の閉じ込めに成功

ホット・ループを 2つの小さいループに分割することで高調波のエネルギーを低減。2つのループで磁界を閉じ込めることで、EMIの伝搬を防止
入力端子を左右対称 2つ設け、緑と青のホットループが赤の磁界を発生させる。
その磁界が EMI ノイズを閉じ込める

ノイズの発生源となるホットループを、2つの小さいループに分割し、IC を囲むように配置することで磁界を閉じ込めることに成功し、EMI の伝搬を防止しています。

・高いスイッチング周波数においても高効率であるため、回路の小型化を実現

スイッチング時の電力損失を最小限に抑える内部スイッチ・ドライバーを搭載し、高速かつクリーンなスイッチングエッジを実現しています。

 

Silent Switcher は、ノイズ規格で最も厳しい CISPR25 Class5 にも適合。電源設計におけるノイズ、熱、効率、サイズの課題を一挙に解決できます。

Silent Switcher 2

2世代の「Silent Switcher 2」では、入力コンデンサーがパッケージに内蔵され、PCB レイアウトの影響を排除しました。Silent Switcher 1 では外付けコンデンサーを左右対称に配置する必要がありましたが、Silent Switcher 2 ではその制約がなくなり、シンプルで省スペースな設計を実現できます。さらに、入力コンデンサーを内蔵することでホットループがより短くなり、ノイズ性能が向上しました。

Silent Switcher2 は、入力コンデンサーを内蔵することで、PCB レイアウトによる EMI への影響を排除
入力コンデンサーを内蔵することで、PCB レイアウトによる EMI への影響を排除

Silent Switcher 3

3世代となる「Silent Switcher 3」は、Silent Switcher 2 までの特長に加えて、「低周波ノイズ (10Hz-100kHz) の低減」と、「超高速過渡応答」を実現しました。

Silent Switcher 1, 2 の技術を踏襲し、さらに低周波ノイズと超高速過渡応答に対応した Silent Switcher3

Silent Switcher 3 は、市場トップクラスの超低ノイズ LDO であるアナログ・デバイセズの「LT3045」の電流リファレンス技術を応用しています。従来のノイズ成分が多いバンドギャップリファレンスを電流リファレンスに変更し、低周波ノイズの大幅低減に成功しました。これにより、スイッチング・レギュレーターでありながら、LDO に匹敵するノイズ性能を実現しています。

業界 No.1 の低ノイズ LDO「LT3045」に採用している電流リファレンス方式を Silent Switcher に応用!
業界 No.1 の低ノイズ LDO「LT3045」に採用している電流リファレンス方式を Silent Switcher に応用!

Silent Switcher 3 の特長

具体的に、Silent Switcher 3にはどのようなノイズ特性があるのでしょうか。下の表は、10Hz から 100kHz の低周波ノイズについて、Silent Switcher 3 の「LT8625S」と、他のソリューションを比べたものです。LT8625S のノイズは Li-ion バッテリーとほぼ同等であり、一般的な LDO と比べても圧倒的に低ノイズになっています。

Integrated Noise from 10Hz-100kHz
LT3045(業界最低ノイズLDO) 0.8μVRMS
リチウムイオンバッテリー 2.7μVRMS
LT8625S (high bandwidth) 2.7μVRMS
LT8625S (low bandwidth) 3.7μVRMS
一般的な低ノイズLDO 約4μVRMS
LT8643S (SS2 in unity gain fb) 123μVRMS

DCDC なのに、LDO よりも低ノイズでバッテリーと同等

LT8625S、LT3045 とのノイズ密度を比較
LT3045 は、市場で最も低ノイズな LDO の1つです

右の図は、LT8625S のノイズ・スペクトル密度を、市場トップクラスの超低ノイズ LDOLT3045」と比較したものです。特に低周波数帯では、LT8625S LT3045 とほぼ同じ特性を持っており、ノイズ性能に優れていることがわかります。

・ノイズに敏感な RF 電源にも使用可能

Silent Switcher 3 は、ADF4372 のような PLL などのノイズに敏感なRF用電源にも使用可能
ADF4372:16GHz の PLL 周波数シンセサイザー。
5V 電源に Silent Switcher 3 (LT8625SP)、3.3 V電源に LT3045 を採用した評価ボード

Silent Switcher 3 は優れたノイズ特性を持つため、これまでスイッチング・レギュレーターが使用が難しかった、ノイズに敏感な回路にも適用可能です。

 

例えば、従来スイッチング・レギュレーターから PLL デバイス に直接電源を供給することは困難でした。しかし Silent Switcher 3 なら、外付けの第2LC ポストフィルターを追加するだけで、超低ノイズ LDOLT3045」とほぼ同等のノイズ性能を実現できます。これにより、PLL デバイスなどの GH z帯の電源として使用可能です。

ADF4372の電源を5V、3.3VいずれもLT3045で組んだ場合のノイズ波形

 5Vも3.3VもLT3045で組んだ波形が青色。
LT8625SPを使用すると一部周波数(数10k~数100kHz)のみ多少悪化する

ADF4372の5V電源に外付けLCポストフィルターを追加するこでノイズを大幅に低減

 外付けにLCポストフィルターを追加するこで、LT3045×2とほぼ同等の性能に。GHz帯の電源としても使用可能!
※LT3045ADI一番低ノイズなLDOです

・LDO不要で、省スペース化・コスト削減を実現

Silent Switcher 3 を採用するメリット:従来 DCDC→LDO で組んでいた回路を DCDC ひとつで実現が可能

Silent Switcher 3 を活用すれば、LDO を追加することなく、低ノイズの電源を実現できます。例えば従来「DC (12V) → DCDC(中間電圧6V→ LDO (5V)」のように 2段で構成していた回路を、「DC (12V) → Silent Switcher 3 (5V)」のようにシンプルに構成できます。

 

LDO が不要になり、部品点数の削減、設計の簡素化、省スペース化、コスト削減が可能になります。

・低ノイズかつ大電流が必要な回路に最適

Silent Switcher 3 は、大電流かつ低ノイズが要求される回路に最適です。

 

LDO の特性上、大電流では電力損失が大きく、発熱が問題となります。従来、低ノイズが要求される大電流回路では、放熱特性の良い高性能 LDO を採用するか、外付けのヒートシンクを追加する必要があり、コストや基板面積が増大していました。

 

Silent Switcher 3 は高効率と低ノイズを両立しており、大電流でも IC の温度上昇を抑制できます。ヒートシンクの追加も不要で、部品点数の抑制や省スペース化に貢献します。

Silent Switcher 3 は、低ノイズが必要だが消費電流の大きい箇所に最適!

周囲温度が 40℃、Tj=100℃ 以下で設計しようとすると、θjA×2.04W+40℃=100℃

θjA(100-40)/2.04W=29.4/W

放熱特性の良い大電流を流せる LDO を採用するか、ヒートシンクを実装する必要性あり。

DCDCのため高効率で電流も流せ、SilentSwitcher3はノイズも小さい!

θjA=46℃/W

46℃/W×0.3W+40℃=53.8

100℃に対してマージンも大きく、ヒートシンクは不要!

・高速過渡応答に対応し、5μs未満で0.2%以内にセトリング

Silent Switcher 3は、超高速過渡応答に対応し、FPGARFトランシーバーなどの電源にも適しています。

 

近年のFPGARFトランシーバーは電源の要求が厳しくなっており、過渡応答が不十分な場合、電圧が規定値から逸脱し、誤動作を招くリスクがあります。

 

Silent Switcher 3は、5μs未満で0.2%以内にセトリングできるため、高速過渡応答が求められるデバイスに最適です。

Silent Switcher 3 の動的負荷
Silent Switcher 3 の静的負荷

Silent Switcher 3 ラインナップ

Silent Switcher  3 のラインナップは以下のとおりです。高効率と低ノイズを両立したソリューションがそろっています。

型番 Vin (V) Iout (A) パッケージ
LT8622S 18 2 4×3 LQFN ピン互換
LT8624S 4
LT8625S/SP 8
LT8625SP-1 8 4×4 LQFN ピン互換
LT8627SP 16

LT8625S のパッケージ

LT8625S の LQFN パッケージ

LT8625SP のパッケージ

SP 型番:周囲温度が高いアプリケーションにおいて、オプションでヒートシンク・アタッチが
可能な Exposed Die Top パッケージ(上面Exposed Pad)
なお定格出力電流の達成にヒートシンクは不要です。

いずれも評価ボードをご用意していますので、ぜひ一度お試しください。

 

今回は、これまでにない低ノイズを実現した、アナログ・デバイセズのスイッチング・レギュレーター「Silent Switcher 3」を紹介しました。

 

ご興味をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。

アプリケーション例

  • 低ノイズ計測器
  • 高速/高精度 ADC/DAC
  • 5G 用インフラ装置
EMI に敏感な低ノイズ計測器

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